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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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297,楽しいけどやりたくない

 杖を回しながら、深呼吸を繰り返す。

 落とさないように杖をブレスレットで固定しようかとも思ったのだけれど、それでうっかり腕が持っていかれて手首捻挫とかしたら嫌なのでやめておくことにした。


 何せ相手はリオン。一撃受けたらもう次を受け流せはしないだろうからね。

 というか、杖で受けたら杖がすっぱり切れかねない。全力で逃げないと。

 私はまだこの杖を買い替える気はないのだ。この杖を作った職人さんからは「お前はどうせ壊れるまで使う」と呆れた目を向けられたりもしている。


「うっし、やるか」

「おう」

「……はぁ」

「二秒でやる気無くしてんじゃねぇか」

「やりたくなーい……リオンとは対戦じゃなくて協力がいい……」

「普段は協力やってんだから偶にはいいだろ」


 私はぎりぎりまでこうして嫌がっているのだけれど、リオンのやる気がありすぎる。

 やだよぉー。リオンがやる気になればなるほど私のやる気は無くなっていくよぉー。

 何故って、ノリノリなリオンは強いって知ってるからね。


「始めるぞ。話していないで早く上がれ」

「うーっす」

「はぁい……」


 ヴィレイ先生に声をかけられてしまったので、嫌がるのはやめて気合を入れないといけない。

 ……そうだ、勝ってドヤ顔報告するんだ。頑張れ私。これが今日の最終試合だぞ。

 徐々に思考を切り替えながら、ゆっくりと手合わせ場の階段を上がる。


 円の中でリオンと向き合えば、切り替えは完了した。

 リオンも剣を抜いて構えており、先ほどまで浮かんでいた笑みは既に無い。

 かけられた開始の合図に先に反応したのはリオンで、踏み込みと同時に振り下ろされる大剣を目視してから私は杖で床を強く叩く。


 私がよくやるこれは、風を発生させる初級魔法を演唱なしに使う時に付けた癖だ。

 通常の無演唱より強めに風を起こせるように練習したので、この分でリオンの初撃を弾いて自分も後ろに下がれる量がある。


「舞え、踊れ。我風の民なり、風の歌を歌うものなり」


 いつものように、演唱を声に出す。

 途端に溢れだした風に乗って地面を離れ、早々に上へと移動した。

 リオン相手に地上に居たくないからね。というかドミニクの時だって弾かれなければ上に逃げたかったのだ。


「その一突きに無駄は無く、その一突きに慈悲は無く。穿て ウインド・ランス」


 空中に居ると威力は落ちるけれど、それでもかなりの打力は出る。

 まあ、一撃でどうにか出来るとは思っていないので、空中で姿勢を作るまでの時間稼ぎだ。

 それでも全力で撃ちこまないといけないのが辛いところだけどね。


 そんなわけで結構な威力で撃ち出した風の槍は、案の定避けられて手合わせ場の床に傷をつけた。

 ついでにリオンが私の風を足場に一瞬だけど私の真横まで上がってきたので、下の方に回していた風を全部回収しないといけなくなってしまった。


「あ、くっそ」

「平然と人の風を踏むな!」


 物理力弱いのに、なんでそんな器用に上って来るんだ。

 叫びながら左目に魔力を溜めて魔視を発動させると、リオンの目にかなりの量の魔力が集まってキラキラと光っているのが見える。


 多分だけど、風が少し分厚いところとかを選んで踏んでいるんだろう。

 ついでに自分の足の裏に魔力を溜めれば次を踏み出すくらいの時間は……稼げるのかな?人の風を踏もうと思った事とかないから分かんないや。


 ともかく情報収集用の風を置いておくのも危険、という事になってしまったので、もう何かが起こる前にドカドカ魔法を撃ち込んで決着をつけた方が良さそうだ。

 リオンは多分私の風に慣れきっているから、他の属性の方が良いだろうか。


 氷も魔法を斬る練習とか普段遊ぶ時とかに結構使うからな。

 そうなると……闇と、雷。それから雪。ここら辺が普段は使わないけれどそれなりに扱える属性だ。

 雪は午前中に使ったし、闇もちょっとだけ使ったのでメインは雷にしておく。


 自己強化の魔法を扱うのに他の魔法も色々練習したからね。

 方向性が決まれば、あとは撃ち込んでいくだけになる。

 魔力を練り上げて、リオンから目を離さずに念のためフラフラと高い位置を漂いながら演唱を声に出す。


「稲妻よ。天を貫き地を揺らせ。ライトボルト」


 右手で魔力を握るようにして、その中で魔法を作り上げる。

 バリバリと音を立てながら長く伸びていく雷魔法を、振りかぶって投てきすれば当然のようにリオンは横に跳んでそれを避けた。

 ……ん、弾いたり斬ったりはしないのか。もしかして、雷はあんまり見ないから斬れるか分からないのかな?


「それなら話がはえぇよなぁ?」

「うわ、セルが凶悪な顔してる」


 やば。楽しくなってきたら脳内のトマリ兄さんが口調にそのまま出てきちゃった。

 楽しいからってあんまり口調が乱れるのは良くないよね。

 なんて気にしている余裕があるのだから、慣れってのは凄い。


 クルリと杖を軽く回して、細かい魔力を周りに浮かべる。

 それらを全て纏めて雷に染めて、細かい雷を大量に作り上げた。

 一つ一つの威力はほとんどない弱い魔法だけれど、これだけあれば当たるだろうし当たれば少しずつ動きは鈍くなるだろう。


 私は割と細かい攻撃を大量に放つタイプのごり押しをすることが多いので、魔力を練り始めた時点でリオンは私がやろうとしていることに気付いたようだった。

 剣を握り直してこちらに向かってきたので、少し高度を上げる。

 あんまり上がりすぎて場外判定になっても嫌なので、このくらいの位置が限界かなぁ。


「……って、うわぁ!?」


 とりあえず雷は出来上がったので、足元に入り込んできたリオンに狙いを定めて撃ち込み始める。

 狙いにくいようにしているってわけでもなさそうだなぁ?とか考えていたらリオンは地面を蹴って私の下の空間に剣を振り下ろした。


 届かなかったのか、と思った次の瞬間、足元の風がブレて体勢が崩れる。

 遅れて、何をされたのか理解した。

 あいつ私の足元の風の核斬りやがった。


 気付いてどうにか風を回すが、一番大きくて安定した風が急に霧散したせいで高度が一気に下がってしまった。

 作り終わっていた雷でどうにかリオンの姿を追いつつ風の流れを整えて、あぁ、と小さく声が漏れる。


「くっそやられた」


 高度を上げるために元々あった風を集める、という事は、その風に乗っていれば私の所に来れるという事だ。

 くそ、と再度言葉が漏れるのと同時に、幾つか雷の魔法に当たっているはずなのに一切気にしていないリオンが眼前に現れる。


 振り下ろされた剣を受け止めることはせず、私はそのまま場外に飛ばされた。


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