282,ロイの新しい剣
よく晴れた空を見上げて、それなりの速さで流れていく雲を目で追う。
左手に持った杖を大きくクルクル回して、起こった風を操作はせずに霧散させていく。
ボーっとしながら半分無意識でそんなことを続けていたら、少し離れたところから声をかけられた。
「おはようセルリア」
「おはようロイ。それなに?」
「朝ごはん。夜食にしようと思ってたんだけど、食べなかったから」
「課題?」
「いや、ちょっと気になる資料があってね」
私も読書で夜更かしをしがちだけれど、ロイも課題や自主的な勉強やらで夜更かししがちだなぁ。
ちゃんと寝てるよ、とこの話題になるたびにロイは言うけど、どうやって時間を捻出しているんだろうか。
「あ、シャム起きてきた」
「おはよーぅ。二人とも早いねぇ」
「おはよう。シャム、昨日の課題終わった?」
「終わった!明日答え合わせしよ」
「そうだね」
課題は課題であったのか。研究職は大変そうだなぁ。
私は難呪やりたくなさ過ぎて自主的にやったりとかしてないから、二人の勤勉さには頭が下がる。
話しながら時計を取り出して時間を確認していると、シャムが腕に抱き着いて来た。
体重をかけたりかけられたりしながら会話を続けて、建物からリオンが出てきたのを見つける。
今日も今日とて寝癖が付いているのは気にせずに出てきたようだ。
……あれ、いつもよりちょっと早い?今日は比較的目覚めが良かったのかな。
「おーっす」
「おはよう。今日はちょっと早めだね」
「お?そうなのか?」
自覚はなかったらしい。時計、一つくらい持っておいた方がいいんじゃないかなぁ。
まあ、なくてもどうにかなってるからいいのか。
話しながらとりあえず門を出て大通りへ向かい、今日の予定を何となく話し合う。
「私文房具屋さん行きたい」
「俺はとりあえずなんもねぇかな」
「あ、僕、武器屋いきたいんだよね」
「お。買い替えんのか」
「うん。先生からもう少し重い方がいいだろうって言われて」
ロイの剣は結構使い込まれていて、ちゃんと手入れもされている。
そろそろ買い替えようかな、とは前から言っていたので、行く店の目星は既についている。
どのくらい時間がかかるかも分からないし、まずは武器屋に向かうことになった。
リオンの剣を買うってなった時は何も分からなかったからトマリ兄さんについて来てもらったけれど、冒険者活動とかを本格的に行うようになった今では職人街もそれなりに歩きなれている。
私はミーファとかリオンが行くのについて行く程度だけど、それでもある程度道は覚えたしね。
「おっなんかいい匂いするな」
「ほんとだー。どこの出店だろう?」
「あっちじゃないかな?」
「あった。煮込み系のお店みたい。寄ってく?」
「行こうぜー」
職人街に向けてのんびり歩いていたのだけれど、リオンがお腹を鳴らして立ち止まったので近くの出店を見渡して見つけてそっちに寄ることになった。
ロイも買ってくるらしいから、どっちかから一口分けて貰おう。
まだお腹は空いてないけど、いい香りなのは間違いないから味も気になるしね。
シャムも同じ考えらしいので適当なベンチを見つけて座り、誘導用に小さな風を起こして二人を待つことにした。
「戻ってきた……けど、なんか中身違う?」
「え。二種類あったのかな」
風を引っ張り戻しながら歩いて来たリオンとロイを見上げ、とりあえず座る用に促して手に持った器の中身を聞く。
どうやら上にかかっている調味料が何種類かあったらしく、別のものを頼んできたらしい。
「一口ちょうだい」
「おう」
「あー!!辛!すっごい辛い!えーんロイに騙されたー」
「ロイがシャム泣かした」
「ごめんごめん」
私がリオンの持っている方を一口貰っている間にシャムが半泣きになっていた。
なるほど、ロイの持っている方は辛いのか。私は手を出さないでおこう。
ロイはそんなに辛くないよ、と言っているけれど、シャムが駄目なものは私も大体駄目だからね。
「リオンのは辛い?」
「辛くねぇよ。ほれ」
「……ほんとだ、辛くない。美味しい」
「辛いのも美味しいけどなぁ」
「そっちも後でくれ」
「いいよ」
半泣きのシャムに抱き着かれて、頭を撫でつつ水を差しだしたりしていたらリオンとロイは残りを食べきったようだ。
二人とも辛いの好きだよねぇ……私だったらまず手を出さないだろう色してたよ、ロイの持ってた方の器。
シャムは好奇心に負けたんだろうなぁ、と思いつつ器を返しに行った二人を一度見送り、道の途中で合流して目的の店を目指す。
ちなみにシャムは別の出店でフルーツ入りの飴を買って舐めながらの移動だ。
「そろそろのはずだけど……ああ、あった。あそこだ」
「結構新しい店だね」
「うん。他の国で剣を作ってた職人さんが新しく店を構えたらしいよ」
つまり独立したから新天地にやってきた、ということだろうか。
どこの国で修業をしていた人なのだろう。
結構差があったりもするらしいからね。私はよく分からないけれど、たまにシオンにいとトマリ兄さんが剣を見て何か話していたのを聞いていた。
「とりあえず入ってみよう。……シャムは大丈夫?」
「らいよぶ」
ちょっと大丈夫じゃなさそうだな……まあ、私たちは終わるまで見学するだけだし大丈夫か。
リオンは色々見て回りそうなので私はシャムの横に居よう。
と、考えている間にロイが扉を開けていたのでその後ろについて行き、まだ新しい店の中に並べられた武器におぉ、と小さく歓声を漏らす。
ロイは早々に目的の一角に歩いて行ったので、リオンがどこに行くのかを確認しつつ腕を引いてくるシャムについて行く。
……おお、すごい。飾り彫りだ。
「すごいねぇ」
「ねー。飾り彫り、イツァムナー同盟とかで盛んなんだっけ」
「そうだね、装飾用の剣だけじゃなくて、普通の剣でも結構彫られてるみたい」
飾り彫りは魔導基盤との相性も結構いいので、魔導基盤の組み込まれた剣なんかには飾り彫りが居一緒にされていることも多い。
モクランさんの剣にもしてあったはずだ。本人曰く、方向性の確定に便利、だそうだ。その話をシャムにすると目を輝かせたので、待っている間もう少し詳しく話すことにした。
タイトル、ロイの新しい剣なのに剣出てきませんでした。
まあそんなに重要でもないので問題はないです。久々に買い物に行かせたかっただけです。




