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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
284/477

284,難呪の完成

 杖をクルクル回しながら、手元の紙に恨めし気な目線を落とす。

 ここ最近の攻撃魔法の授業で私がずーっとやっている事だ。なんか知らないけど同級生も皆私のやっている事を知っているらしく、頑張れ……と優しく声をかけられている。


 つまりそう、難呪の習得である。

 ちなみにまだ演唱を覚えるところでつまずいている。だって難呪って一文字でも間違えると発動しないんだもん。いつもとは難易度が違うのだ。


 それ故の難呪なのだけれど、それでも紙を恨めしく睨んでしまうくらいには苦戦させられている。

 見ながらならどうにか言えるようにはなったのだけれど、まだ見ないと全部は言えない。

 あと、見ながら言っても欠片程度しか発動しなくてちょっと心が折れかけた。


 先生からは「発動の兆しはありますね。このまま頑張りましょう」と肩をポンと叩かれてその場に崩れ落ちたりもした。ちょっとざわつかれたけれど、何やら無茶ぶりをされたらしいと察したのかみんなすぐに自分の練習に戻って行った。


「ッフー……うっし、やるか」


 気合を入れて、手元の紙を目の前に浮かせる。

 なんか知らないけど、杖を両手でしっかり持ってる時の方が発動率いいんだよね。

 魔導基盤との接触面とか、なんか関係あるのかな。その辺研究してる人とかに今後で会ったら聞いてみてもいいかもしれない。


「ウィルヴァ カフレ グヴェリェッテント レワァマレワマ イリツィヴィア ワルガレシュ アットレグレス エレア コレフ オーレアレアド キエケタ ノークラッティエ エルバーレ」


 杖から風が吹き始める。

 今までで一番強い反応に、杖を握り直して口を開いた。

 演唱は残り半分。ここまで来たのに噛みたくはないので、ちょっと慎重に行こう。


「ケテラ ケテラ チオダヨイ ウビカレモマ ザレスドレア シウエ ソタノミラ ワコニノレェ コエタモタウ レワレ スリファカ タフレス サリサエレ セヴァイストレヴィア ガウネ」


 バキバキと音を立てて足元の地面が浮き上がり始め、私の周りに漂い始める。それは普段風でやっているような形で、さらにそこに氷と風、見えないけれど音の魔力も一緒に回っている。

 ……凄い、初めてしっかり成功した。


「セルリア!」

「はい!?」

「これに撃ってみてください!多少威力がブレても構いませんので!」


 凄いなぁ、と他人事のように感心していたら、後ろからとんでもなくウッキウキな先生に声をかけられた。

 そして、少し離れているところに浮かんだ的を示される。


 ……なるほど、成功したから先生のテンションが高くなってるのか。

 威力がブレてもいい、というのは低くてもいい、ということではなく、暴走気味に周りに散っても構わない、の意である。


 そこまで言われて撃たないのもね。私も威力見たいし。

 先生もウキウキだけど、私も同じくらいウキウキなのだ。

 示された的を狙って、両手で構えていた杖の先を向けて周りをまわっているものを撃ち出す。


 最初はそれほど速度が出ていなかったけれど、徐々に速度が上がって行き最終的には風を切る音をさせながら的を粉砕した。

 全て撃ち終えて先生の方を向くと、先生は満面の笑みを浮かべて拍手をしている。


「やりましたね!」

「やりました!やったー!」

「今日はこのまま続けてください。次回以降どうするかは今日の最終状態を見て決めましょう」

「分かりました。……そういえば、この難呪って何か名称あるんですか?」

「多重連撃砲、と基本的には呼ばれていますね」


 わーっと両手を上げて喜んで、去って行く先生を見送った。

 まだ授業時間は半分ほど残っているので、あと何回かやってみるべきだろう。

 これでまぐれではなくしっかり習得している、って判断になったら次回から別の魔法の練習になるかもしれないし。


 ずーっと難呪の演唱をするの、ものすごく疲れるからね。

 今後個人練習でじわじわやっていく方向にどうにか持っていきたいのだ。

 そんな不純な動機だけれど、やる気があるなら特に怒られたりはしないのでもう一度杖を構えて紙を浮かべる。


 ちなみに粉々になった的は四年生の先輩が回収して組み直していた。

 目が合ったので頭を下げたら、めちゃくちゃいい笑顔でサムズアップされたので笑顔を返しておく。

 みんな攻撃魔法専攻の人だからなのか、威力強めの攻撃魔法を見るとテンション上がるみたいなんだよね。


「セルリア」

「あ、エマさん!」

「見てたわよ。すごいじゃない」

「ありがとうございます」


 どこかへ移動中らしいエマさんからも褒められて、どうしても頬が緩む。

 苦労した魔法程出来たら嬉しいし褒められたら嬉しいよね。

 このまま家への手紙でも今日の事を書くくらいの勢いだから、やはりもう一回くらいはしっかり成功させたい。


 去って行ったエマさんを見送って、杖を両手でしっかりと握る。

 目の高さに浮かせた紙を見て、そこに書かれた文字列を最初から追う。

 気を抜くと普通に噛むからね。一回成功したからといって、全部言い切る難易度が下がったわけではないのが厄介だ。


「ウィルヴァ カフレ グヴェリェッテント レワァマレワマ イリツィヴィア ワルガレシュ アットレグレス エレア コレフ オーレアレアド キエケテ……」


 ……そう、油断したら噛むし、油断してなくても普通に間違えるのだ。

 今回は声に出した時点で間違いに気付いたからまだいい方で、最後まで言い切っても発動しなかった時に初めて間違えていたことに気付く、なんてことも普通にある。


 半分まで言い切れればそこで発動の有無が分かるけどね。

 後半で噛んだら吹き始めた風が消えるからそれでも判断できる。

 前半部分は自己判断しか出来ないので紙を見ないで言える日はいつになるのか、と上がったテンションが一気に通常時に戻ってしまう。


 まあ、何をダラダラ言っていてもやるしかないからもう一回やりますけどね。

 杖を一度クルリと回して、ついでに肩も回して軽くリセットをかける。

 構え直して紙を見据え、もう一度ゆっくりと息を吸い込んだ。


「ウィルヴァ カフレ グヴェリェッテント レワァマレワマ イリツィヴィア ワルガレシュ アットレグレス エレア コレフ オーレアレアド キエケタ ノークラッティエ エルバーレ


ケテラ ケテラ チオダヨイ ウビカレモマ ザレスドレア シウエ ソタノミラ ワコニノレェ コエタモタウ レワレ スリファカ タフレス サリサエレ セヴァイストレヴィア ガウネ」


 ぶわり、と吹き出した風に髪が煽られる。

 毛先が思い切り顔に当たった。痛い。これで演唱を中断しなかった私は偉いと思う。

 続いて地面が捲れはじめて、私の周りをまわり始めた。


 周りからはどう見えているんだろうな、と思いつつ霧散させようとしたら、先ほど的を直していた先輩が大きく手を振っていることに気が付いた。

 私が気付いたことに気付いたのか指さした先には、先ほどより硬そうな的が浮いている。


 なるほどなるほど、やっぱり一回じゃ威力の正しい判断は出来ないですもんね?

 示された的に、一回目と同じように周りに浮いたものを撃ち込んでいく。

 全て撃ち終わった後で的の粉砕を確認して、杖を持ったまま両手を上に突き上げた。


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