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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
311/477

311,休みが明ける前に

 寮の部屋で欠伸を零し、顔を洗って着替えて髪を梳かしてハーフアップに纏める。

 杖を揺らしながら食堂に向かい、まだ朝も早い時間だし授業もないので人が全然居ない中でいつも座っている辺りに向かう。


 ボーっとしながらお茶を飲み、サンドイッチを齧る。

 今日は一応予定があるのだけれど、まだ時間があるから食べるのはのんびりだ。

 お茶が美味しいなぁ、なんてのほほんとしていたら正面にロイが来た。


「おはよぉロイ」

「おはようセルリア。眠そうだね?」

「お茶が美味しくてなんかのほほんとしちゃうよね」


 ぽへーっとしながらそんなことを言ったら、ロイに微笑ましそうに笑われてしまった。

 今日は正直末っ子成分多めになっている自覚があるので、特に文句は言わないでおく。

 家に居ると甘々に甘やかされているから、休み明けって自覚あるレベルで周りに甘え倒してるんだよね。


「今日はヴィレイ先生の手伝いだっけ」

「うん。休み終わる前に一回片付けてくる」

「ついに疑問も抱かなくなった?」

「……ああぁ!!ほんとだ……」


 言われて気が付いたけど、なんで私が片付けてるんだといういつもの疑問が最早すっぽ抜けていた。

 なんてこった。これを忘れてはいけないとずっと思っていたのに。

 ああぁぁ……と頭を抱えた私に、ロイがそっとデザートのオレンジを差し出してくれた。これは有難く受け取っておこう。


「もう四年目になるんだもんね。多少慣れもするよ」

「慣れたくなかった……えーん……」

「苺食べる?」

「食べる……」


 苺も貰ったのでそれを食べて心を落ち着ける。

 全く、ヴィレイ先生は来年以降どうするつもりなのだろうか。私は今年が最高学年だから、魔術準備室の片付けをするのは今年までなのだけれど。


「ロイの今日の予定は?」

「残ってる課題を片付けるよ。時間はかからないけどかさばるから置いて行ったんだ」

「へぇー。そんなのもあるんだ」

「指定された内容を調べて書き込むだけなんだけど、使う本が分厚くて持ち歩くのには不便でね」

「なるほど。鑑定の本と同じ感じ?」

「そうそう。そんな感じ」


 今回の休みは課題は少ないって言ってたけど、多分基準が違うんだろうな。

 まずもって戦闘職で課題って出ないしな。調べものも、そういう授業取ってないとやらないし。

 私は図書館に入り浸ってるから好きで勝手にやってるけどね。リオンとか調べ方が分からんって全てを投げ出してることあるからね。


 そんなことを話しながら朝食を食べ終えて、ロイと別れて一旦部屋に戻る。

 荷物の整理を軽く終わらせておきたいんだよね。授業が始まる前に中身を全部改めないといけないのがちょっと厄介だ。

 別に変なものは入れられないだろうって最終的に放置してる私も悪いんだろうけどさ。


「……うーっし。とりあえずおーわり」


 とりあえず全ての物を出して特別変なものは入っていなかったので問題はない。

 ちょうどいい感じに時間も潰れたので、杖を持って再び部屋を出る。

 向かう先は戦闘職の教室棟。歩きなれた廊下を進んで魔術準備室の扉をノックする。


「こんにちはー。ヴィレイせんせーい。埋もれてませんかー?」

「机は埋まっている」

「うわぁ」


 冗談のつもりだったのに、高く積みあがった書類の山があってちょっとガチ目に引いた声を出してしまった。

 忙しいのは分かりますけど、もうちょっとどうにかならなかったんですか。


「これ私見ても大丈夫なやつなんですか?」

「ああ。見せるべきでない物は既にある程度動かしてある」

「それが出来るならこの状況もうちょっとどうにかならなかったんですか」

「それとこれとは別の話だ」


 毎度恒例になりそうなくらい毎回文句言ってるんだけど、先生は全然聞く気が無いようなのでため息を吐いてとりあえず杖を壁に立てかける。

 代わりにリングに魔力を通して、物を浮かせられるくらいの風を手の上に作っておいた。


 この部屋はとにかく物が多いので、退かす場所もほとんどない。なので浮かせてしまうのが一番手っ取り早いのだ。

 まずはいつも通り棚の前を開けようかと思っていたんだけど、その前に机の紙山が崩れそうなのでそっちを軽く片付けることにした。


「先生はとりあえずそっちの棚の前を片付けて棚を開けれるようにしてください」

「分かった」


 片付けにおいては完全に私の方が立場が上になっているので、何も気にせずヴィレイ先生にも指示を出してせっせと片付けを進める。

 書類の内容は問題ないくらいに軽く確認して、学年ごとに分けていく。


 この辺をどうした方がいいかは前に確認してあるからね。

 伊達に三年もこの部屋の掃除をしていないのだ。不本意だけど、ヴィレイ先生より物の配置把握してる自信あるもん。


「本読んでないで片付けてください」

「ああ……」

「私はここを放置して帰ったっていいんですよ」

「分かった悪かった」


 言った瞬間に本を閉じて棚に向き直るくらいには私は重宝されているようだ。

 脅す前に本閉じて欲しいけどね。まず掃除中に開かないで欲しいけどね。

 そういうのは時間の余裕がある片付けの時じゃないと許されないんですよ?この部屋のどこに余裕があるとお思いで?


「……ヴィレイ先生、なんか封筒出てきましたよ」

「ん、そんなところにあったのか」

「無くしてたんですか……」

「この部屋にある事は知っていた」


 机の書類を全部退けたら、ぺしゃんこになった封筒が出てきた。

 中身が入っているのか怪しいくらい薄っぺらくなってるけど、まだ必要なものらしい。

 見つからなかったらどうするつもりだったんだろうか。


 とまあ、いつも通りあれこれ出てくる失せ物をヴィレイ先生に渡しつつ片付けを進めて、お昼前には棚を開放して出しっぱなしになっていた本やらなんやらを片付けて机に空きが出来た。

 とりあえずお昼ご飯を食べて、午後にも片付けを進めて今日で終わらせることにする。


 これが終わらないと他の作業が出来ない、って他の先生からも言われてるからね。

 私が片付けるのが当たり前だと思わないでください、と今日だけで五回は言った。

 お願いだから片付けておいてくれ、と数人から飴やらクッキーやらを貰った。


「本当に、来年以降どうするんですか」

「……さあな」

「いやちゃんと考えといてくださいよ」


 ダラダラと話しながら片付けを終えて、お駄賃に本を借りたのでそのまま準備室で読んでいく。

 椅子の上に積みあがっていた本もちゃんと片付けたから、ちゃんと座って読める。

 片付けないと椅子にも座れないの、本当にどうにかしてほしいよね。


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