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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
296/477

296,昼休みは寝る時間

 肩に寄りかかってくるソミュールの頭を枕にして、重なるように目を閉じる。

 膝にはミーファの頭の重み。思い切り体重をかけている背中には背中合わせで座るリオン。

 通りがかった同級生が団子だ団子だと言っているのが聞こえるが、ぽかぽかで眠くて何か反応を返す気にもならない。


 お昼ご飯を食べ終わってから午後のテストが始まるまでの空き時間で、眠気に負けた私たちは外でうたたねをすることにしたのだ。

 最初はリオンの背中を背もたれにうつらうつらしているだけだったのだけれど、ミーファとソミュールは私を枕にするらしくこの形になった。


「凄い状態だなぁ」

「セルリア達は起きているのか?」

「寝てんじゃねぇかな?」


 夢うつつにリオンとリムレとサヴェールが話している声を聞く。

 リオンは体力的にも気力的にもまだまだ余裕なようで、寝るつもりはないらしい。

 話している声が静かだから睡眠導入音声みたいになっていて、ギリギリ保たれていた意識が眠りに吸い込まれて行った。




 背中の気配が完全に寝たのを感じ取って、リオンは身体を揺らさないように小さく笑った。

 サヴェールとリムレが不思議そうにしているが、言及はされなかったので何も言わないでおく。

 そのまま午前中の試合の事などを話し、午後の対戦表はどうなっていたか、と昼休憩に入る前の試合を思い出す。


「まだ三周目終わってねぇよな」

「終わってないな。リオンはソミュールかセルリアが次の相手じゃないか?」

「おー。楽しみだな」

「楽しめる精神すげぇ……」


 もしかしたらソミュールとミーファの戦いも見れるかもしれない、なんて盛り上がっていたら、遠くからヴィレイ先生が歩いて来ているのが見えた。

 迷いなくこちらに歩いてくるので何かしら用があるのだろう。


「もうすぐ鐘が鳴る。全員起こして移動しろ」

「うっす」

「はーい」


 普段はセルリアが時間を確認しているので、確認の手段が無いことが分かっていたのだろうか。

 それだけ言って去って行く先生に緩い返事をして、背中で眠る女子たちを起こしにかかる。

 軽く体を揺らして声をかければ、セルリアより先にミーファが目を覚ました。


「ふぁ……おはよう……」

「おう、おはよ。セル起きそうか?」

「んー……ちょっと気付いてはいそうかな」


 とりあえずソミュールを起こす、というミーファに返事をして、リオンはおもむろに立ち上がる。

 セルリアの頭が地面に衝突する前に手で支えれば、恨めしそうな目が向けられた。

 ついでに横からもビックリしたらしいリムレの文句が聞こえてきた。


「…………おはよ」

「おう」

「じかん?」

「おう。ヴィレイせんせーが全員起こして来いってよ」

「そっか」


 まだ眠いらしいセルリアは、それでも体を起こして杖を支えに立ち上がった。

 くあり、と欠伸を零しつつ同じように目を覚ましたソミュールが立つのを手伝っている。

 これで全員起きたので、鐘が鳴る前にテスト会場へ足を向けた。




 歩いている間にだいぶ目が覚めてきたので、杖を回して風を起こし、残った眠気を吹き飛ばす。

 ソミュールもずっと欠伸してるけど一応起きたみたい。

 寝落ちる前にリムレとサヴェールがリオンと話していたのは聞いていたけど、起きた時も居たので一緒に移動してそのまま教室の壁に寄りかかった。


「あ、そうだサヴェール。二試合目に使ってた魔法、あれなに?」

「どれだ?水か?」

「いや、床に木属性魔法張ってなかった?」

「よく気付くな」


 鐘の音と共に授業が始まったが、自分たちの試合まではまだ時間があるからと雑談に興じる。

 ついでにサヴェールに気になっていた事を尋ねたら、そんなのあったか……?とリムレとリオンの声が重なった。


「まあ、発動はしなかったからな。一定の場所を踏んだら足に木の根が絡むようにしていたんだ。……俺としては、セルリアの使っていた闇魔法の方が気になる」

「あー、あれね。そんな難しい魔法でもないよ。闇第二種初級魔法」

「セル、闇魔法なんて使たんだな」

「うちの兄たちを思い出してごらんよ。教えてくれそうでしょう」

「……そうだな」


 言われた通りに兄さん達の顔を思い浮かべたらしいリオンが静かに納得の声を上げて、その様子に思わず笑ってしまう。

 ちなみに教えてくれたのはシオンにいだ。トマリ兄さんは闇の第三種なので二種はあまり使わないらしい。


「セルちゃん、一回闇からはじき出してたのはなんで?」

「あのまま決定打を与えて場外にはじき出されたとして、闇の中にある足がどうなるか分からなかったから」

「……え、こわ」


 リムレにはドン引きされたが、他は皆なるほどなぁと納得していた。

 俺がおかしいの……?と呟いたリムレの肩をポンと叩いておく。誰が正常なのかなんて、ここに居る奴らだけじゃ分かんないよね。


「闇の二種は特殊だからねぇ」

「どう思うソミュール。あのままとどめ刺してたら足ちぎれたりしたかな」

「流石に何かしら対策してるんじゃない?闇属性の子だけ気を付けないといけないのはちょっと不公平だしねぇ」


 欠伸を零しながら会話に混ざってきたソミュールに話を振ると、もっともな意見が返ってきた。

 魔法陣を直接見たわけではないので、詳しいことは分からないらしい。

 つまり魔法陣を見れば分かるという事だ。流石だなぁ。私も魔法陣についてもうちょっとちゃんと勉強するべきかなぁ。


 もうすぐ休みだし、帰ったらコガネ姉さんに聞いてみよう。

 なんて考えている間にも順調に試合は進んで行き、ソミュールの四試合目が近付いてきた。

 私もそろそろ準備をしようと身体を伸ばし始め、リオンも準備運動を始めた。ミーファは話しながら既に跳んでいる。


「はぁー、リオンとかぁ」

「俺は楽しみだけどなぁ」

「叩きのめしてやる」

「急にやる気になるなよビビるわ」


 張り出された四試合目の対戦表を見て、ため息を吐いて杖を回す。

 まあ、やるからには負けてやるつもりはないのだ。全力で叩きのめしてやる。

 去年のテストでは当たらなかったから、しっかり戦うのは久しぶりだ。


 一応一昨年は勝ったからね。今年も勝ってドヤ顔したい。

 そして手紙に今年の戦績を書いてドヤドヤするのだ。

 姉さまは楽しそうだねぇ、とニコニコするだけだけれど、シオンにいとかトマリ兄さんとかがかなり楽しみにしているらしいからね。


何だかテストのたびにセルちゃんはお昼寝をしている気がします。

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