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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
292/477

292,一日目の放課後

 空で寝転がって、ボーっと更に高い位置を見上げる。

 太陽の方を向かないようにだけ気を付けて、ボケーと風に流されること早数十分。

 下の方から声が聞こえてきたので体の向きを変えるとリオンが手を振っていた。


 身体を少し起こして降って行くと、手を出してきたので掴んで地面に足を付ける。

 ついでに乱れた髪も直して、リオンを見上げて首を傾げる。……首の角度が酷い。一歩下がろう。

 というか、急に飛んでいったりはしないからもう手は放してくれてもいいんじゃないかな?


「どしたの?」

「逃げねぇように」

「別に逃げないけど」

「テストの後半ですげぇ炎出てたのってセルか?」

「手を放せぇ!!」

「やっぱ逃げようとするじゃねぇか」


 笑いながら言ったリオンに、笑い事じゃないんだ!と声を上げる。

 さっきまでやっていたテストで、使える属性を全てと言われて入学以来初めて炎魔法を使ったのだ。

 今まで頑なに避けてきたのにはちゃんと理由がある。ド下手くそだから、と言っていたのも嘘ではない。


 リオンの手を振りきって逃げようとしても、全然振りほどけなかったので諦めた。

 軽く掴まれてるだけな感じなのに、元の筋力が違い過ぎるのかどうにもならない。

 レイピアを扱い始めて一年経ったし、結構筋肉も付いたと思うんだけどなぁ……やっぱり元が違い過ぎるよなぁ。


「炎、発動しない訳じゃないんだな」

「……うん。まあ、小さいのは作ってもすぐ消えちゃうけど」

「それであんなでけぇ炎だったのか」

「言うな……言うな……」


 私が炎魔法を使うと、なんだか必要以上にでっかくなってしまうのだ。

 それはもう、暴走してんのかと思うほどに。

 ヴィレイ先生には後から怒らないで、とか一応暴走はしていない、とか色々言い訳をしてから始めたので、どうにか消すところまで中断はされなかった。


 かなり大きくなっちゃったなぁとは思っていたけれど、まさかリオンに見られるくらいの大きさになっているなんて。

 一度でも使えばバレてしまう下手くそっぷりだから今日まで隠してきたのだ。


「まさかテストでやらされるなんて思ってなかったんだよ……」

「あれってどのくらいの難易度の魔法なんだ?」

「初級だよ」

「あれでか」

「いや、初級魔法って割と汎用性高いから。私もよく風の初級魔法で色々やってるし」

「そうなのか」


 頷いて、いつもやっているように荷物を浮かせて傍に持ってくる。

 これだって使っているのは初級の風魔法だ。

 別の方向へ向ける必要があるなら他の魔法を使わないといけないけれど、そうでないなら初級で良いのだ。


 火力であったり運べる重量であったりの上限が上がる中級魔法とかもあるけど、元々の魔力であったり精度であったりを上げてしまえば初級で間に合うしね。

 そんなわけで、魔法使いは練度が上がれば上がるほど初級魔法を多用するようになるのだ。


「ほーん……そういうもんなのか」

「そういうもんなんだよ」


 流石にもう逃げないと判断したのか、リオンが手を放してくれたので荷物を回収する。

 誰かが触ったら転ぶくらいの突風が起こるようにしていたのだけれど、それももう不要なので解除してしまう。


「よし、食堂いこ。私ケーキ食べたい」

「おう」

「シャムたち居るかな?」

「さっき覗いた時はいなかったぞ」


 テストの後合流しなかったので、リオンは私を探していたらしい。

 そんなに炎の事が気になったのかと聞いたら単に暇だったのだと言われた。

 なるほど、確かに私も空に寝転がってるだけだったしな。


 まあ、あれはまさか使うことになるとは思っていなかった魔法を使って疲れたから、というのもあるのだけど。

 魔法を使って疲れたのに魔法で空を飛ぶのか、と言われたけど、疲れたのは心なので飛んで癒されるのは間違いじゃないのだ。


「ソミュールは起きたのか?」

「うん。待機中に起きてたから、多分テストは受けたんじゃないかな」

「明日は起きてるつもりなんだもんなぁ……どうなっかなぁ」

「去年のリベンジじゃん。頑張れー」

「他人事みたいに言いやがって」


 実際私は自分がどこまで行けるか、というよりミーファとリオンとソミュールが戦ってるところみたいなぁくらいのテンションだ。

 他人事と言われても仕方ないけれど、まあ出来るだけ頑張るからそれでいいじゃないかな。


「そういや、あんだけでかい炎だしてどっか焦げたりしなかったのか?」

「部屋にはちゃんと保護掛かってたみたい。良かったよ本当……」

「セルは?去年のテストで髪焦げたりしてただろ」

「ああ、それも大丈夫。このピアス防火の魔道具なんだ」


 そういえば去年は髪が焦げたり切れたりしてたなぁ、とちょっと懐かしく思いつつ、まだまだ魔力の残量は十分なピアスに触れる。

 今回一気に魔力を使って色味はちょっと薄くなっているので、もっと魔力を使ったら髪と同じ色になりそうだな。


「そーいや、そんなこと言ってたな」

「そだよ。……あれ、なんか不思議?」

「いや、前から赤いの付けてんのは珍しいなって思ってたんだよ」

「え。そうかな。……そうだな。確かに赤いのってあんまりつけてなかったわ」

「だろ?」


 言われてみれば、よく付けている飾りは大体紫とかなんだよね。

 多いのは紫、青、黄色。昔からなんとなく紫が好きなのだけれど、理由は多分シオンにいが紫っぽいからだ。あとは姉さまとウラハねえ。


 そのあたりを無意識に選んで身に付けていたら、何となくみんなが選んでくれるのもそういう色に偏っていった。

 まあ、全部が全部そうってわけでもないし、私はあんまり気にしたことなかったな。


 なんて話しながら食堂に向かい、ケーキセットを頼んで運ばれてくるのを待っていると遠くから名前を呼ばれた。

 振り返ると、ロイとシャムが勉強道具を広げていた。


 手を振って返事をし、ケーキセットを受け取ってそちらに歩いて行く。

 リオンはサンドイッチを頼んだからちょっと時間がかかってるみたい。

 邪魔にならない位置にトレーを置いて、開かれているノートを眺める。わあすごい、見たことない内容がいっぱい書かれてる。


「お疲れ様」

「おつかれぇー。セルちゃんたちは明日筆記無いんだっけ」

「無いよ。一日試合してる」

「それはそれで大変そうだね」


 シャムたちは指定されている範囲に出てきた範囲外の事をしらべては覚える、というのを繰り返しているらしい。

 そんなことまで……と慄いている間にサンドイッチを持ってリオンが席にやってきた。


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