300,今回の休み
荷物を纏めて、部屋の中に忘れ物がないか最終チェックをしてから部屋を出て鍵をかける。
持って帰る荷物はさほど多くないので、普通に鞄を肩にかけて廊下を進み、中央施設に鍵を預けて建物の外に出た。
今日から休みなので、私はこのまま一人空を飛んでの帰宅だ。
なのでまあ、別に時間を気にする必要は無いし皆が通るのをのんびり眺めてから行くことにした。
ちょっと早めに出て来て木の下を確保し、門を出ていく人を眺める。
今回の休みは、リオンはいつも通りフォーンに宿を取っていて、ミーファとソミュールはヴェローさんの所にいて、ロイは村に軽く顔を出してフォーンに戻って来るらしい。シャムはそもそも帰らないことにしたと言っていた。
つまりフォーンに来れば大体みんないる、ということだ。
私はまた第三大陸まで連れ出されるのか、今回はそうならないのか。帰ってみないと分からないんだよねぇ。お茶会に行くのは確定らしいけど。
「セルリア先輩!」
「お。アリアナー。おはよう」
「おはようございます。もう戻られるんですか?」
「ううん。時間に余裕あるから、皆が通るの待ってようと思って」
木に寄りかかってボーっとしていたら、カバンを一つだけ肩にかけたアリアナが歩いてきた。
アリアナは家からお迎えが来たりするのかな?
あんまり時間を気にしている様子は無いし、乗り合いの馬車ではなさそうだ。
「あの、セルリア先輩」
「うん?なぁに?」
「飛行魔法の件で、何かお礼をさせていただけませんか」
「お礼?」
「はい。何か欲しいものなど、ありませんか?」
聞かれて、少し考える。
私としてはわざわざお礼なんていいのに、と思うけど、アリアナが何か返したいんだろうからね。
こういう時は素直に受け取っておけって兄さん達も言っていたし。
「そうだな……アリアナのお家って、第五大陸だったよね?」
「はい。第五大陸のムスペルです」
「なら、蜂蜜かな。お茶に合うやつ」
「分かりました。休み明けにお渡ししますね!」
「うん。楽しみにしてるね」
第五大陸って食べ物がおいしいイメージがあるんだよね。
シオンにいもわざわざワイン買いに行ったりしてるし、お茶の生産も盛んなはず。
それにムスペルなら海路で第一大陸と繋がってるからそっちの物もあるだろうし、蜂蜜なら日持ちもする。
そんなわけで蜂蜜をリクエストして、去って行くアリアナに手を振った。
可愛い。普段は制服だけど、私服も可愛い。
ふわふわのお嬢様系ってよりかは落ち着いた服が好きみたいだ。制服のスカートも長めにしてるし、お家の教えなのか本人の好みなのか。
「せーんぱーい」
「後輩が続々来るなぁ。やっほーイザール。身軽だね」
「ま、国の中だしね」
チリンチリンと鈴の音を鳴らしながら歩いてきたイザールはほとんど手ぶらだった。
財布くらいしか持ってないんじゃないの?まあ、着替えも何もかも国の中にあるらしい家に置いてあるんだろうけどさ。
「先輩は休みの間忙しそうだよね」
「そうだねぇ。今回はどこまで行くんだろう。……イザールは国から出る予定ないの?」
「冒険者活動とか、軽くしてると思うからそれくらいかな」
「そっか、気を付けてね」
「先輩もね。んじゃ、また休み明けにー」
軽く話して去って行くイザールを見送って手を振り、ふと目線を上げると塀の上に小さな丸い鳥が止まっていた。
いつから居たんだろう。全然気付かなかった。
「お迎え来てくれてありがとう、モエギお兄ちゃん」
「チュン」
「リオン達と話してからでもいい?」
「チュン」
手を出すと小鳥状態のモエギお兄ちゃんは手のひらに収まった。
そして私の肩に移動して、一緒に歩いて行く人を眺め始める。
そろそろロイあたりが来てもいいと思うんだよなぁ。リオンも早めに見送りに出てくることが多いから、もう来てもおかしくない。
「おーっすセル」
「やっほーリオン。荷物少なくない?」
「着替えと剣以外いらねぇだろ」
「そっかぁ」
皆身軽だなぁと思ったけど、私も杖とカバン一つだから同じようなものか。
まあ、休みって大体みんな家に帰るわけだし、着替えも何もかも家にある人の方が多いんだよね。
リオンみたいに宿を取ってフォーンに残る人も回数をこなすごとに慣れて来るのか荷物はどんどん少なくなる。
「うぉ、モエギさん。気付かなかった」
「チュン」
「小鳥状態だと私の髪に隠れるもんねぇ。あ、ロイだ。やっほー」
「二人とも早いね。こんにちはモエギさん」
話している間にロイもやってきて、すぐにモエギお兄ちゃんに気が付いて挨拶をしていた。
冷静に考えると、私の手のひらサイズの丸い小鳥に敬語で話しかけてるの面白いよね。
まあ、うちに泊まったことのある人は皆モエギお兄ちゃんのご飯に胃袋掴まれてるからね、みんなお兄ちゃんには丁寧に対応するのだ。
「あー!もう皆居る!早いねー」
「やっほーシャム。荷物はそれで全部?」
「うん。今回は課題も全然でなかったからこれだけ」
シャムは村に帰らないでリオンと同じ宿に部屋を取って過ごすことにしたと聞いていたので、荷物が少ないのも納得だ。
ちなみに宿選びの時に「もう少しいい宿を取ったほうがいいんじゃないか」と言った私とリオンに対してシャムとロイは「リオンの隣の部屋の方が安全だ」と返してきた。
何かあれば大声を出すから、そうしたらリオンが駆けつけることになっているらしい。
確かにその方が安全かも。でも心配だからとりあえずポーションを一本渡しておいた。
なんて話しながら時間を確認して、ロイが乗る予定の乗り合い馬車まで移動する。
ロイを見送った後で門を出る私を二人が見送ってくれたので手を振って別れ、少し歩いてから風を起こして空に舞い上がる。
ミーファとソミュールとも話したかったけど、ロイの時間に合わせて移動しようと思っていたから仕方ない。
まあ、休みの間に一回は遊びに来るだろうしその時に会えるだろうからいいか。
話したいことはテスト明けとかダンスパーティーから逃げてる時とかに大体話してるしね。
なのでまあ、別にいいのだ。休み明ければ普通に会えるし。
「よっし、帰ろうお兄ちゃん!」
「チュン」
ちょうどいい高度まで浮いて、向きを変えてからお兄ちゃんに声をかけると、お兄ちゃんは先導するように前を飛び始めた。
遂に三百話に到達しました。びっくり。
自分史上最長を更新し続けておりますが、まだ終わりません。
なんか百話で一年進む、くらいの感じになってるので、多分あと百話あります。
長くてびっくり。
ここまで定期更新を続けてこれたのは読んでくれる人が居る、というのもとても大きいです。
ブックマーク、評価、いいね等、いつもありがとうございます!
まだまだ終わりませんが、最後までお付き合いいただけると幸いです。




