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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
31/477

31,悪いことはしてません

 放課後になり、普段なら遊び場やその他用事に消えていくリオンに声をかけられて生活施設の奥、林の手前まで来た。

 今日の最終限は実技だったので、リオンは大剣を背負ったままだ。


「どうしたの?」

「いや、ちょっと気になったんだけどよ」

「うん。何?」

「魔法って切れんのか?」

「……まあ、気持ちは分かる。気になるよね」


 私もあこがれたことがあるので、本当に気持ちはよく分かる。

 剣で魔法を両断するって、かなり格好いいと思う。

 魔法使いが言う台詞ではないだろうけど、格好いいものに憧れる気持ちも普通に持っているので。


「セルって意外と男心分かってるよな」

「格好いい人はいっぱい見てきたからね」


 人並みに憧れるし、人はそれを少年の心と呼ぶらしい。

 女の子でも普通に憧れると思うのだが。

 私は姉さまがたまに着せられていたドレスと同じくらいの感覚で、格好いい剣士に憧れていたりした。


「んで、どうなんだよ」

「普通は剣が折れるよ。斬るならまず剣を魔法で鍛えることになるね」

「……これじゃダメなのかぁ」

「私が剣強化して私が作った魔法の球斬る?」

「それじゃセルの特訓じゃん」

「いくら魔法で強化しても結局は斬る人次第だよ」


 どうせやるなら、もう一人くらい誰か捕まえて巻き込みたい感じだ。

 とりあえずやってみるかと氷の欠片を作って浮かべてみる。

 リオンがそれに向き直って剣を構え、ふとこちらを見た。


「……普通剣が折れるって言ってたよな?」

「それはすごい脆く作ってあるから大丈夫だと思うけど……え、リオンの剣ってそんなに脆いの?」

「丈夫なの買ったつもりだけど……え、セルって剣の耐久値見れたりするか?」

「見れない分かんない。でも見せて」


 ほれ、と向けられた剣をまじまじと眺める。

 表面に細かい傷はついているが、ちゃんと手入れされている……と思う。

 正直に言えばよく分からない。何せ魔法使いなので。


 でもまあ、とりあえず私の氷程度で折れはしないだろうと思う。

 ので、それを伝えるとリオンは納得したように剣先を氷に向けた。


 リオンの振った剣が氷に当たる。

 カシャンっと軽い音を立てて氷が崩れ、それを確認して次の氷を作り出した。

 何度も繰り返している間に、リオンの集中力が上がっていく。


 こうなると、彼は気配に敏感になる。

 死角に氷を浮かべても即座に反応して壊してくるので、楽しくなってきてしまった。

 徐々に氷の数を増やしていって、生み出す速度も上げていく。


 楽しくなっていまった結果自制心というものをかなぐり捨ててしまったので、二人で芝生に倒れ込むまで氷の生成と破壊を繰り返してしまった。

 ……疲れた。でもこれ、結構いい特訓なのではないだろうか。


「お前たち、何をしているんだ?」

「あ、ヴィレイ先生。こんにちは」

「セルが作った氷壊してたんすよ」

「壊された傍から作ってたんです」

「……何をしていたんだ」


 いつも通り深いため息を吐いた先生は、どうやら私がはしゃぎすぎてここだけ魔力量が変わったからと見に来たらしい。

 それは申し訳ないが、反省はあまりしていない。


「……そういや、最初の話からズレてんな?」

「一応繋がってはいると思うけど」


 身体を起こしつつそんなことを言っていたらヴィレイ先生の長い裾に頭を叩かれた。

 リオンもやられているので、これは説明を求められているのだろう。


「えっとですね、魔法は斬れるのかって話になりまして」

「俺の剣じゃ無理だって言われたから、セルが作った斬れる氷をとりあえず斬ってて」

「真後ろに出しても氷に気付くので楽しくなっちゃいまして」

「どんどん氷の数が増えるから全部斬ってやろうって気になって」

「つまり論点がズレた挙句にはしゃいで続けたんだな?」

「そうなりますね」


 先生のため息が一段階深くなる。

 髪で隠されている左目のあたりを手で押さえるのは、本気で呆れている時の仕草だ。

 手で押さえる、と言っても手は見えていないので多分手のひらだろうと思っているだけ。


「お前たちはなんでそう……」

「え、俺らそんなに問題視されてんすか」

「何にも悪いことしてないと思うんですけど」


 実際、怒られたことはないのだ。

 それなりに謙虚に真面目に生活している、はずなのだけど。


「まあ、いい。やるならもう一人くらい連れてこい」

「流石先生。私も人数が足りないなって思ってたんです」

「そうなのか?」

「うん。端的に見てる人が居たほうがいいかなって」

「じゃあロイだな」

「そうだね。巻き込もう」


 ロイに対して全面的な信頼があるので、見ている人と言ったらロイが最初に出てくるのだ。

 冷静な人が一人いるだけで大惨事は免れるものである。

 現状が惨事といえば惨事だけど、それは言ったらおしまいだ。


 先生もロイを巻き込むことには何も言ってこないので、これはゴーサインと受け取っていいだろう。問題はどうやってロイを探し出すかである。


 まあ、研究職の教室棟に行ってはいけないというわけでもないので探せばいるだろう。

 私たちが四人で行動しているのは何故か知られているようなので、誰かしらに聞けば教えて貰えるだろうし。


「……そうだ、リオン」

「なんすかせんせー」

「お前、座学で寝過ぎだ。起きる努力をしろ」

「……うへえ……」

「返事」

「はい……」


 ついでで怒られたリオンが項垂れているが、リオンが悪いので何も言わない。

 むしろよく今まで怒られていなかったな、とすら思ってしまうくらいだ。

 なにせ、座学は八割寝ている男なので。


 あまりに項垂れているので今日はもう解散にするかと思ったが、そんな気はないらしい。

 それならばと予定通り研究職の教室棟に乗り込むことにして、ロイを巻き込むならとシャムも探すことになった。


 まあ、シャムはきっと面白がってついてくるので、ロイが忙しそうだったら彼女だけでも巻き込もう。きっと楽しいことになるだろうから。


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