314,どうしたって暇
晴天の空を眺めて、雲が一つも無いなぁと少し残念に思う。
雲一つでもあると無いととでは暇つぶしの有効時間が随分と違うからね。
まあ、流石にまだ無心で雲を眺めるくらい暇つぶしに困っても居ないから今はいいか。
今日はどうしたって暇な、入学式の日である。
既になんか長い話をする人は二人目に突入しているけれど、正直まだ二人目かぁという気持ちでいっぱいです。だってこの後まだ何人もいるんでしょ?
そっと目線を動かせば、一人目の途中で眠りに落ちたリオンの頭。
そこからスーッと横に視線を動かしていくと、寝ているリオンに向かって何かを唱えているヴィレイ先生と横で笑っているノア先生。
……あ、起きた。結構ビクッてしたけど声とか音とか一切出てないのは、ヴィレイ先生が何かしたからなんだろうな。
警戒してたから笑わなかったけど、一切何も考えずに見てたら笑ってたかもしれない。危ない。
「……んふ」
ちょっと堪えきれなかったけど、周りには気付かれてはいなさそうだからとりあえずセーフってことでね。
なんて思いつつ先生たちの方を見たら、ノア先生がニコニコしながら手を振っていた。
私が気付いてることにも気づいてたんだろうなぁ。
先生たちは魔法使ってるのかな。まあ、なんか唱えてたしそうなんだろうな。
いいなぁ、私もリングでちっちゃく風作っていいかなぁ?あ、首振られた。駄目らしい。
駄目なのかぁ。そんな派手なことはしないですよ?まあ、駄目だって言うなら大人しくしときますけども。
ふっと小さくため息を吐いて少しだけ背筋を正し、風に煽られた髪を押さえる。
なんか、さっきから風に魔力が混ざってる感じがするんだよなぁ。
誰かが魔法を使っているって感じではなくて、多すぎる魔力が零れてるって感じだ。
少なくとも今まで学校でこれを感じたことはないので、新入生の誰かしらの魔力だろうか。
先生たちが放置してるってことは大丈夫なものなんだろうし、そういう種族かな?
これだけだと属性の特定とかは難しいんだよなぁ。でも暇だしちょっとやってみよう。
んー……火ではないな。水、っぽくはあるか。光とか闇ではなさそう。音も違う。風も……違うかな?氷も違う感じ。なんだろなー。木かな?地かな?そこら辺の感じだ。
「……ふぁ……」
欠伸を噛み殺して、多分木か地だな、と結論を出す。
……あ、鳥が飛んでる。結構デカい。上の方を飛んでるけど、どこに行くんだろう。
あの方向だと森の方かな?結構な速度で飛んで行ったので、もう見えなくなってしまった。
なんてやっている間に壇上の人は入れ替わっていたけれど、それでもやっぱり話は長い。
何をそんなに話してるんだろうなぁ。聞こうかと思ったけどあんまりにも興味なくて数秒間に何言ってたか忘れるから文章で認識できないんだよね。
何を話してるのか理解するのは諦めて、とりあえずノア先生の方を見る。
先生はすぐに気付いてにこりと笑った。視線への反応が早すぎやしませんか?
やっぱり先生たちって歴戦の戦士か何かなのかなぁ。
「……ん」
冒険者登録してる先生も多いって言ってたしなぁ、なんて考えていたらノア先生が何かを見つけたのかどこかを指さし始めた。
先生の指さす先を見てみると、そこには先生が餌付けしているモノ君という猫が座っている。
塀の上に座ってじっと壇上を見ているのは中々可愛い。
あんな長い話を真剣に聞くなんて、私より真面目な猫だなぁと思って見ていたら、モノ君は欠伸をして毛繕いを始めた。
しばらく丁寧に毛繕いをして、塀の上に前足を伸ばして伏せて目を閉じた。
寝たみたいだ。塀の上なのは日が当たって温かいからなんだろうな。
私もお昼寝したいなぁ。……リオンはまた寝たみたいだけど、ヴィレイ先生は二回目は起こすんだろうか。
……あ、ため息吐いてる。放置するのかな?
と、先生の方を見たりリオンの方を見たりモノ君を眺めたりしている間に、長い長い話はようやく終わった。
終わりの挨拶を聞いて、ぐっと伸びをして立ち上がる。
そして小さな氷を作ってまだ寝ているリオンの首元に当てた。
「うおっ」
「おはようリオン。終わったよ」
「おー……やべ、ヴィレイせんせーが来る」
「大人しく怒られろー。一回起こされたのにその後も寝てたんだから」
「見てたのかよ……」
話していたら後ろに人の気配がしたので、そっと横に避けて場所を譲る。
そのままその場でヴィレイ先生に怒られているリオンを眺め、そういえばシャムとロイはどこだろうかとちょっと周りを見渡した。
……あ、居た。こっちに歩いて来ているみたいだ。とりあえず手ぇ振っとこ。
リオンはなんか余計なことを言ったみたいでお説教がちょっと長くなった。
何を言ったんだか。私がちょうどシャムたちに意識を向けているちょっとの時間に的確にお説教を延長しやがって。
「何してるとこ?」
「リオンが怒られてるとこ」
「眠いのは分かるけどね」
「分かるだろ?」
「だとしても寝ているのはお前くらいだ。抵抗の素振りも見せずに寝るな」
「うっす……」
私たちが揃って眺めていたからなのか、ヴィレイ先生はお説教を切り上げて去って行った。
多分私たちがこの後街に出るのとかもなんか察してるんだろうな。
入学式の後は一年生が校内を巡ってるから、他の学年は外で遊んでるほうが都合がいいんだよね。
「うし、行こうぜー」
「切り替え早」
「反省してなさそう」
「してない訳でもねえけどさ、どうしたって眠いだろあれ」
「分かる」
「セルちゃん今回は何してたの?」
「猫見てた」
話しながら門を通り抜けて大通りへ向かう。
今日買いたいものは出席証を入れとく箱と、私はレターセット。シャムはペン。
ロイは本屋に寄りたいって言ってたかな。まあ、いつも通り大通りをぶらぶらしていれば大体揃うだろう。
「そういえば、入学式の最中に風に魔力が乗ってたんだけど、新入生でそれっぽい子っていた?」
「そんなのあったか?」
「僕は気付かなかったかな」
「魔力には気付いてたけど、魔力源までは探せなかったなぁ」
やっぱりあれだけの人数が居るとその中から探し出すのは難しいか。
私は属性予想してたからってのもあるけど多分全力で探してても見つけられなかっただろうしなぁ。
まあ、そのうちどっかで見かけるかもしれないしそれを楽しみにしておこう。
一年生と四年生が関わること、まずないんだけどね。
他の学年とは第一選択とかで会うことあるけど、一年生の授業は選択無いし。
研究室も実質三年生が最高学年で四年生はたまに遊びに来るくらいのテンションらしいしなぁ。そもそも私、研究室所属してないんだけどね。




