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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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288,毎年恒例勉強会

 本のページを捲り、のんびりと文字を目で追っていく。

 窓を開けているので日差しと風が入ってきて、非常に気持ちがいい。

 まさしく優雅な午後のひと時である。横でリオンが唸ってるからそうは見えないけど。


 ミーファとソミュールもいるけど、ミーファは黙々とやっているしソミュールは寝てるからね。

 何をしているのかと言うと、毎年恒例テスト前の勉強会だ。

 去年に比べて座学の量は減っているので、勉強しなきゃいけない範囲も減っている。


 戦闘職は実技がメインだからね、筆記テストは毎年減っていく。

 なので去年よりは辛くないはずなのだけれど、リオンは今年の最初の頃にやっていた内容から復習しているので大変さは変わらないみたいだ。


「セルー、これなんだ?」

「どこ?……ちゃんと文読んだ?」

「読んだ」

「もっかい読んで。書いてあるよ」

「マジかよ」


 リオンが見せてきた教科書のページをざっと確認して、多分読み逃したんだろうと考える。

 まあ、普段本とか読まないなら目が滑るのも仕方ないか。

 一応自分で考えてから質問するようにはしているみたいなので、多少のヒントは出しておく。


 というかそうしないとテストまでに範囲が終わらない可能性が高いのでね。

 なにせ今リオンがやっているところは前期の半ばにやっていた内容だ。

 今年の初めの内容からやっているので、進みとしては悪くないペースだが先は長い。


「セルリアはやらないの?」

「おはようソミュール。私はまあ、いつも通り夜にやるかな」

「そっかぁ」


 目を覚ましたソミュールのほっぺをつっついて、掴まれた指を緩く振る。

 さてはまだそんなに覚醒してないな?微睡みながら話しかけて来てる感じだ。

 またすぐに寝てしまうか、このままゆっくり起きるかは私には分からないのでとりあえずちょっかいをかける。


「ふぁ……テストの後はダンスパーティーとかあるよねぇ。セルリアどうするの?」

「当然のように引きこもるよ」

「行けばいいのにぃ。楽しいかもよ?」

「えー、やだよ。人いっぱい居るの得意じゃないもん」


 学年末が近付くにつれ、テストと同じくらい話題に出るのがダンスパーティーだ。

 私は去年と同じように前日から部屋に籠る予定なのだけれど、アリアナにもグラシェにもイザールにも誘われた。


 後輩たち、ちょっと私の事好きすぎじゃない?

 ちなみに話題に出るたび「テストの心配もしなさい」と話題を逸らしている。

 イザールは行かないの分かってて言ってる感じがするけど、アリアナは一緒に行きたいオーラが漏れ出てるからね、断るよりは流して誤魔化したい。


「ソミュールは行かないの?」

「うーん……楽しそうだけどねぇ、途中で寝そうだしねぇ」

「行くこと自体には前向き……」

「だって僕、人と関わるために入学したんだもん」

「え、そうなの?」


 初めて聞く話だ。ミーファは知っていたのかな、と思って目を向けるとミーファも目を丸くしていた。

 確かにソミュールは魔法も他の科目も、一定以上の知識がある。


 わざわざ入学しなくても大抵のことは出来るだろう、と思った事もあるけれど、魔術の授業を取っていたから何かそういう特殊なものを学びに来たのだろうと勝手に納得していた。

 けど、入学の目的が人との関りだとは考えたこともなかったなぁ。


「人との関りなぁ……そういや、ソミュールって入学前からずっとヴェローさんとこいたのか?」

「ずーっと、ってわけじゃないかなぁ。お母さんのところにいた期間も結構長いよ。その後はヴェローんとこにいるけど」


 お母さん、とソミュールは当然のように言うけれど、純血の夢魔族に子育ては出来るんだろうか。

 夢魔族は歳を取るごとに眠る時間が長くなるらしいし、私が考えているような子育てというものは出来ないと思うのだけれど……


 でも、夢魔族はご飯とか食べなくても別に平気って言ってたな。

 なら子育ても出来るのか。どんなふうに育ったのかとか、聞いたら教えてくれるかな?

 ソミュールは別に夢魔族のあれこれについて隠している感じでもないし、そのうち機会を見て聞いてみよう。


「捗っているか?」

「あ、ヴィレイ先生。ちょうど今脱線してたところです」

「……リオン、進みは?」

「…………今、ここっす」


 溜めたなぁ。怒られるか呆れられるか、どっちかの反応が返ってくるって知ってる時の言い方だったなぁ。

 案の定ヴィレイ先生はため息を吐いて、ついでにノートの間違いを指摘していった。


 今日私たちが教室で勉強会をしているのを知っていて様子を見に来たんだろうなぁ。

 私が本を読んでいるのには何も言わないあたり、主に気にしていたのはリオンなのだろう。

 まあ、毎年この時期にならないと詰め込まないわけだし、心配になるのも分かる。


「他の科目は?」

「とりあえず魔法歴史は一通りやりました」

「そうか。テストに間に合うといいな」

「そうですねぇ」


 なぜかリオンではなく私に聞いて来たヴィレイ先生に返事をしつつ、聞きたいことがありそうにしているミーファの方に目を向ける。

 ミーファは今確か魔法の分類をやっていたはずだから、先生に聞きたいところでもあったのかな。


 リオンはとりあえず必要そうな知識を欠片でもいいから詰め込んで行け、という形で進めているのだけれど、ミーファは普通に詳しい情報をしっかり覚えていってるからね。

 たまにされる質問も分からない、って言うよりは教科書に書いてない内容が多いし。


「セルリア」

「はーい」

「飛行魔法が完成したようだな」

「アリアナですか?その言い方はつまり、どっかで飛んでるところを見かけた感じですか」

「ああ。お前たちが普段いるあたりで飛んでいた」

「後は効果時間と安定感なんで、落ちても怪我しないようにしてから一人で練習、って言っておいたんです」


 ヴィレイ先生がわざわざ教えてくれるってことは、結構な安定感で飛んでいたのだろう。

 いい事だ。今年が終わる前に間に合った。

 ニコニコしていたら軽く頭を叩かれて、ヴィレイ先生はそのまま教室から去って行った。


「飛べるようになったのか」

「うん。このまま続ければもっと安定するだろうなぁ」


 そういえばリオンは飛行魔法の練習風景も見たことがあるんだったか。

 いや、あの頃はまだ他の魔法の習得をやってた頃だったかな。

 なんか時々来ては眺めていたから、どのあたりまで見ていたのかよく覚えていないのだ。


 まあ、それは置いておいて、ヴィレイ先生が居ないからって脱線はもう許されないぞ。

 間に合うといいな、って先生が言ってたでしょう。あれ、間に合わないかもな、って意味も籠ってるからね。


 分かったら続きからしゃきしゃき脳に詰め込みなさい。時間はもうあんまり無いんだぞ。


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