276,最奥に居るもの
休憩を終えて、再びダンジョンの中を進んで行くことになった。
シャムの明かりも再度作られたので入る前と同じように一つ手元に誘導しておく。
手元に誘導はしたけれど、浮かせておく場所は私の少し前、ロイの横だ。
出来るだけロイの手元を照らす位置に置いておいた方がいいかな、と思って位置は調整してある。
前の方に浮かんでいる明かりは前方の視界確保用だけれど、後ろの索敵は風でやっているから明るさは関係ないんだよね。
「おっ。奥に階段見えたぞー」
「気を付けて降って行こう。三階層目はちょっと魔物も増えるかもしれないから」
「分かったー」
階段を降りきって三階層目に降りると、なんだかちょっと道が広くなったような気がした。
なんでだろう。最後の階だからかな。
あとでロイに聞いてみよう、なんて思いながらクルリと杖を回す。
道が広くなったので、風の横幅を増やさないといけないので、その分の風を起こして背中側を覆う風の壁に補充する。
とりあえずこのくらいで良いだろうと杖をしっかり持ちなおしたら、前の方でリオンが大きな声を上げた。
「わらわら出てきたぞ」
「やっちゃえリオン!」
どうやら前方に複数体の魔物が現れたようだ。ロイの後ろに居ると前の方はほとんど見えないので何がどのくらい現れたのか、とかは全く分からない。
まあ、シャムが補助してるしそもそもリオンは強いし大丈夫だろう。
私は後ろの警戒に集中することにして、それほど時間もかからず再び歩き始めたロイの背中を追いかける。
通り過ぎる時に目に映った分だけ数えてみたところ、五体くらいだった。
「また道が分かれてんぞ」
「右から行こう」
「おー」
ロイの指示には迷いがない。ダンジョン内の分かれ道は全部右から通る、みたいな決まりがあったりするんだろうか。
今まで全部右から通ってきているはずだ。……単に分かりやすいからなのかなぁ?
「おっ?なんかでけぇ扉がある」
「最奥まで来たみたいだね。中にはこのダンジョンのボスがいるはずだから、気を引き締めて行こう」
「ボス、居るんだ」
「うん。ダンジョンの核が破壊されなければ、時間をかけて魔力が溜まって復活するんだ。前にここに人が来たのは二週間前くらいだから、多分復活してると思うよ」
部屋の中に入ってこの扉を閉めてしまえば後ろから襲われる心配はなくなるので、私も前に出て戦闘に参加することになる。
練習用とされているダンジョンであっても、流石にボスは気合を入れて対峙しないと危険だろう。
「……大丈夫かな?」
「うん、大丈夫。いけるよ」
「俺もいけるぞー」
「私も!……なんかすることある?」
「リオンの補助かな。セルリアは今回攻撃と自分の防御だけに集中して」
「分かった」
最後の確認をして、ロイが扉をそっと押す。そんなに力を入れているようには見えなかったのだけれど、扉は手を離した後も開き続けて完全に開かれるまで止まらなかった。
この状態からしばらくすると今度は勝手に閉じ始めるらしいので、その前にさっさと部屋の中に入ってしまう。
最奥の部屋の中は途中のセーフエリアよりも広く、何が光っているのかそれなりに明るい。
なんて確認をしていたら、部屋の奥に居た何かがこちらに歩いて来ているのが見えた。
何のよう、というたとえがとっさに出てこない絶妙な見た目をしているこいつがこのダンジョンのボスのようだ。
杖を構えて、ゆっくりと場を風で満たしていく。
うっすらと風が漂い始めたところでボスがリオンに飛びかかり、戦闘が始まった。
補助はシャムがやっているので、私は一気に風を増やしてついでに上に飛びあがる。
頭のようなところはあるけれど、あそこを狙えばいいんだろうか。
とりあえず一発撃ってみよう、と風を練り上げて飛ばし、それが弾かれたのを確認してロイの傍に降りる。
「弾かれたー」
「流石に硬そうだね。……リオンも弾かれた?」
「おー。正面からは無理だな」
「……セルリア、風の槍ってどのくらいの強さになったかな?」
「え。今ここでやるの?」
指示を貰いにロイの傍に行くと、リオンとシャムも気付いて寄ってきたのでシャムと一緒に防壁を作りながら話す。
そうしたら、ロイが笑顔でそんなことを言ってきた。
確かにずっとやってはいたし、精度も威力もいい感じってお墨付きは貰っているけど、実戦で使ったことはあんまりないのだ。
そんなことをぼやいて見ても、ロイは笑顔のまま。……なんだろうなぁ、先生たちの笑顔にものすごく似てるなぁ。
「……失敗しても文句言わないでね」
「もちろん」
「どこに当てればいいの?」
「セルリアがさっき狙ってた場所の、少し下。あそこだけ色が違うの分かるかな?」
ロイが指さした先を確認して、よく見ると色が少しだけ薄い一部分があるのを見つけて頷いた。
リオンも見つけたようで、横からあれかーという緩い声が聞こえてくる。
「あそこを撃ちぬいてほしいな。装甲が砕ければ、リオンがとどめを刺せると思う」
「分かった」
「シャム、リオンをあそこまで上げられる?」
「私、飛ばす系苦手だからなぁ……あれの側面に足場作るから、リオン駆け上がれる?」
「任せろー」
作戦会議を終えて、その場で杖を構える。
槍の動きを学んで風の槍の威力は上がったのだけど、踏ん張りがきかない空中とかだと結構がっつり威力が落ちるのだ。
そんなわけで、ちょっと上過ぎて狙いにくいけどここから打ち込むことにした。
調整自体は風の単体属性なだけあって結構自由が効くので、このくらいの難易度ならまあどうにかなるだろう。
「穿て、ウィンド、ランスッ!」
狙う位置の調整をしながら略式で演唱を完了し、勢いをつけて魔法を放つ。
我ながらいい威力が出たんじゃぁなかろうかと自画自賛出来る完成度で飛んでいった風の槍は、狙いたがわず魔物の額を粉砕する。
ちゃんと当たったと喜んだのは一瞬で、少し揺らいだ魔物の身体に木のようなものが生えて来て、それを足場に駆け上がっているリオンを見つけてちょっと思考が止まる。
事前に聞いてたっちゃ聞いてたけど、そんな風になるのか。
なんて考えている間にリオンが額まで到達し、シャムの魔法の乗った大剣が勢いよく振り下ろされて、魔物の身体がゆっくりと倒れた。
リオンが無事に着地したのを確認した後、ロイに目を向けると指で丸を作っていたので、とりあえずダッシュでこっちに向かってきているシャムを受け止める準備をするのだった。




