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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
287/477

287,飛行魔法の進捗

 せんぱーい、と声をかけてくる後輩が、三人並んで立っている。

 ……今日はアリアナとグラシェに飛行魔法を教える日だったんだけど、なんか大きな黒猫が混ざってるなぁ。


「イザールも飛行魔法やる気になった?」

「ならない。絶対やらない」

「自分で飛ぶならそんなに怖くないと思うけどなぁ」


 まあ、無理強いする気はないので別にいいけれど。

 一年生ズは飛行魔法を完成させたいんだろうから続きからやるけど、イザールは何をしたいんだろう。前は確か、物理力の話をしたんだったか。


「まあ、何となく混ざってみただけだから俺はちょっと離れたところで見てるねー」

「そっか、了解。じゃあ二人は前の続きからやろうか」

「はい」


 いつも通り、風を起こして地面にクッションを敷く。

 手を差し出して支えにしてもらい、演唱終了と共に少し力を入れる。

 アリアナは乗るだけなら支えが無くても大丈夫になってきたかな。グラシェも、前より大分安定している。


「……イザール」

「はーい。何?先輩」

「グラシェの事支えてて。手貸すだけで良いから」

「オッケー」


 杖を掴む私の手を支えにしていたグラシェの重みが無くなったのを確認して、自分の足元に風を作ってその上に乗る。

 そして、アリアナの手を引いて少しずつ上に移動する。引っ張りすぎないように、少しずつ。出来るだけアリアナ自身の意思で上がるように意識して、ゆっくりと上がる。


「大丈夫、そのまま」

「はい」


 それなりに高い位置まで上がってきたけれど、アリアナの体勢は崩れていない。

 足元の水も全くブレていないので、もう私の補助が無くても大丈夫なんじゃないだろうか。

 流石に今すぐ手を放すようないじわるはしないけれど、次からは支えなしでの飛行練習になるかな。


「目線上げてごらん」

「はい……わぁ、すごい……」

「ここまで上がれるなら、あとはもう一人でも練習出来るかな。落ちて怪我だけしないように気を付ければいいと思うよ」

「はいっ!」

「よし、じゃあゆっくり降りよう」

「分かりました」


 建物の二階より少し高い位置まで上がって、そこからゆっくり降りてくる。

 グラシェはまだ杖を支えにしない、っていうのに苦戦してる感じかな。

 二度目の演唱をしているところだったので邪魔しないように少し離れた場所に着地して、足元の風を霧散させる。


 アリアナも地面にしっかり降りて魔法を解いたのを確認して、次は手を貸さずに様子を眺める。

 あまり高いところには上がりすぎないように、と声をかけてから、一度グラシェの様子を見に行くことにした。


「……グラシェー、杖を支えにするなぁー」

「先輩これ思ってるより難しいよ!」

「それで癖付くと後が大変だよ」


 姿勢が安定しないのが杖を支えにプルプルしているグラシェに声をかけ、魔法の練習より体幹を鍛えた方が速いのではなかろうかと考える。魔法使い、そのあたり疎かにしがちだからね。


 その点アリアナは貴族の令嬢だからか姿勢は綺麗だし体幹も強かった。

 ちなみに私は兄さん達と遊んでいる間に勝手に鍛えられていたタイプ。

 コガネ姉さんが鬼ごっこの最中に地面をうねらせてきたりするので、そういうので鍛えられたんだろうな。


 というか今思えばあれ、イタズラとかじゃなくて私の体力作りとかが目的だったんだろうな。

 やられた時はわめいたものだ。多分今やられてもわめくけど。

 だって本当に急に地面が半液体みたいになるんだもん。沈んだりはしないけど、歩きにくくて仕方ない。


「グラシェは体幹鍛えた方がいいね。……イザール、なんかいい鍛え方とか知らない?」

「俺猫だからなぁ……鍛えるまでもなかったんだよね」

「そっか……猫だもんな、そりゃそうか」

「そのあたりは先生に聞いてみれば?グラル先生とかそのあたり詳しそうだし」


 確かに、元々先生に任せた方が良さそうならそうしようと思っていたんだった。

 なんだかんだ一年くらい経っているから、最初の頃に考えていた事とかちょっと忘れてたな。

 ともかくこの件は魔法とはちょっと違う部分になってくるので、ちゃんと先生に任せた方がいいだろう。


「じゃあアガット先生に聞いてみます。多分なんか教えてくれるし」

「そうだね。姿勢が安定すれば、魔法の強度自体は問題ないと思うから」

「頑張るー」


 まだ続けるらしいので、高い位置にある頭をちょっと浮いてポスポス撫でて、アリアナの方に戻る。

 ……振り返ったら思い切り目が合ったし、なんかこう、ちょっとだけ殺気が滲んでる気がするんだけどどうしたのかな?そんなに感情が動いても浮かべてるのは偉いね。


「うん、安定してるね。いい感じ」

「はいっ」


 誤魔化しがてらアリアナの頭を撫でれば、嬉しそうに目が細まる。

 うーん、可愛い。ちょっと高度がブレ始めたから落ち着こうか?

 顔にはほとんど出ないけど、アリアナは分かりやすく魔力が揺れる。


 まあ、これだけ安定しているなら大丈夫だとは思うけど、高いところを飛んでいると少しのブレでも落ちる危険があるからね。

 見てる分には可愛いからいいんだけどね。見てないところでブレた時が怖い。


「セルリア」

「わあ、ヴィレイ先生。何ですか?」

「リオンの居場所を知っているか」

「……あー……屋内運動場でなんかするって言ってた気がします」

「そうか。助かった」

「いえいえ」


 ゆっくり高度を上げているアリアナを見ていたら、後ろからヴィレイ先生に声をかけられた。

 びっくりした……今日だけ大人気になったのかと思った……

 リオンを探していたのは、何かをやらかしたのかただ用事があったのか。


 夕食の時に会うだろうから聞いてみよう。

 もし夕食にも来ていなかったら、何かしらの面倒ごとに巻き込まれたと判断する。

 リオン自身が何もしていなくても、うっかり巻き込まれてるのはたまにある事だからね。


 前にあったあれこれを思い出していたら、視線の先でアリアナの体勢が崩れた。

 ……足元の水がブレた感じだから、時間経過で保てなくなったのかな。

 考えながら風を吹かせてアリアナを支え、ついでに飛んで抱きかかえて地面に降りる。


「大丈夫?」

「はい、ありがとうございます」

「継続時間はやって行けば伸びると思うから、焦らないでゆっくりやろう」


 頭を撫でながら声をかけて、アガット先生探してきます!と元気よく走り去って行ったグラシェに手を振る。アリアナはもう少し続けるみたいだから、私はここで見てようかな。


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