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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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290,三年目のテスト

 杖を揺らしながら廊下を進み、食堂に入って朝食を見繕う。

 今日はテスト当日なので、いつもより甘いものが多めに置かれている……気がする。

 研究職組がこぞって甘いものを摂取するので、まあ多分いつもよりは多めかな?


 なんて考えながら席に着き、パンを千切って口の中に放り込む。

 うーん、美味しい。いい塩加減だ。レシピを教えて貰っても同じように作れないのが不思議であり残念な点だね。


「おはようセルリア」

「ん、おはようロイ」


 ウラハねえに作ってもらっても同じにはならないんだよなぁ、なんて考えていたら向かい側にロイが座った。

 今日はなんだかちょっと早めかな?気のせいかな?


 時計を出すほどではないかなーなんて思っていたら、ロイがそういえば、と声を出した。

 顔を上げるとシフォンケーキにフォークを指しているのが視界に入る。

 最初に食べるのか。デザートにするのかと思ってた。……いや、今の話題はそれじゃないかな。


「先生に聞いてみたけど、クラールファルファが現れたのは初めてじゃないらしいよ」

「へぇ、そうだったんだ」


 テスト前なのに別の事を調べさせてしまってちょっと申し訳ないけれど、とりあえず教えてくれたことにお礼を言っておく。

 前の休みにヴィレイ先生の所に鱗粉を持っていって答え合わせをしてきたのだけれど、先生も居たことに気付いてなかったらしくどこにいたのかが気になってたんだよね。


「数年前にも満月の日に鱗粉が見つかったんだって」

「満月だと蝶々寄って来るのか……ヴィレイ先生が満月で魔力が変質するって言ってたけど、関係あるのかな」

「どうだろう。もしかしたら、ヴィレイ先生に寄ってきてるのかもしれないね」


 蝶々に群がられるヴィレイ先生か……透明なのが残念だな。視えたら絶対面白いのに。

 なんて、バレたら怒られそうなことを考えていたらシャムが横に座った。

 お、カップケーキ持ってきてる。やっぱり糖分が必要なんだね。


「おはようシャム」

「おはよぉ……」


 眠そうにしているシャムの頭を撫でて、傾きかけたカップの向きを修正する。

 研究職は毎年大変そうだなぁ。私たちは今日の午前で座学は終わるのでかなり気が楽だ。

 そんな話をしながら時計を開き、時間を確認しながら朝食を食べきる。


「おーっす」

「おっ。おはようリオン。それ食べきれる?」

「多分行ける」


 まあまだ時間はあるけど、量が多いんだよね。

 食べるのが速いのは分かっているんだけど、毎回ちょっと心配になる。

 なんて考えている間にも山盛りの朝食が吸い込まれて行っている。これはもう食べてるっていうより吸い込んでる。そういう速度だ。


「セル、あと何分だ?」

「んーっと、十五分。シャムー、カップケーキ食べな」

「うん……ふぁ……」


 まだ半分残っているカップケーキをシャムの口元に持っていって食べるように促す。

 ……よし、全部食べたね。お茶もあと一口で終わりだね。

 ロイと私は既に食べ終わっているので、先に行く二人を見送って時計片手にリオンを眺める。


 ……凄いな、もう食べ終わってる。トマリ兄さんも上限ないのかな?ってくらい食べるけど、ものすごい早いわけではないのでリオンの速度はいつまで経っても見慣れない。

 本当に噛んでるの?といつものように聞きながら、食器を片付けて教室に向かう。


 途中でソミュールを運んでいるミーファを見つけたので手伝って、無事時間内に教室に入る事が出来た。

 ソミュール、今日は起きないのかなぁ。明日は去年もやった個人戦を一日かけてやるらしいので、そっちで起きているために今日は薬は飲まないのかもしれない。


「……起きないねぇ」

「ね。ソミュちゃん昨日は夜ご飯食べて部屋に帰るまで起きてたから、午前中は起きないかなぁ……」


 まあ、彼女の場合は仕方ない事情ってことで後日の受け直しも出来るからね。

 姉さまもよく「薬は便利かもしれないけど使い過ぎたら絶対何かしら良くないことが起こる」って言ってるし、使わないでいいならその方がいいのだろう。


 ソミュールの髪を弄るのをやめて、真後ろに立って私の頭の上から様子を窺っていたらしいリオンの方を向く。

 ……首痛いな。ちょっと離れよう。


「リオン、テストの順番覚えてる?」

「覚えてねぇ」

「……日陰を好んで発芽する、白い小さな花を複数咲かせる薄緑の草の名前は?」

「え、あー……白雪草」

「おっ正解」


 詰め込むだけ詰め込んだ知識がどのくらい記憶に残っているかは分からなかったけれど、無にはなっていないみたいで一安心だ。

 横でミーファも小さく拍手をしている。可愛い。


 なんてやっている間に鐘が鳴り、先生が教室に入ってきたので慌てて席に着く。

 出席確認を終えた先生を目が合ったので、とりあえずリオンはテスト範囲に一通り目を通しましたよの意味を込めてサムズアップしておいた。


 目元を抑えたのは何を堪えているのだろうか。

 疲れ目かな?まだ朝だけど、先生なら疲れててもおかしくはないよね。

 私は先生の疲労の直接的な原因ではないと思うので、深く考えるのはやめておこう。


「はぁ……学年末テストを始める。鐘が鳴った時点で終了になるので、即座にペンを置くように。不正行為は見つけ次第別室に連行する」


 毎年恒例な説明を聞いて、配られたテスト用紙を見る。

 全員に行き届いたところで始めの声がかかったので、ペンを持って名前を書きこんだ。

 テストは午前中に座学で、野草見分け、魔物・魔獣生態、魔法座学、数学の四教科。


 午後は一年生の時にもやった内容と聞いているので、魔法をどのレベルまで扱えるかってやつだろう。流石にちょっとは内容変わってるかもしれないけどね。

 なんて、今関係ないことを考えるのはやめてテストに集中する。


 先生が教室から出て行ったのは遅刻者の対応かな?

 これも毎年ある事なので、まあ気にしなくていいだろう。

 一度集中してしまえばそれなりに長続きする方なので、答案を全て埋めるまで手は止まらなかった。


 まだ少し時間がありそうなので最初から見直しをすることにして、半分ほど確認したところで鐘が鳴ったのでペンを置く。

 いつの間にか教室内に戻ってきていたヴィレイ先生にテスト用紙が回収されて行き、教室から出て行ったのを見送って空気が一気に緩んだ。


「……んはぁー」

「クッソ緩い声だなぁ」

「お疲れリオン。答案埋まった?」

「……半分以上は埋まった」


 身体を伸ばしていたらリオンが寄ってきたので、次の科目の最終確認でもするか、と教科書を引っ張り出した。

 次も半分以上は埋まる答案を目指そう。正答率は、この際置いておくことにする。


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