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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
294/477

294,対ニア戦

 フーッと浅く長く息を吐いて、回していた杖を止める。

 今は私の二戦目の直前。前の試合の魔力残滓が消され終わったら開始になる。

 一戦目は早々に終わったのだけれど、今回の相手はニアなのだ。


 お互いの動きは割と知っているし、私の魔法や魔力にも慣れているのでちょっと面倒な相手。

 どうしようかな、と考えている間に準備が終わったようなので手合わせ場に上がる。

 ごちゃごちゃ考えてもどうにもならないし、もう流れでやるしかないよね。


「舞え、踊れ。我風の民なり、風の歌を歌うものなり」


 開始の合図を見て、まずは風を纏って速攻で放たれたニアの矢を避ける。

 実は初級程度の魔法を教えたりしていたら、ニアは矢に魔力を纏わせて風の魔法を貫けるようになっていたのだ。


 なので、全力で壁を張るか逃げるかしないといけない。

 氷で壁張ってもいいんだけど、薄い壁だと貫かれたりするんだよね。

 そうなると私は壁を張るより逃げた方が楽だ。風に乗って不規則に動きながら、手の上で新しい魔法を練り上げる。


「降り積もる白に世界は覆われ、全ては緩やかな眠りに誘われん。

 しんしんと。こんこんと。埋まれ、埋まれ、埋まれ」


 手の上で練り上げた雪魔法を手合わせ場の中に展開させて、足元に雪を積もらせていく。

 私は飛んでいるのでニアの足止めになればいいなって感じ。

 動きにくいし、視界悪いし、何よりこの魔法やっと実戦レベルになったから使いたかったんだよね!


「動きにくい!」

「でしょうね!」


 叫ぶような大声と共に矢が飛んできたので、避けながら返事をする。

 杖を握っている左手は下げて片足をかけて曲芸のような体勢を保ち、右手を上げて頭上に氷の塊を作っていく。


 ニアは近付いたら殴り掛かってくるからね、なるべく遠くから倒したい。

 まあ、遠くに居ると矢が飛んでくるから留まる事は出来ないわけだけども。

 その対策としての杖片足かけという変な体勢だ。普通の体勢とは違う方向に風で流されることになるので、狙い辛いだろうなぁ多分。


「よっし。いっけぇー!」

「わ、わわ」


 作った氷を端から削ってニアの居る場所に向けて撃ち込んでいく。

 多重連撃砲を扱えるようになってから、細かいものを一か所に向けて切れ目なく撃ち込む、という魔法がやけに得意になった。


 風に乗せれるものだとさらに速度が出ていい感じ。

 そんなわけでドカドカ撃ち込んでいるけれど、結構な速度が出ているはずの氷はどれもこれもニアには当たっていない。


「危ない、危ない!」

「なるほど、そういう事ね」


 どうやって防いでいるのかと思ったら、矢で殴って砕いたり魔法で相殺したりしていたようだ。思ったより器用でちょっとびっくりしてしまった。

 ……でも押し切れそうだな。角度を変えて、もう少しばらまいた方が良さそうだ。


 頭上の氷を二つに割って、一つはそのまま撃ち続けながらもう片方の塊を持って高度を下げる。

 雪は膝までには届かない程度まで積もっており、その少し上に氷を置いてここからも氷の粒を放つ。

 ニアが気付いて矢を放ってきたのでそれを避けて再び飛び上がり、小さくなってきた氷に魔力を注いで大きさを戻す。


 そんなことをしている間にだいぶ氷がニアを捉えるようになってきた。

 雪で動きづらいのと、単に疲れも溜まってきたんだろう。

 そろそろいけるかな、と風の密度を操作してニアの詳しい位置を探り、大きめに氷を削りだして勢いよく放つ。


 五つくらいあればどれかしら当たるでしょ、とぶっ放したうちのどれかが当たったようで、風で探っていたニアの魔力が手合わせ場から消えた。

 そこまで、とヴィレイ先生の声がしたので、地面に降りてぎゅむっと音をさせながら雪を踏む。


「……んし、まずは雪消すか」

「アリシア、手伝ってやれ」

「はいはい。セルリアは風を消してくれる?私は雪を片付けるから」

「はぁーい」


 派手にやってごめんなさい、とこっそり謝れば、良いものを見たわと楽しそうな返事が来た。

 先生も手伝ってくれたので思ったより早く魔法の残滓を片付け終わったので、杖を両手で持って逃げるように手合わせ場から降りる。


 数歩進んだところで横からニアにタックルされたので、風を出して身体を支える。

 来るとは思ってたよ。思ってはいたけど思ったより強めに来たからよろけてしまった。

 まあ転ぶ前に風を出して対応出来たしいいか。とりあえずニアが離れないのでそのまま壁際にいるリオン達の所に歩いて行くことにした。


「派手にやったなぁセル」

「思ったより派手になっちゃった」

「くっつき虫……」

「ニアが離れなくなっちゃった」

「悔しかったんだねぇ」


 ぐりぐりと私の脇腹に頭を押し付けてくるニアの輪っか状になった二つ結びを弄って、腰に回った手に体重がかからないように壁に寄りかかる。

 時々むーんとかうにゃーんみたいな声が漏れているので、私の横腹を頭でぐりぐりしながら何か考えているみたいだ。


「むにゃーん……」

「ニア、そろそろ抱き着くのやめたら?」

「お。やっほージャン」

「やっほーお疲れ」


 私としては一向にかまわなかったのだけれど、ジャンがニアを回収にやってきた。

 仲良いよねぇ。元々割と話す、くらいの関係性だったらしいのだが、なんだかんだ今年はかなり一緒に戦うことになったからね。


 もはや猫を回収するみたいに首根っこを掴んでいる。

 んあぁーと声を上げつつも抵抗はせずに回収されて行ったニアは、去り際に振り返って雪は卑怯だぁーと叫んでいった。


「ルールの範囲内なんだよなぁ」

「卑怯だぁー……」

「はいはい」


 首根っこを持たれてズリズリと連れていかれるニアに手を振って見送り、横で笑っているリオンの横腹をつつく。

 何がそんなに面白いんだい。場合によってはそよそよするぞ。

 そんな意気が伝わったのか、リオンは笑いを収めて身体の前に手をスッとだした。


「悪かったって」

「何に対しての謝罪なんだ」

「一連の流れ」

「うーん……まあいっか」


 それならまあ、別にそよそよしなくていいか。

 構えかけた杖を降ろせば、横でふーっと息を吐くのが聞こえた。

 そのまま話題はさっきの試合のことになり、話している間にソミュールの第三試合が始まったのでそっちに話題は移っていった。


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