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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
299/477

299,卒業式が終わった後

 卒業式というのは、長い話をひたすらに聞き流していかに暇を潰すかを極めていくものである。

 三年目になってもやっぱり暇な式典にお行儀よく参加しながら、私は遠くに飛んでいる鳥を眺めていた。いいなぁ、私も飛びたい。


 数日前にテストが終わり、その後にダンスパーティーがあり、そして今日は卒業式。

 毎年恒例怒涛の学年末も今日で終わりで明日からは休みに入る。

 今回は一人で帰ってあちこち連れまわされるタイプの休みであり、モエギお兄ちゃんが迎えに来てくれるらしい。


 ちなみにダンスパーティーは何事もなく引きこもって終わった。

 三人でひたすら話しているのも暇と言えば暇なので紙とペンがあれば出来る遊びをしたりして、それなりに楽しく引きこもって平和に過ごした。


 ……ふぅ、暇だな。この人で長い話は何人目だったろうか。

 毎年の通り、考え事で暇を潰すのも限界になってきたので目立たない程度に視線を動かしてなにかしら暇を潰せそうなものを探す。


 完全に寝てるリオンの後頭部はもう見飽きたしなぁ。

 今日は猫も遊びに来ていないし、さっきまで眺めていた鳥はどこかに行ってしまった。

 ……あ、ノア先生が手振ってる。振り返しとこ。ヴィレイ先生にバレたけどまあいいや。


「ふぁ……」


 口元を押さえて欠伸を噛み殺し、一度壇上に目を向ける。

 まだまだ話は終わらなそうだ。どうしたもんかなぁ。ノア先生は別の所を見ているし、ヴィレイ先生には睨まれているので去年みたいな暇つぶしは出来なさそうだ。


 本でも読んでていいならいくらでも話しててくれて結構なんだけどな。

 あー……暇だなぁ……早く終わらないかなぁ……私はこの後にエマさんと話すためだけにここに居るようなもんだし。


 もうこうなったら前の方に座っている先輩たちの中からエマさんを探す遊びでもしよう。

 それが終わったら一番多い髪色でも数えてやる。

 なんて半ばやけくそみたいな暇つぶしを敢行し、どのくらい経ったのか分からないけれど長い長いお話の時間が終わった。


 話が終わったならもうすぐ式自体が終わりだ。

 今回もどうにか暇を潰しきったぞ、と心の中でガッツポーズをして、閉会の挨拶を聞く。

 よーし、終わった終わった。とりあえずリオン起こした方がいいかな?


「リオーン。起きろー終わったよぉー」

「……んぁ?」

「ヴィレイ先生がこっち睨んでるよー」

「やっべ!」


 ガバッと勢いよく身体を起こしたリオンに思わず笑ってしまう。

 ちなみにヴィレイ先生がこっちを睨んでいるのは事実なので、怒られる前にそそくさと移動しよう。

 リオンも先輩と話がしたいらしいのでとりあえず一緒に行き、それぞれ目的の人を探す。


「お、いた。んじゃぁセル、また後でなー」

「はいはーい」


 先に目的の人を見つけたリオンが離れて行ったのを見送って、私はエマさんを探す。

 リオンは先輩とも結構仲が良いので、話したい人も何人かいるらしいんだよね。

 なのでまあ、リオンの方が先に目的の人を見つけるのも当然と言えば当然だ。


 なんて考えながら人混みの中を移動していたら、誰かと話しているエマさんを見つけた。

 邪魔しないように、とは思うけど、見失わないように傍には行ってしまおう。

 話し終わるか、キリが良さそうなところで声をかければいいだろうからね。


「あら、セルリア」

「ご卒業おめでとうございます、エマさん」

「ありがとう」


 少し待っていようと思ったのに、近付いたらすぐにエマさんが私を見つけて笑顔で手を振ってくれたので目の前まで移動する。

 話していた相手は四年生の先輩みたいだ。卒業生に配られる花飾りを胸元に付けている。


「この子がセルリアかぁ。卒業式になってやっと会えたよ」

「あら、知ってたの?ラーニャ」


 ラーニャ、どこかで聞いた名前だな。話したことはない先輩のはずだけれど、向こうも私の事を知っているらしい。

 赤い髪にピンクの目。……誰が話していたんだっけ、と考えていたら視界にミーファが映った。


「ら、ラーニャ先輩!」

「おっミーファ!会いに来てくれたの?ありがとう!よーしよしよし」

「……あ、大剣と短剣の先輩」


 駈け寄ってきたミーファを見て、リオンとミーファが話していた先輩だ、と急に思い出した。

 リオンは第一選択の大剣で、ミーファは第二選択の短剣で一緒になるとても強い先輩だと二人が話していたのだ。


 思い出してスッキリしたところで改めてエマさんに向き直る。

 ニコニコしながらこちらを眺めていたエマさんに、とりあえず聞いておきたかった事を尋ねないと、と口を開いた。


「あの、エマさんは卒業後どこかへ行くんですか?」

「とりあえずはフォーンで冒険者活動の予定。アゼルがどこかへ行くっていうならそれについて行くかもしれないけどね」

「アゼルさんは結局家には帰らないんですね」

「そうねぇ。入学した時からもう帰るつもりはなかったみたいだし」


 何度か授業で会ったことのある回復魔法の先輩を思い出し、確かにそんなことを言っていたなぁと思う。貴族の令息だけど、家を出る気満々な先輩だった。

 エマさんと凄く仲が良い感じだったし、一緒に行くというのも納得だ。


 しばらくはフォーンに居るならまた会えるだろうか。

 来年は私たちも校外に出ることが多いし、多分会えるだろう。

 それが分かっただけでも十分なので、あんまり長く話すのはやめておこう。こっちを窺ってる人の気配がするからね。


「それじゃあ、エマさん。私はこれで」

「わざわざ来てくれてありがとうね、セルリア。四年目、色々出来て楽しいから後一年楽しんで」

「ありがとうございます。エマさんも、冒険者活動楽しんでくださいね」

「ええ」


 手を振ってその場を離れ、人の少ないところまで移動する。

 ちらっとリオンが見えたのは、ラーニャさんの所に行くのかな。

 私はこれで用事も終わったのでもう帰っても良いんだけど、この後部屋でお茶会する約束があるんだよね。


 一緒に食堂に行ってお茶菓子見繕おう、って話になってるから待ってないと。

 まあ、もう少ししたら誰かしら来るだろうからそれまで暇を潰していればいい。

 式と違って魔法も使っていいわけだから、この人混みを遠視魔法で上から見てようかな。


「セルリア」

「やっほーロイ。早かったね」

「そっちもね。シャムはまだまだかかりそうだったよ」

「知り合い多そうだもんねぇ」


 上に目を飛ばして人の流れを観察していたら、横にロイが来て同じように壁に寄りかかった。

 この分だとシャムを待って移動になるだろうな。

 まあ、知り合いの人数があまりにも違うのでそれは最初から分かっていたことだ。私は先輩とも後輩ともあまり関わりはないけど、シャムは先輩とも後輩とも、ついでに先生とも仲がいいからね。

 なんて話している間にリオンも来たので、茶菓子の相談をしながらシャムを待つことになった。


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