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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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277,去年もやった作業

 ダンジョンに行ってきた日から数日が経ち、私のダンジョン系書物読みあさり欲求も大分落ち着いてきた頃。その日最後の授業が終わったので図書館にでも行こうかと思っていたら、頭の上にそっと本が乗せられた。


「……面白そうですねこの本」

「図書館に同じものがあるぞ」

「へぇ……今度借りてみます」

「ああ。ところでセルリア、暇か?」

「暇ですよ」


 とりあえず本のタイトルだけメモさせてもらって、荷物を持って先生を追いかける。

 向かう先はどこだろう。魔術準備室じゃない気がするんだけど……

 なんて考えていたら、ヴィレイ先生はあまり使った記憶のない教室に入って行った。


「今日は何をするんですか?」

「一年の魔法基礎授業の準備だ」

「……あれ、去年もやったやつですか?」

「ああ」


 小さい魔石を板にくっ付けて固定する作業かな?

 ヴィレイ先生は細かい作業がずーっと続くのは本当に嫌らしいので、絶対に一人ではやりたくないんだろう。


 私は割と得意だからいいんだけどね。

 ……そういえば、去年はちょうどこのくらいの時期に姉さまが薬学書を作ったって大騒ぎになってたんだっけ。今となっては懐かしいけれど、急なお知らせは今後も控えてほしい。


「……はぁ」

「嫌そうですねぇ」

「面倒なものは面倒だからな」


 それでもやらないといけないのだから先生は大変だ。

 本当に、こういう細かい事をやってくれる専門の事務員とか雇った方がいいんじゃないのかな。

 専門知識が無くても出来る細かい作業だけでもしなくてよくなれば先生たちの負担は大分軽くなる気がするんだけどな……


「ダンジョンに行ってきたらしいな」

「はい。四人で行ってきました」

「どうだった?」

「普段とは違う緊張感で疲れました」


 板に魔石を括りつけながら、ヴィレイ先生とのんびり話す。

 この前の休みの行き先を知っているのは、今更疑問にも思わない。

 学校内で結構話していたし、他の先生とかとの会話で出てきたのかもしれないしね。


「進行に問題は?」

「無かったですね。ロイがしっかり導いてくれたので」

「そうか。……リオンはダンジョンの構造を理解しているのか?」

「多分してないですね。ダンジョン知識勉強会は今度やります」


 今年ももう後期に入ったから、テストも意識して行かないとなぁ。

 リオンはどこまでちゃんと覚えているんだろうか。今年も座学は高確率で寝ているけれど。

 まあ、戦闘職のテストは学年が上がるごとに筆記が減って実技が増えるので、今年はそんなに心配はしていないのだけれど。


 というか、実技の方はあと半年もあればリオンは魔法を斬れるようになってしまいそうなので、リオンの心配より自分の心配をしないといけない。

 斬りにくい属性の魔法でも覚えるかなぁ……風も斬りにくい属性ではあるんだけど、リオンは私と遊びすぎて風への対応力がやたらと高いので他の属性も覚えるべきだろう。


 何がいいかなぁ。雷とか闇とか、そこらへんがいいと思うんだよなぁ。

 でもそのあたりは普段から使っているから、いっそのこと木で使えそうな魔法でも探してみたらいいかもしれない。


「……先生、木って丸まりますかね?」

「何をするつもりだ?」

「たまには別の属性の魔法でも練習しようかと」

「……柔らかい根などであれば簡単に曲げられはする。やるのならただ丸めるのではなく密度を高めて、根ではなく樹皮で作れ」

「なるほど、難易度が結構上下するんですね」


 思いついたことをそのまま声に出して、真面目に答えてくれた先生に返事をする。

 確かにどうせやるなら強いのを作りたいし、一応使えると言っても私がやったことのある木属性の魔法は「花冠を作る」という攻撃力皆無のものくらいなので、一回一から学び直してみるのがいいかもしれない。


 木属性って部分ごとの特性とかあるからね、どうせならしっかり覚えておいた方がいいだろう。

 実際にやりながらの方が分かりやすそうだからやってみることにして、その中でどうにも分からない、ってところがあれば誰か捕まえて聞いてみればいい。


 聞いてみる相手は先生か、同級生の魔法使いとかでもいいしね。

 サヴェールあたりが詳しい気がする。確証はないけど、何となく。前に使ってるのを見た気がするんだよなぁ。


「後輩に教えている魔法の方はどうなった」

「もうすぐ飛べそうな感じです。魔法はしっかり出来上がってるので、どこまで怖がらずに乗れるかですねぇ」

「増えた方は?」

「グラシェは……実際にやる所まで行ってないです。アリアナが威嚇するので」

「そうか」


 アリアナもグラシェも属性は氷だから、同じ魔法で飛べると思うんだけど……教える所まで行ってないんだよねぇ。

 初めてしまえば元々魔法を扱っていたグラシェはすぐに追いつくだろうから、そのうち隙を見て演唱だけでも教えておこうとは思っている。


「懐かれ過ぎるのも大変だな」

「可愛いからいいんですけどね。……そういえば、ヴィレイ先生って飛べるんですか?」

「何だ急に」


 話題が飛行魔法だったので、前からちょっとだけ気になっていた疑問を口に出す。

 そんなに深い意味もないのだけど、単純に気になるよね。

 ヴィレイ先生の能力値って基本的に謎だから、飛ぶにしても魔法じゃなさそうだなぁとか勝手に考えていたのだ。


「……教えんぞ」

「ケチだなぁ……って痛った!?」

「ふん」


 ぼやいたら服の裾で思い切り頭を叩かれた。

 裾なのにやけに痛い。でも裾な辺りにちょっとだけ慈悲を感じる。

 ……それはそれとして、教えてはくれないらしい。飛べるか飛べないかだけでも教えては……くれないんですね、そうですか。


「今回の手伝いのお駄賃ってのは駄目ですか」

「何がそんなに気になるんだ……」

「我ながら不思議ではあるんですが、気になるんですよね」

「……今は飛べん。条件が揃えば飛べる」


 駄々を捏ねてみるものだ。あれこれ言い募っていたら、ヴィレイ先生は諦めたようなため息を吐きながら教えてくれた。飛ぶのに何か、条件があるらしい。


 昔、空を飛びたいと言い始めた頃に兄姉たちが教えてくれた飛行魔法の中に、制限が付くようなものはなかった。

 つまり私の知らない魔法か、魔法ではなく魔術ってことになるのかな。これ以上は聞いても教えて貰えなさそうだし、聞かない方が良さそうだと思ってとりあえず作業を再開した。


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