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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
291/477

291,魔法使いたちの雑談

 杖を両手で持って頭上に掲げ、身体を左右に曲げる。

 テスト一日目の午後、呼ばれるまでは待機と言われて放置され、既に数十分が経っていた。

 一年生の時も魔法使い組は後半だったし待機は別にいいんだけど、どうしても暇になってくるからね。とりあえず身体を伸ばしてみたりしていたのだ。


「セルリア」

「なあに?サヴェール」

「氷の短剣、作れるか?」

「……ああ、うん。出来るよ。練習中なの?」

「うん。二つ目以降が安定しない」


 左右に揺れたり前後に揺れたりしていたら、横から声をかけられた。

 声をかけてきたのはサヴェールで、話題はとある攻撃魔法のこと。

 多分暇なんだろうな。私も暇だから、このままのんびり話していよう。


「私は小さい塊をたくさん作るのから始めたかなぁ……なんか気付いたら氷の同時操作は出来るようになってた」

「よくやってるよな。氷も得意なのか」

「風で飛ばせるからね。楽なんだ」

「なるほど」


 ちなみにソミュールは寝ているので、一応起こさないように距離を取ってある。

 まあ、どんなに騒いでも起きない時は起きないんだけどね。

 身体を伸ばすのはやめて杖を回し始めると、サヴェールも横でタスクを回し始めた。……すご、ペン回しとかもだけど、私それ出来ないんだよね。


「サヴェール第二選択攻撃魔法なんだっけ」

「うん」

「回復は出来ないの?」

「初級だけなら、どうにか。それ以上は発動しない」

「初級発動するんだ。いいな」


 弱くても一つ使えるかどうかの差は大きい。

 国によっては強い回復魔法を使える人は聖女とか聖人とかの特殊な職業を与えてるところもあるくらいだからね。


 回復魔法、使えたら便利だろうなぁ。

 私は才能なかったんだよなぁ。姉さまは使えるんだったか。

 攻撃以外は意外と出来るのが姉さまだし、出来るのかもしれない。でも多分魔法より薬の方が効果高いって言って使わないんだろうな。


「セルリアが防御魔法を使っているのは見たことが無い気がする」

「そう?……確かに手合わせではあんまり使わないかも。サヴェールは壁張るなら何になるの?」

「最近ヴァントボルトの硬さが極まってきた」

「え、すご。私あれ発動諦めたんだけど」


 やっぱりサポートを選択してるから、とかそういうのあるんだろうか。

 属性以外に扱える種類の差がある、という話はあんまり聞かないけれど、姉さまが攻撃魔法を一切使えない人だからね、何かしらあるんじゃないかと思うよね。


 魔法使いは割とみんな自分が選択した系統が一番得意なイメージあるしね。

 当然では、と思われるかもしれないけれど、まだ何の魔法を使えるかも分からない状態で選んでも大体そうなるのだ。あとから別方面に行く話はあんまり聞かない。


「……あ、鳥」

「本当だ。でかいな」


 暇つぶしに話しているだけなので、内容がコロコロ変わるし空の高い位置を飛んでいる鳥に気を取られたりもする。でかいなぁあの鳥。片翼二メートルくらいありそう。


「リムレがテイム取ったじゃん?外で魔獣とか手懐けてたりするの?」

「いや、魔獣はあんまり。たまに鳥に囲まれてたりはする」

「絶対に無い訳じゃないんだ……」

「一回だけあった」


 あったんだぁ……と緩い声を出していたら、ヴィレイ先生が顔を出してサヴェールを呼んでいった。

 手を振って見送り、とりあえず寝ているソミュールの傍に腰を下ろす。

 また暇になっちゃったなぁ。まあ、あんだけ時間を潰せたならいいか。


 いい感じに吹いてきたそよ風に目を細めて、くあっと欠伸を零す。

 すると横から別の欠伸が聞こえてきた。欠伸がうつったみたいだ。


「おはようソミュール」

「おはよぉ……ここどこ……?」

「中庭。午後のテストの待機中」

「ふぁ……そっかぁ」


 体を起こして目を擦っているソミュールの髪を弄り、こっちを向いた蜂蜜色の瞳がまだ眠そうなのを見て小さく笑う。

 まあ、すぐに寝てしまう感じはしないしテストの時間待ちくらいは出来るかな?


「んー……」

「どうしたの?」

「頭は起きてきたけど身体が起きてない感じー」

「……よく分からないけど大変そう。大丈夫?」

「もうちょっとすれば起きるかなぁ」


 手を握ったり開いたりしているソミュールを眺めて、吹いてきた風に煽られた髪を抑える。

 ……これ、サヴェールの魔力だな。風魔法使ってるの見たことないけど、テストの内容で使わないといけなかったりしたんだろうか。


 なんか嫌な予感がするなぁ。当たらないといいけど。

 嫌な予感が当たるとしたらどんなことがあるだろうかとあれこれ考えていたら、右肩に柔らかな重さが乗っかった。顔を向けるとソミュールのふわふわした金髪が顔に当たった。


「ソミュール?」

「んふふ……セルリアの魔力は落ち着くねぇ」

「そう?自分じゃ分からないなぁ」

「セルリアは落ち着く魔力とかないの?リオンとかシャムとか」

「んー……ヴィレイ先生の魔力は落ち着くかなぁ」


 ぐりぐりと肩に頭を押し付けてくるソミュールは好きにさせておいて、落ち着く魔力についてちょっと考える。

 パッと思いつくのはヴィレイ先生だけど、リオンもシャムもロイもよく一緒に居るから安心感は結構あるなぁ。


 ミーファはなんだか魔力の気配が薄いんだよね。

 ソミュールも、普段は抑えているのかソミュールの魔力だぁって思うことはあんまりない。

 ちなみに私の中で一番落ち着く魔力の持ち主はシオンにいである。これはもう覆らないだろう。


「セルリア」

「あ、はーい。じゃあソミュール、また後でね」

「うん。いってらっしゃーい」


 手を振ってヴィレイ先生が開けている扉の中に入る。

 あんまり入ったことのない部屋だなぁと思って周りを見渡してみると、一年生の最初の頃に魔法適性なんかを調べた部屋なことに気が付いた。


「ではテストを始める。今回は、扱える全ての属性の魔法を見せてもらう」

「……すべての」

「ああ。発動しない属性は申告するように」

「発動はするけど暴走みたいな動きする属性はどうしたらいいですか」


 杖に体重を預けて項垂れつつ、自分の発動させる炎魔法に思いを馳せる。

 止めてくれないかな、と思ったのだけれど先生はやれという。あとから怒んないでくださいね、ちゃんと止めてくださいね。あと一応、暴走はしてないのでそこんところよろしくお願いします。


魔法使い組は割と仲が良いです。

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