271,後輩との手合わせ
杖を左手で持ち直して、後輩との手合わせだし回さないように強めに握る。
一番最初の子たちは随分緊張しているようで、こっちの事を見れているのかも微妙な感じだ。
まあ、どうしたって最初は皆しっかり見るし仕方ないよねぇ。
開始の合図はないのでもう始まっているのだけれど、私たちは向こうを待たないといけないのでちょっとだけ待機だ。
一組目だからか先生たちも長めに待っているみたいだしね。
その時間を使って、やる事を考える。
私は円の縁に近い場所に立っており、後ろはすぐ場外になる。多分三歩くらいで出る感じかな?
そこから中央に寄った位置にリオン、その斜め後ろ辺りにミーファ。
これはまあ、いつもの配置なので特に何か考える必要もない。
考えるべきは……動くかどうか、かなぁ。
制限されているのは魔法の種類だけなのだけれど、後輩相手に飛び回るのも大人げないし飛行魔法は本当に必要になるまで使わないで置いた方がいいだろう。
あとは風に乗っての高速移動もやめておいた方がいいかな。
後ろから魔法を撃っているだけにはなりそうだけれど、寄って来るならその対処もする、くらいで構えてしまうべきだろうか。
……うん、そうしよう。ついでに、必要にならない限りここに陣取り続けよう。
攻撃は全部弾く方向で、不動の魔法砲台になってやる。
なんてやる事を決めたところで一年生に動きがあった。
「……風よ」
一人目がリオンに斬りかかったのを確認してから小さく呟いて風を展開する。
相手は四人。リオンは向かってきた一人の相手をしているので、ミーファの状況を確認して私も一人くらい吹き飛ばそうかな。
考えている間にミーファが一人場外送りにしていたので、とりあえず後方の弓使いを風ですくい上げて場外に吹き飛ばす。
着地用クッションも付けたから多分怪我はしていないでしょう。
「そこまで」
「おっ?」
もしかして私が最後だったのかな?
それか同時か。わざわざ場外に飛ばしたのは私だけのようだけれど、後方に居て簡単に飛ばせる距離だったから、という正当な理由もあるので別にいいだろう。
考えながら場に漂わせていた風を霧散させる。
毎回わざわざ消すのは面倒だけど、残したままにするのもどうかと思うからこのあたりはしっかりやっていこう。
「セルー」
「んー?」
「あそこなんか残ってね?」
「……あれは私じゃないな。誰のだろ」
私が魔法の残滓を消しているのを察したらしいリオンが、手合わせ場の一角を指さした。
確かにそこにも小さな魔法の欠片があるけれど、私は今回風しか使わないので他の人の残滓だろう。
誰の物かは分からないけど先生が何も言わないから問題はないんじゃなかろうか。
先生たちに目を向けてみると無言で頷かれたので放置でいいらしい。
確認が取れたところで正面に向き直り、既に自分の武器を構えている二組目の子たちを眺める。
短剣、片手剣と盾、片手剣、魔法使い。かな?
ざっと確認したところで短剣の子がこちらに突っ込んできた。
おお、今回は開始が早めだ。
なんて思いつつ風を起こして前面にとりあえずの壁を作ったのだけれど、私の所に来る前にリオンが止めに入ったので意味はなかった。
とはいえ作った風はこのまま流用出来るので、その風を別方向に流して後輩魔法使いの動きを探る。
攻撃……では無さそうかな?補助っぽい動きなので、さっさと止めてしまおう。
さっきは場外に飛ばしたけれど、今回は攻撃魔法で。
「貫け」
後輩の頭上で風を変形させ、短く唱えて攻撃魔法に仕上げる。
作りとしては風の槍の下位互換のような魔法だが、かなりの速度で撃ったので防げはしなかったようだ。
退場を確認して手合わせ場の中をざっと見渡す。
どうやら私の真横に人が来ていたようだけれど、風を回す前にミーファが斬り飛ばしていたので特にすることはなかった。
「そこまで」
もう一人はまだ居るかなーと探し始めたところで終了の声が聞こえてきた。
中々のスピード感。一人対処してる間に二人が残り全員を倒しちゃってるなぁ。
まあ、多少加減してる感じはするんだけど、それでもやっぱり実力差は結構ありそうだ。
「……お。いいねぇ」
「どうしたー?」
「何でもないよ」
三組目の子たちが手合わせ場に降りてきて、それと一緒に強い魔力が流れてきた。
氷かな?魔力は漏れているというよりも怒られない程度の事前準備って感じがする。
入学前からがっつり魔法に触れあってきた魔法使いなのだろう。
顔を上げるとステッキを構えた後輩魔法使いと目が合った。
キラキラと言うよりはギラギラした目は、楽しくて仕方がないって感じの色をしている。
完全に私を見ているので、これは完全に魔法使い対決になりそうだ。
リオンとミーファにはなにも言っていないけれど察してくれていそうなので邪魔は入らないだろう。
一年生たちもそのつもりなのか、他の子は全員私の正面からズレた位置に立っている。
それを確認して、誰から始めるのかなぁと思っていたら魔法使いの子がいきなり動いた。
地面が凍り、そこから鋭い氷塊が生えて正面からこちらに向かってくる。
なるほどパワー系。好きだよそういうの。
正面からの殴り合いなら、なおさら負けるわけにはいかない。
迫って来る氷を見据えて、杖を一回だけクルリと回した。
そして、氷が足元に到達する瞬間を狙って地面を思い切り杖で叩く。
そこを始点に練り上げた風を旋風にして周りの氷を削り取り、人の居ない方向に飛ばしてもう一度風を練る。
「次はなーんだ」
楽しくなってしまって杖をクルクル回しているけれど、これくらいは許されるだろう。
練り上げた魔力を頭上に集めながら正面を見れば、後輩魔法使いは自分の頭上に特大の氷を作り上げていた。
示し合わせたような同じ形の次弾。これはもう、思いっきり正面からぶつけるしかないよねぇ。
そう思って頭上の風を押し出せば、後輩も同じように特大の氷を押し出してくる。
氷より風の方が移動が速いのでぶつかった位置は向こう寄り。そこからは魔力の押し合いだ。
風から伝わってくる感覚で、氷をゴリゴリ削っていることは分かるけれど、魔法が大きくて後輩の様子はちょっと見えづらい。
まあ、押してるなぁって分かるからいいか。
なんて考えながらどんどん押す力を強くしていき、最終的には向こうの氷を全て砕ききって風で相手を倒したようだった。
……強い子だったなぁ。もしこの後時間があったら、ちょっとおしゃべりとかしてみたい。




