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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
272/477

272,アリアナの飛行魔法

 後輩との手合わせが行われた日から数日後。本日最後の授業が終わり、今日は放課後にアリアナと会う予定があるのでいつもの林の前に移動していたのだけれど、どうしても気になる事がある。

 何も今日に限った話ではないのだ。ここ数日、というか後輩との手合わせがあった日からなのだけど、廊下などですれ違う一年生の反応が随分と変わった。


 すれ違った後に小さな悲鳴のようなものが聞こえるというか……怖がられている、とはちょっと違った感じなのだけれど、でもやっぱりあれは悲鳴の類だと思うんだよなぁ……

 そんなわけで、今日の私の目的はアリアナに飛行魔法を教える、以外にあの反応の理由を教えて貰う、というのもある。


「セルリア先輩!」

「アリアナー。お疲れー」

「お疲れ様です。お待たせしてしまって申し訳ありません」

「全然待ってないよ」


 ここまでの移動距離の問題だろうし、私も今来たところだから、と言ってとりあえずアリアナの頭を撫でる。今日も後輩は可愛い。

 気を抜くとずーっと撫で続けてしまうので、意識をしっかり保ってそっと離れる。


「始める前に、アリアナに聞きたいことがあるんだけど」

「はい、なんですか?」

「最近一年生の……特に女の子なんだけど、私がそばを通ると悲鳴を上げられることがあるんだけどあれってなに?」

「何、と言われると説明が少し難しいですが……先輩が格好いいので上がっている悲鳴ですね」


 当然のように言われて、思わず首を傾げてしまった。

 同じ方向にアリアナも首を傾げる。可愛い。


「んー?……なんで?」

「先日の手合わせの後からセルリア先輩が格好いいと話す人が増えたのでそうだろう、としか。先輩は以前にも魔力暴走の際に私たちを庇ってくださっていますし、憧れが声に出ているのではないでしょうか」

「あー……なる、ほど?」


 分かったような、分からないような。

 流れは分かったのだけれど、自分がそういう対象になるとは露程にも思っていなかったので理解が追い付かない。


 まあ、とりあえず悪いもんじゃないってことで納得しておくべきかなぁ。

 実際気になるってだけで今日まで流してきたわけだしね。

 ちょっと経てば落ち着くだろうし、それでいいだろう。


「とりあえず納得は出来た。教えてくれてありがとう」

「いえ、そんな」


 よしよしとアリアナの頭を撫で、じゃあそろそろ飛行魔法の方を始めようかという話になった。

 アリアナは非常に真面目なので休みの間も細やかな魔力操作を練習していたらしく、使用予定の飛行魔法の前段階は全て終わっている。


 なので、後期からはいよいよ飛行魔法そのものを練習し始めることになったのだ。

 一応事前にヴィレイ先生に話をして許可も貰っているので、憂いは何もない。

 半年でここまで来たのはアリアナの努力の賜物だなぁ。


「じゃあ始めようか」

「はいっ」

「足元に魔力を練って、安定してから乗る感じ」

「分かりました」


 アリアナが扱うことになった飛行魔法は、私が使っているものの水属性版だ。

 正確に言うと、浮かせた水に乗ってその水を操作することで移動する、という物。

 彼女の属性が氷なので水が相性的に扱いやすかったのと、熟練度が上がれば凍らせて属性を変化させることも出来るので、最終的にこれがやりやすいだろうという判断になった。


 演唱はしっかり完了して、出来上がった水の足場にアリアナはそっと足を乗せる。

 けれどそこからしっかり上には乗り切れないみたいだ。

 とりあえず手を差し出して乗るのを助け、万が一落ちても大丈夫なように風の魔力を練り上げてクッションを作っておく。


「大丈夫、安定させるのに集中して」

「はい」

「足元にはちゃんと踏める魔力があるから。不安がって逃げ腰だと余計に不安定になるよ」

「わかり、ました」


 飛行魔法の難しいところは、この最初の一歩なのだ。

 地面から離れた不安定な場所に自分の身体を丸ごと預けるのは思っているよりも怖い。

 その恐怖から逃げ腰になって体勢が崩れ、そうすると今度は魔力も安定しなくなって魔法が霧散してしまう。


 あとは単純に、不安定な場所で体勢を保てない、という人もいる。

 そういう人はロングステッキに座って飛んでいたり、何かしら対策をしているイメージがある。

 一つ上の先輩であるエマさんは杖を足場に飛んでいるけれど、あれはかなり亜種だよなぁ、と思っているので一旦忘れておく。


 今はとりあえず私の腕に掴まってプルプルしているアリアナの魔力をどうにか安定させないといけないなぁ、と方法を考えていたら、校舎の方から「あー!!」という大きな声が聞こえてきた。

 驚いて魔力が霧散したアリアナを抱き留めつつそっちに目を向けると、こっちに走ってきている後輩が一人。


「セルリア先輩だー!」

「元気だねぇグラシェ」


 ぴょこぴょこ跳ねている短い銀髪に、キラッキラしている金色の瞳。

 印象としては犬なのだけれど、リオンと同じくらいの背丈なのでとんでもない大型犬だ。

 この子は先日の手合わせの時に特大の氷をぶつけてきた例の魔法使いで、あれから妙に懐かれてしまった。


「何してんすか?」

「アリアナの飛行魔法の練習」

「セルリア先輩飛べるんすか!?」

「あー、うん。飛べるねぇ」


 そういえば知らないのかぁ。アリアナは私が飛んでいるところを見たことがある、と声をかけに来ていたものだから、割と知られてんのかなぁと思っていたんだけどそうだよねぇ。他の学年の事とか普通知らないよねぇ。


「いい加減になさいグラシェさん。先輩が困っているでしょう」


 なんてのんびり考えていたらアリアナが間に入ってきていた。

 結局後輩との手合わせの時は一歩も動かなかったからなぁ……とか考えていたせいで反応が遅れてしまった。


「俺も飛行魔法やりてんだよなぁ」

「そうなの?」

「はい!学校入るまでそういうもんがあるって知らなくて、興味あるっす!」


 アリアナを撫でつつ聞いてみれば、非常に楽しそうな声が返ってきた。

 なるほど、確かに魔法ってどんなものがあるのかを知る方法が本か実際に見るかだから、魔法自体には触れあっていても一部しか知らない、はよくある話だ。


「セルリア先輩!俺にも教えて!」

「いいけど、今日はアリアナが先客だからまた今度ね。というかどこか行くところじゃなかったの?その荷物」

「あ、そうだった。じゃあまた今度!」


 嵐のように去って行ったグラシェを見送って、若干機嫌が悪くなっているアリアナをなだめる。

 よしよし可愛い子だねぇ。アリアナが優先だからあんまり拗ねてないで続きやろうねぇ。


グラシェ君のとんでもなく勢いがいい感じ、結構お気に入りです。

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