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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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281,魔法の物理力

 放課後になって、特にすることも無いからと廊下をのんびり歩いていたら曲がり角の先から聞きなれた鈴の音が聞こえてきた。

 このまま進むとぶつかりそうなのでちょっとだけ速度を落として、先にイザールが通るのを待つ。


「やっほー、先輩」

「やっほーイザール。……それなに?」

「……魔導器」

「へぇ。初めて見た。新作?」

「うん。試作品らしくて、使ってみてくれーって渡された、んだけど……俺魔法とかあんま使わないんだよね」


 言いながら頬を掻いたイザールの手には、腕輪サイズの魔導器が握られている。

 見せてーと言ったら渡してくれたので、手の中でクルクル回して何となくの確認をしていく。

 サイズの調整とかは出来ない感じかな?内側にも掘り込みがしてあるので、魔導器としての耐久性はそれなりにありそうだ。


 リングを大きくして耐久度を高める実験でもしてるのかな?

 着ける位置が指から手首に移動しているので、魔力の流れ的にちょっと難しくはなりそうだけどリングで足りない魔力量の魔法まで行える、というのは中々面白い設計だ。


「先輩使ってみてくれない?」

「良いけど……連続使用とかのデータも欲しいならイザールが使うべきだと思うなぁ」

「んー……まあそれもそうかぁ。先輩、魔法教えてくれない?暇な時でいいからさ」

「いいよ。なんか最近後輩に魔法教えることも増えたなぁ」


 今日もこの後暇らしいので、とりあえずいつもの林の前に移動することにした。

 あんまり使わない、という事は初級魔法くらいなら問題なく操れるんだろう。

 そうなると、何か明確にやりたいことがあるって言うよりも私が魔法使いだから何となく言ってみた、って感じかな。


「魔法は使えると便利だからねー。イザール属性闇だよね?」

「そうだよ。適性はC+だから出来て中級までかな」

「闇は特殊だからなぁ……他の属性、初級は発動する?」

「光は無理かな。あと炎も使えない」

「なるほどー?」


 結構明確に闇との相性に依存してるみたいだ。

 まあ、何となく扱えるところをちょっとやってみる、くらいでいいんだろう。

 イザールは獣人なので元の身体能力が高いわけだし、下手に魔法を使おうとして固まる必要もないよね。


「まあでも、物理力が強いの一個くらい使えたら便利だよねぇ」

「俺、その物理力ってのがよく分かんないんだよね」


 あぁ、と緩く声を出して、地面に落ちていた石を浮かせる。

 浮かせた石の横に水の球を作り、それをイザールの目の前に移動させてコンッと地面を叩いた。


「はい、どっちが硬い?」

「え、石?」

「そう。物理力って、つまりそういうことだよ」

「えー……座学にしてー先輩」

「座学、結構こんなんじゃない?」

「先輩の学年の魔法座学担当誰なの?」


 まさか他の学年は青空座学やってないのか……?

 担当する先生はざっくり同じ感じだと聞いていたのだけれど、実は違ったりする?

 同じだとしたらなんで私たちの代だけ青空教室だったんだ。風とか気持ちよかったから別にいいけど。


「えーっと、魔法って物理ではないじゃん?」

「そうだね」

「でも、木とか地とか、木を生やしたり地面抉って浮かせたり、結構物理じゃない?」

「……ん、そうだね」


 イザールの前から浮かせた石を移動させて、右手の上に持ってくる。

 水の球は左手で持った杖の上に浮かせる。それを特に意味はないけれど交互に上に打ち上げながら、のんびりと声を発する。


「水は物理?」

「……え、どっち?触れるけど、持ったりは出来ないよ」

「そう。水は、物理力としては弱い方。じゃ、風は?」

「それは……物理じゃ、ないでしょ」


 返ってきた返事ににこりと笑い、水の球の横に氷を作る。

 大きめに作って風でザクザク削って丸くしていき、いい感じに丸く出来たところで満足したので手を止めて、それも上下にフヨフヨさせておくことにした。


「割と、何となくで理解できるもんだよ。物理力。そんでもって、全てを確実に正しく理解するのは無限に時間がかかる、らしい。やってないから知らないけど」

「へぇ、先輩はそう言うの考えるの好きなんだと思ってた」

「嫌いじゃないけど、それ以上に楽しいことが好きだからね。それを考えるより、新しいものを探す方が楽しいからなぁ」


 見えないけど、風の球も作って浮かべる。

 ついでに木の根で作った球も浮かべておくことにして、作り出した木の根をグルグル巻いて硬くしていく。


 イザールが疑問の目を向けてきているけれど、一旦無視してさらに光と闇の球も作って浮かべ、あとは何が良いだろうかと考える。

 炎は私が使えないから……とりあえずこれでいいか。


「はい、じゃあこれをなんとなーくで物理力強い順に並べてみよう」

「えっ……えー……とりあえず、石?」

「ふんふん」

「次が、木」


 イザールが指定した順に、作った球を移動させていく。

 最終的な順番は地、木、水、氷、風、闇、光になった。

 魔法使いではないけれど、魔法系の知識はしっかりあるみたいだ。授業も真面目に聞いているんだろう。


「うん、合ってる合ってる」

「よかったー」

「ちなみに、これがそのまま物理攻撃への対抗力にもなってるからね」

「……俺の記憶が正しければ、先輩は物理攻撃のはじき返しにも風を使ってた気がするんだけど……」

「まあ、物理力低いからって出来ない訳じゃないからね」


 私の場合は下手に他の属性で対抗するより、風で無理やりにでも押し返した方が確実ってのも理由だけど……そのあたりは言わなくていいか。

 何せ私は風でダンジョンの壁を壊す女。になる予定な訳だし。


「さて、それじゃあイザールが使えそうな物理力高い属性を探そうか」

「あ、そういえばそんな話だったっけ。先輩的にオススメとかある?」

「木は多分相性悪いから、地とかがいいんじゃないかな?」


 言いながら地面を杖で叩いて拳大に割った地面を浮かせる。

 私が無演唱で浮かせられるのはこの程度だけれど、熟練の地属性魔法使いはこうして浮かせた地面を足場に上空へ駆け上がったりもするらしい。


 地に足を付けたまま空に上がるとは、なんとも贅沢な話だ。

 まあ、空に大地が浮いている、なんて話も姉さまの知り合いの考古学者さんたちから聞いたこともあるし、割とあることなのかな……いや、そんなことないか。


 なんて、考えながら浮かせた地面を元に戻してあれこれ作った魔法の球を全て消し去る。

 イザールにはとりあえず地属性魔法の一番最初の演唱を教えて、発動しそうかどうかを確かめることにした。


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