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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
273/477

273,通常授業

 教室内で朗々と響く先生の声を聞きながらメモを取る。

 教科書を捲って、気になったところを別でメモしたりしている間に先生の解説は次の部分へ行っている。


 今は魔法歴史の授業時間で、基本的にはこうして先生の解説等を聞く授業なので寝ている人も結構いるタイプの授業だ。

 私は楽しくて好きなんだけどなぁ。メモ取ってる間に気付けば終了時間になっていることも多い。


「この大戦では炎と爆発の魔法が一気に増えて、その対抗策として水と氷も種類が増えた。

 威力だけでなく様々な方向に能力を割り振った魔法も、この時期に多数製作された」


 魔法を新しく作る、というのは難しそうに見えて実際はそれほど難しいことではない。

 自分だけが使うのなら、既存の魔法の方向性をちょっと変えるだけなので皆結構やっているのだ。

 難しいのはそれにしっかり演唱をつけて誰でも使えるものとして残すことで、大体は必要ないからとそこまでやらずに個人技で終わる。


 私が一人で遊んでいるあれこれも、私以外がやり方を知らないし呪文も無いので私が死ねば消えていく。

 多分こうして同じような魔法を別のやり方で作っては消えてを繰り返しているんだろうなぁ。


「そして、結界術と魔法を明確に区別するようになったのがこの時期だね」

「質問いいですか?」

「うん。何かな?」

「それまでは区別されていなかった、ってことですよね。それで、発動するものなんですか?」

「いい質問だね。じゃあまず、分類される前の状態から説明しようか」


 先生は楽しそうに言って、手に持っていたタスクをピュンッと振った。

 特に魔法が発動したりはしていないので、意味はないのだろう。

 やっぱり誰でもやっちゃうよねぇ。魔法使いでその癖が無い人を私は知らない。


「今でこそ魔法というのは属性でそれなりに細かく分けられているけれど、それは何故魔法が発動するのかが分かっているからだ。

 現在使われている魔法の演唱はかなり精査されたものであり、無駄はほとんどない。

 まあ、それが本当に正確なものなのかは分からないけれどね。数十年後には今我々が使っている魔法は旧世代の物になっていて誰も使っていないかもしれないし」


 ピュンッピュンッと鋭い音を立ててタスクが振られる。

 ああしていると本当に指揮棒みたいだなぁ、なんて思いつつ、メモ帳のページを捲って軽く折り目を付けて次のメモの準備を済ませた。


「演唱が精査される前は、どれが必要でどれが不必要な単語なのかが分かっていなかったから、演唱はとても長いものだった。

 長いからこそ、今では使われないような効果が発現する魔法もあって、その中に結界術に非常によく似た魔法が存在したんだ。

 その魔法と結界術は当時見分けがつかず、本来結界術に演唱は必要ないのだけれど、魔法の一種と考えられていた。

 今結界術と呼ばれているものは熟練の魔法使いの無演唱魔法だと思われていた。

 なので質問への解答としては、一応発動はしていた、になるかな」


 そう締めくくって、先生はタスクをパンッと手に当てる。

 寝ていた人たちがビクッとして目を覚ましたりしているのを見つつ、タスクを使う人は良くやっているけれど、あれは杖が痛んだりしないのだろうかとちょっと疑問に思った。


 まあ、そんなこと言ったら私は杖で殴り掛かったりしているわけだけどね。

 それに比べたら自分の手に当てるくらいは軽い衝撃か。

 簡単に折れる杖ってあんまり信用できないしね。


「さて、寝ていた子たちも起きたところで授業時間が終わりになるかな?

 結界術と魔法の関わりについては図書館に何冊か関連書籍があるから、気になる人は借りてみてね」


 それはいい事を聞いたな、とメモに書き足していると授業終了の鐘が鳴った。

 この後はお昼ご飯なのでのんびりしてても大丈夫だけれど……まあ、お腹空いてるしさっさと移動してご飯食べよう。


 広げていた教科書やノートやメモ帳をしまって、机の横に引っ掛けた杖を持って教室を出る。

 リオンは先に移動してそうだけど、研究職組はお昼はちょっと遅れて来ることが多いから私の方が先だろうなぁ。


 なんて、お腹が空いて全然回っていない頭で考えながらのんびりと廊下を進む。

 たまに走っていく人とかも居るから、不用意に杖を回さないようにしながら食堂に向かい、その途中で見慣れた猫耳を見つけた。


「あ、やっほー先輩」

「やっほーイザール。久しぶりだね」

「そうだねー。先輩は最近後輩に囲まれて忙しそうだったね」

「なーんでそんなこと知ってるの」

「先輩がよく遊んでる林のあたり、俺もよく行くから」


 ご機嫌に尻尾を上げるのは良いのだけれど、見ていたなら声をかけるという選択肢はなかったのだろうか。

 別にいいんだけどね。見られて困る事はしていないし。イザール的には何かしているから邪魔しないようにしようって思うのかもしれないし。


「……イザールもしかして私の事避けてた?」

「え、なんで急にそんな」

「前より会わなくなったじゃん?元々イザールから来ることの方が多かったし、減ったってことは多少避けてるのかなって」

「……避けてたわけじゃないけどね。ただ、人といることが多かったから声かけなかっただけで」


 スッと目が逸らされて、ご機嫌に上がっていた尻尾がスッと下がった。

 これは何かしら隠している感じだなぁ。

 あんまり問い詰める気はないけれど、これはちょっと気になるのでもうちょっと詰めてみよう。


「アリアナと遊び始めた頃はまだそんな感じじゃなかったよね」

「そうだっけ?」

「……町で魔物に出くわした時あたりからじゃない?会わなくなったの」

「もー!普段色々気にしてないのに何でこういう時だけ察しいいの先輩!」

「わぁーびっくりしたぁ」


 あんまり聞かないイザールの大声にものすごく緩い悲鳴もどきが漏れてしまった。

 ごめんね、お腹空いてるから反応も鈍くなってるのよ。

 でもそんなに私の反応とかは気にしてない感じだからいいか。


「だってあれ、俺めっちゃダサかったじゃん……」

「そう?そんな感じしなかったけど」

「一撃しか耐えれてなかったし、先輩来なかったら普通に駄目だったし」

「イザールはスピード型だから力押しは向かないのは仕方ないよ」


 あの時はそんな感じしなかったけど、実は結構気にしてたのかな。

 一人で一撃しっかり防いだんだから十分な気もするけど……まあ、本人が納得してないならあんまり言うもんでもないか。


 なんて話している間に食堂に到着し、そこで別れてそれぞれ昼食を準備しに行く。

 あんまり気にしないで今後も話しかけてくれると嬉しいけど、私が自分から話しかけに行くタイプじゃないから、ってのも一つ問題なんだろうな。


「おーっすセル」

「リオン早いねぇ」


 昼食を持っていつもの席に向かうと、既にリオンが座っていてなんならもう結構食べていた。

 移動が速かったのか、食べるのが速いのか。

 どちらにせよ凄い速度だなぁ。シャムとロイが来るまでに食べ終わったりするんじゃないだろうか。


 またのどに詰まらせても知らないよ、といつものように言いながら、私も昼食を食べ始める。

 その後すぐにシャムとロイも合流し、話題は次の休みに行く場所についてになった。

 かなり前から話題にだけは出ていた場所だからね、最近の話題は大体これになるのだ。


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