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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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3,浸透していない最初の法

 部屋の広さは、それほど広くはなかった。

 それでもすでに物が揃った状態でそれなりに空間が開いているから、多少物が増えても余裕はありそうだ。


 入って右にクローゼット、右奥に机と椅子。その手前にまだ空の棚が置いてあり、左の手前、入ってすぐの所には扉があり、左奥にはベッドが設置されていた。

 ひとまず必要なものは揃っていると聞いていたが、なるほど住むのに問題はなさそうだ。


 考えながら机に近寄ると、そこには何かメモが置いてあった。

 書いてある内容は、部屋での過ごし方と内装について。

 在校中に内装を変更するのは構わないが、卒業・退学時には完全に元の状態に戻せ、ということが書いてある。


 後は、基本的に隣の音は聞こえないようになっているがあまりに騒ぐと貫通するから騒ぎすぎるな、何か危険性のある実験等はここでするな、など。

 まあ特殊なことは書いていない。普通に過ごす分には問題ないだろう。


「……荷物開けないと」


 呟いて、床に置いてあった荷物を空ける。

 持ち込むものは事前に渡しておいて、検査を通ってから問題ないと判断されたものが部屋に運ばれてくるらしい。


 何が違反物として持っていかれるのかは覚えていないが、詰めた荷物は何も減らずに届いていた。

 ……荷物を作ってくれたのは兄なので大丈夫だとは思っていたけど。

 大丈夫、とも思って最後は任せたが、予想通り入れた記憶のないものも入っていた。


 後は、きっと姉さまからだろうと思われる質のいい軟膏が入っている。

 ……火傷や切り傷……というか大概の外傷には使えると説明されていたものだ。買おうと思うと、中々いい値段がする。


 それを何も言わずに適当な隙間埋めに入れるあたり、最上位薬師は感覚がおかしくなっているのだろう。

 私も外の市場を見て回りつつ市場価格を教えて貰うまで何が高価なのかよく分かっていなかったのであまり人のことは言えないが。


 荷物の整理はそう時間もかからず終わり、流石に出歩くのはどうかと思って入学祝に、と買ってもらった懐中時計を取り出す。

 姉さまの時計を買ったという店で買ってもらったもので、うっすらと青みがかった銀色を基本に鳥と木の葉が掘り出させている。


 蓋にも綺麗な装飾があり、開いた中にも鳥と木の葉と、その他細かい装飾が施されたものだ。

 針にまで掘られたその幾何学模様がどれほど修練を積めば出来るようになるものなのか、そんなことが気になってしまうくらいには繊細な彫り型である。


 なんて、時計を改めて眺めてみても暇はどうにもならない。

 まだ夕食の時間までは長いだろうし、どうしたものかと椅子に座る。

 荷物の中に入っていた本を開いてパラパラとめくる。


 一度読んだことのある本だが、わざわざ入れられている意味は何だろうか。

 何かしら役立つようなことが書いてある本だったか、とめくっている間に読み返したくなり、最初から読んでみることにした。


 前に読んだ時とは見えるものが違うかもしれないと読み始めたが、結局はただ楽しくなってきて何を考えるわけでもなく読書にいそしんでしまう。

 そんなことをしている間に随分時間が経ったようで、夕食の時間を告げているのであろう音楽が流れ始めた。


 部屋を出ると、同じく音楽を聴いて出てきたのだろう同じ教室にいた人たちが自分の部屋から出てきている。

 廊下を見渡していると目があったが、どうするわけでもないので食堂に向かうことにした。


 食堂は既に人が集まり始めていた。

 別に席が決まっているわけではないらしく、長い机と長い椅子が置かれていて適当に場所を決めて食べるらしい。


 入って右側にお盆とお椀が置いてあり、その先にある食事を自分でよそって好きな量を食べるようだ。

 全生徒が集まるのか、人数は多く混雑していた。

 もうすでにテーブルにはいくつかの集団が出来ているので、空いていそうなところを探しながら食事を貰っていく。


 何となく空いているところを見つけて座り、食事に手を付ける。

 家の料理が王宮シェフでも呼んだのだろうか、というようなクオリティなので、何となく心配だったが食事は美味しかった。


 食事の時間は決まっているらしく、その間は食堂にいないといけないのだという。

 やることがなくて困ってしまうが、手放すものでもないかと抱えてきた杖を弄って暇を潰す。

 この杖は、魔法使いが魔法を扱うために必要なものだ。


 杖がなければ人間は魔法を扱えない。

 基本的に、亜人でも一部の種族以外は同じらしい。

 私の杖はかなり大きい部類で、背丈と同じほどの大きさがある。


 時計を買ったのと同じ国で最初の杖を作ってくれた職人に頼んで作ってもらった二代目だ。

 最初の杖もすごく気に入っていたのだが、壊れてしまったので仕方がない。


 私の杖はロングステッキと呼ばれる大きさで、扱う者の肩より背の高いものが多い。

 それより短い、腰辺りまでの長さのものがステッキと呼ばれている。

 一番短いのが、懐に入るような細く短いタスクタイプ。非常用にとステッキ二種を使う魔法使いが持ち歩いていたりもする運びやすいものだ。


 それと別に、リングと呼ばれる指輪型のものも存在する。

 リングは手を塞がず常につけておけるが、流す魔力の量が多すぎると壊れてしまうので本格的な魔法を扱うには不得手だ。


 ……知り合いに、リングをいくつも付けて無理やり強い魔法を撃つ人がいるがあの人は特殊なのであまり数に入れてはいけない。

 普通、そんな芸当をすると魔力消費が多すぎて倒れかねないはずなのだ。あの人はよくやってたけど。


 扱う杖の選び方は、魔法をどう扱うかによる。

 杖の大きさが大きければ大きいほど巨大な魔法を撃ちやすく、小さければ小さいほど細やかな操作がしやすくなる。


 後はまあ単純に好みの問題だが。

 ……姉さまは、魔法を扱う才はないからとリングだけつけていた。

 自分を守るちょっとした結界を張るようだと言っていた気がする。


 ……と、色々考えながら杖を弄って暇を潰していたのだが、潰している間も周りの声はしっかり聞こえている。

 漏れ聞こえてくる「最上位薬師」「悪魔の目」という声に大き目のため息を吐くと、一瞬声がやんだ。


 最上位薬師は、まあいいとしよう。

 どや顔で名前を出したのは私だ。姉さまごめんね、と思わないでもないけど今は仕方ない。

 ため息の原因はもう一つの声。


 悪魔の目、とは、私の目の色のことである。

 ライトグリーンの目。この国がある第四大陸では、緑色の目を悪魔の目として嫌う風習がある。

 私もこの目のせいで捨てられ、そこを姉さまに拾われた。


 別に言われるのは慣れてるからいいのだが、それをこの国で言うか、という呆れの念が大きい。

 この国は、国王である勇者様が正式にそう言った差別を禁止しているはずなのだが。

 ……まあ、この国の中だけの話だ。あまり広く浸透していなくても仕方ないのだろう。


 姉さまの知り合いだという勇者様は、きっとその事実に悲し気な目をするけれど。


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