317,今年初めての授業参加
気持ちのいい風が吹き抜ける屋外運動場で、杖を持ち上げてグーっと伸びをする。
学年が上がって一週間ほどが経った今日、私は第一選択である攻撃魔法の授業に参加していた。
近々遠出の練習がてらにヘリオトロープまで行くから、ロイとシャムは日程組んだりするのに忙しいんだよね。
私とリオンはそのあたりを全て任せきってしまっているから暇で授業に出ている、というわけだ。
流石に申し訳ないし何か手伝おうかと思ったんだけど、道中は私たちの方が警戒したり戦闘したりで大変になるからって断られてしまった。
「セルリア先輩!」
「おー、グラシェ。今日も元気だねぇ」
ぐいぐいと身体を伸ばしていたら元気な声が響いて、グラシェが駆け寄ってきた。
なんだかんだ一週間も授業出てなかったから、二年生たちもやる事は決まってきたころかな?
女の子たちがキラキラした目でこちらを見ているのは、気付かないふりをしておこう。
「飛行魔法の進捗は?」
「筋肉痛が凄い!」
「おお、頑張れ」
「でもなんか、乗馬のタイム良くなった気がする。今年中には飛べるようになりたいなぁ」
「魔法自体は安定してるから、身体出来上がればすぐ飛べるよ」
頑張っているようで何よりだ。
話している間に鐘が鳴って、ノア先生がやってきた。
グラシェはそのまま指示を受けて離れて行き、授業に参加している四年生だけが残る。
「出席証明書は持って来ましたか?」
「はい」
「日付と名前、それから科目名を記入してください。一度回収して、授業が終了したら返却します」
言われた通りに記入を終えて、紙を先生に渡す。
その後はいつも通り各自指示を受けて魔法の練習だったり習得だったりをするんだけど、私は最後に回された。
なんか新しく面倒な魔法でもやるのかな?
難呪はもう勘弁してほしいんだけどなぁ……
なんて考えが伝わったのか、先生がにっこりと笑った。それ、嫌な予感をさせるのが主な効果なんでやめた方がいいと思いますよ。
「トータモスの討伐に行ったと聞きましたが、どうでしたか?」
「聞いてください。大穴開けて来ました」
ニコニコしていたのは、トータモスの討伐に行ったと聞いたかららしい。
行ったら風の槍を試すって分かってたんだろうなぁ。
実際試したし、甲羅に大穴を開けて大盛り上がりした。
「素材には出来なさそうですね」
「怒られるかなって思ってたんですけど、むしろ粉にしたのが欲しかったからもうちょっと砕いてって言われました」
「それで翌日もギルドに……」
「頑張ってきました」
報酬は出たしまあいいかなって感じだ。めっちゃ大変だったけど、いい練習になった気もするし。
そんな感じでこの一週間の報告をして、指示を受けて人から距離を取る。
杖を回して風を起こし、地面から一メートルくらい浮き上がった。
ふわふわと浮きつつ風の流れるままに身体を回転させ、空中で一回転してから体の向きを元に戻して杖を構える。
息を吸い込んで唱えるのは水と氷の複合魔法。わざわざ浮いているのは、そういう指示を受けているからだ。
戦闘時に浮いてることが多いから練習も浮いたままやりましょうか、と言われた。
まあ、確かに浮いてること多いしなぁ。
浮いてるだけで避けれる攻撃も多いし、リオンの邪魔をしないようにとか当てないようにとか考えると上から降らせた方が楽なんだよね。
「どこに撃とうかな……」
練り上がった魔法を浮かせて、上から周りの状況を確認する。
うーん……霧散させてもいいんだけど、威力の確認したいんだよね。
とりあえず人がいないところで、周りに被害が出ないところ。……林の前のギリギリを狙うか。
「そーれっ」
放った魔法は地面を削り、丸い穴をあけて霧散した。
……こんなもんか。もうちょいいけるかと思ったけど、あんまり深くならなかったな。
とりあえず穴の中に溜まった水を風で乾かし、穴は周りの地面と均すことで元通りに……なってほしいな。
私地属性の魔法あんまり得意じゃないんだよねぇ。
風と相性があんまりよくないってのもあるけど、重いんだよなぁ。地って。
私は軽ければ軽いほど扱いやすいと感じるタイプなので、地とか木とかは重くて苦手。
「埋め立てられましたか?」
「うわぁ!?びっくりした……ちょっと窪みましたゴメンナサイ」
「大丈夫ですよ。もっと大きく抉れることもありますから」
急に声をかけられてビックリして飛び上がってしまった。
返事をしながら地上に降りて、私では戻しきれなかった地面を眺める。
そのうち直すから今は放置でいいらしい。先生たちの属性ってあんまり気にしたことなかったけど、地属性の先生も居るんだろうからその先生が直すのかな。
手間を増やしてしまって申し訳ない。でもそんなにでかい窪みじゃないから許してほしい。
自分が壊した地面くらいは直せるようになった方がいいかなぁ。
地属性を扱えるようになるか、別の手段で直せるようになるか。どっちが早いだろう。
「威力としてはそれなりでしたね」
「思ったより弱かったです」
「そうですね、練度と言うよりかは別の魔法の印象に引っ張られているように見えました」
「別の……氷と水の複合魔法って多いからなぁ……」
とりあえず、一回魔法の完成形を見直してみるか。
他の何と認識がごちゃごちゃになっているのかは分からないので、こっちを正しく認識しないと威力は上がらないだろう。
風を起こして身体を浮かせ、空中で身体を丸めてぼんやりと演唱を思い出す。
ついでにツルバミさんが使っていた気がするなぁと古い記憶を引っ張り出してきて、そのままもう一度演唱を声に出した。
空中で丸まったまま魔法を練り上げて、さっきより大きい気がするなぁと思いつつ練り上がった魔法を保って姿勢を戻す。
そして手の上の魔法を先ほどと同じところに放って、そっと地面に降りて開いた穴を見下ろした。
「……変わってないな」
流石に二回目で威力が変わるほど単純じゃないから、これはまあ仕方ない。
同じように水を乾かして地面を均してもう一回考える。
やっていれば他と同じように威力は上がるだろうけど、多分間違ったまま進むことになるので修正を先に済ませたい。
……まあ、急ぎじゃないしそのうちガルダとか行った時にツルバミさんに見せてもらうかなぁ。
あの人水と氷なら何でも使えるし、ノリノリで高威力魔法見せてくれるでしょ。
なんて考えつつとりあえずもう一回練ってみることにした。
最終的には五回ほど考えながら魔法を練って地面を削ったところで授業時間が終わり、修正はうまく行かずに持ち越しとなったのだった。




