313,四年生の過ごし方
教室の自分の席について、本を開いて鐘が鳴るのを待つ。
今日は四年目の最初の授業の日。休み明け恒例の各種確認がある日だ。
多分四年生の過ごし方的なことも説明されるんだろうと思っている。
リオンは朝食の時間には起きてこなかったのだけれど、まさか初日から寝坊するんだろうか。
起こしに行っても良かったんだけど、別にいいかぁと思って放置してきちゃったんだよね。流石に起きるかな、って。
考えながら本を読んでいたら、目の前に影が落ちた。この距離に来るのは私に用がある人だけだろう。そして私はそこまで友人が多くないので、来た人は大体予想がつく。
「おはようリオン」
「おー。おはよ」
「初日から寝坊するのかと思ったよ」
「普通に寝過ごしそうだったわ」
流れるように私の前の席に座ったリオンの跳ねている前髪に手を伸ばす。
どうやったらそこに寝癖が付くんだ……全然取れない。濡らしたろかな。
小さく水を作ってリオンの髪を濡らし、風を起こして前髪を乾かす。
「よし」
「満足か?」
「うん。なおった」
無抵抗なリオンの前髪を直し終わったところで、鐘が鳴ってヴィレイ先生が教室内に入ってきた。
席を移動していた人たちが一気に動き始め、リオンも自分の席に戻って行ったので私も大人しく魔法を霧散させる。
「全員居るな。始めるぞ」
移動が終わったのを確認して、ヴィレイ先生は手に持っていた冊子のようなものを教卓に置いた。
珍しく全員揃っていたみたいだ。休み明けの初日って、なんだかんだ学校に戻ってきてない人とかも居るからね。
「お前たちの今年の日程はかなり特殊になる。必要に応じてメモ等取りながら聞け。
……まず、四年生は授業出席が自由になる。出席した場合は、科目担当の教師から書類に判を貰うように。書類はこの後に配る。足りなくなれば教務室で渡すが、無くさないように。
次に、月末には教室で出席を取る。その際にひと月分の授業出席証を回収する。学校外での活動で月末に戻れないことが確定している場合は、先に書類を提出しろ」
一度言葉を切った先生が顔を上げ、質問が無いことを確認して手元に目線を戻した。
なんか、思ってたより自由度が高いみたいだなぁ。月一で戻ってくればいいのか。
まあ、流石にもう少し何かしら制限があるんだろうけど、今聞いた内容だとどこにでも行っていい感じがある。
「学校外に出る場合は、目的と行き先を書いて提出してもらう。この用紙は中央施設にあるので、必要に応じて教員に声をかけて持っていけ。
複数人で出る場合は連名で提出できるので用紙は一枚でいい。詳しい書き方はこの後説明する」
そう言って、先生が一枚の紙を持ち上げて見せる。
ギルドで書く仮パーティーの申請書みたいだな。ああいうかっちりした書類ってなんか書くのに時間かかっちゃうんだよね。
「授業以外にも教師の個人的な研究の手伝いを頼まれる場合もある。その場合は別の書類を受け取って、それも月末に提出するように。
月末の書類提出と学校外での活動記録をもって四年目の授業とする。
自分から動かなければ何も起こらない年になる。卒業後に何をするかも頭に入れてどう過ごすかを決めろ」
その後質問タイムがあったけど、ちょっと色々かみ砕いて飲み込むのに時間がかかって何も質問とかは出てこなかった。
他の人も同じ感じなのか、とりあえずやってみて分かんなかったらその時に聞こうって空気になっている。
この後は休み明けに毎回ある各種確認の時間になったのだけれど、なんか前より一人一人に時間がかかっているような気がする。
まあ、好きに過ごしてていい時間だから別にいいんだけど、何かそんなに確認することがあるんだろうか。
「セルー」
「なにー?」
ボーっと考え事をしていたらリオンが前の席に移動してきていた。
この席の主とリオンは、こうして三年間お互いの席に移動し続けた結果仲良くなっていたりする。
交流ってどこから生まれるか分からないね。ソミュールの席の近くの人とミーファもちょっと仲良くなってるから、あるあるなのかもしれない。
「書類とか全然分かんなかったんだが」
「実際見て見ないとねー。まあ、とりあえず授業出たらちゃんと判子貰って書類出しなって感じじゃない?」
「無くさねぇようにどっか一か所に纏めといた方がいいか……?」
「そうねぇ。なんか箱とか買いに行く?ロイとかシャムとかいい箱知ってそう」
「そうだなぁ。無いと何枚か無くすわ俺」
私もちょっと不安だし、管理は楽な方がいいからね。
研究職組はそのあたりのことに詳しそうなので、あとで聞いてみて箱買いに町に行こう。
今日の午後は皆用事があるのかな?例年通りなら研究室に顔を出しているはずだけど……
「セルリア、来い」
「あ、はーい」
午後の用事を聞こうかと思ったところで先生に呼ばれたので席を立つ。
荷物は置いて行くけど……杖どうしようかな。特に弄っても無いし置いて行っていいか。
リオンに一応杖見てて、と声をかけて廊下に向かった。
「わあ、すごい量」
「授業の出席証明も纏めて配っているからな」
廊下には台が置かれて大量の紙が積んであった。
これの準備とかで忙しかったのかな。まあ、毎回休み明けは忙しいんだろうけどさ。
片付けの前に私に見られたら不味いものは退けたって言ってたけど、これがそうなんだろうか。
「お前の確認事項は、魔導器系を弄ったか、何か道具を増やしたか、荷物に妙なものは入っていないか、だな」
「魔導器は何にも弄ってないです。道具も……あ、旅の道具一式持って来ました。必要そうだし」
「そうか。……他は?」
「他は別に。特別変なものもなかったです」
旅の道具は質は良いけどとんでもない機能がついていたりはしない事をトマリ兄さんと一緒に確認しているので、安心して持ち込んでいる。
やっぱりこういう時はトマリ兄さんが一番安心出来るよね。
「参加する授業は基本的に去年と統一すること。何か新しく受けたいものがある時は報告しろ」
「選択式で取れなかった授業とか行っても良いんですか」
「構わんが、全てに出席するのは難しいぞ。その分理解も難しくなる」
「でも出たい……間はどうにかして埋めます……」
「なら、受けたい授業をリストアップしておけ。日程を渡す」
「わーい!」
「ひとまずこれが去年まで取っていた授業の日程だ。参加したいときは確認するように」
渡された紙には、確かに見覚えのある授業が並んでいる。
こうしてみると第一選択の時間って多いんだなぁ。単純に出やすいんだろうな。
それと一緒に出席の証明書も貰って、これで確認は終わりらしい。
書き方の確認もしたいけど、まずは受けたかった授業を纏めるところからかな。
まさか受けれると思ってなかったから今から楽しみだ。早速リストを作ってしまうことにしよう。




