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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
270/477

270,懐かしい授業

 くるり、と杖を回す。

 特にやる事も無ければ自由でもない待機時間というのは、中々に暇なものだ。

 くるり、くるり。速度としては非常に遅く、風もさほど起こらないので魔力の節約にもならないただの手遊びは、横から伸びてきた手に杖を掴まれて止まった。


「あ、リオン。おはよー」

「おー。セル早くね?」

「まあ、朝ごはん食べて直行してきたからね」


 リオンは起きてこなかったので、とりあえずパンを一つ持ってきておいた。

 食べる?と聞くと当然のようにパンは貰われて行った。今日は後輩との手合わせだからね、なるべく調子は整えておいてほしい。


「ミーファまだ来てねぇのか」

「ソミュールを教室まで送ってくるって。そろそろ来るでしょ」


 今日は午前放課の日で、私たちは後輩との手合わせだけど他は普通に授業がある。

 ミーファはとりあえずソミュールの一限の教室に彼女を送り届けてから来る、と昨日話した時に言っていたし、その後の授業は他の人が運んでくれることを祈る感じになりそうだ。


 まあ、ソミュールと授業が被る生徒は結構協力的だったりするので心配はしなくていいだろう。

 なんて話している間にリオンはパンを食べ終えていたし、ミーファも合流した。

 ちなみに現在位置は屋内運動場の外。入口の反対側に立っている。


「なんかドキドキしちゃうね」

「そうだねぇ。二人は一年生と関りあるの?」

「研究室でちょっと話したりはするよ」

「俺もそんくらいだなぁ。セルはなんか仲良いよな」

「まあ、関りあるの一人だけだけどね」


 私の後輩との関りは、各学年一人で保たれてしまっている。

 もう少し交友関係を広げるべきだろうかと考えたこともあるにはあるのだけれど、なんかもう別にいいかな。と諦めてしまったのだ。


 仲いい子が一人ずつ居るし充分でしょう。

 今でもたまに遊びに行くD魔道具の子とはちょっと話すくらいはするし。

 そのくらいで十分なんじゃないかなぁ。研究室入ってないのに後輩と関わってるのだからむしろ凄いのではないだろうか。


「揃っているな」

「あ、ヴィレイ先生。おはようございます」

「おはよーござーまーす」

「おはようございます」

「おはよう。いくつか注意事項があるので覚えろ」

「はーい」


 そろそろ授業の時間なのか、ヴィレイ先生がやってきた。

 ちょーっとだけ風を廊下に流していたのでおそらく後輩だろう人の通りは収まったのを把握はしていたのだけれど、ヴィレイ先生には全く気付けなかった。


「まず、セルリアは使う属性を一つに絞ってもらう」

「なるほど風だけってことですね」

「そうだ」


 他も全部使えるってなると、流石に色々問題もあるか。

 一年生ってまだ専攻授業始まってないもんね。魔法使いも本格的に魔法をやり始めるのは二年目からだから、そもそもやり合う土台が出来ていない。


 まあ、私は普段の戦闘も結構風だけだったりするからそんなに問題ないだろう。

 風が使えるなら攻撃も防御も索敵も移動も出来るからね。風は万能。やはり風が一番ですよ。

 なんて一人で頷いていたらヴィレイ先生が呆れた目をしてこちらを見ていた。


「なんですか」

「……次だが、基本的には相手が動き出すまで待つように。あまりにも動かないようならこちらから指示を出すので見えたら動け」

「あれって先生が指示出してたんですか」

「そうだ」

「そうだったのか……」


 こんなところで新たな事実が判明したわけだけれど、びっくりしている間に授業開始直前になっていたようでアガット先生が歩いて来ているのが見えた。

 今年の戦闘職一年生の担任がアガット先生なのは、前にアリアナから聞いたことがある。


「よぉ、お疲れさーん」

「こちらの説明はひとまず終わった。他に何かあるか?」

「俺からは特に。一年の時の事覚えてんならまぁ大丈夫だろ」

「お前たちも確認しておきたい事等はあるか?」

「俺たちは加減とか要らないんすか?セルだけ?」

「お前たちは意識していなくてもそのあたりの調整は出来ているので問題ない。他はあるか?」


 確かにリオンもミーファも普段の手合わせ中にフルパワーでやっている感じはあんまりしないんだよね。ソミュールとかが相手だと結構全力っぽいんだけど、あれは無意識に調整している結果なのか。

 そうなると、一回くらい私との手合わせを外から眺めてみたいなぁ。どうにか出来る方法はないだろうか。


「おし、じゃあ移動すっぞー」

「入口前で待機、呼んでから入室しろ」

「はーい」

「うーっす」

「分かりました」


 入口前に移動している間にチャイムが鳴り、先生たちが先に教室内に入って行った。

 中で説明している声を聞きながら、なぜか私の杖を掴んでいるリオンの手をつつく。

 なんだよ。流石に回さないから離してよ。


 普段は私の右側を陣取るリオンが何だか今日は左側に居るなぁと思っていたのだけれど、もしかして杖を掴むのが目的なのだろうか。

 分かった分かった、右手で持つからこれでいいでしょう。


「入ってこい」

「あ、はーい」


 杖を巡ってのあれこれは無言でやっていたけれど、先生からは見えていたのかちょっとだけ声が冷たい。

 だってリオンが杖掴むんですもん。今回は私悪くないと思うんです。


 なんて内心で言い訳をしながら教室内に足を踏み入れる。

 こっちを見ている後輩たちの目はキラキラしていたり怯えを含んでいたりと様々だ。

 ……あ、アリアナがいる。手を振られたので小さく返して、とりあえずヴィレイ先生の横に並んだ。


「一応紹介をする。まず、リオン」

「うっす」

「武器は大剣。正面から受けるにはかなりの力が必要になるので注意するように。次、ミーファ」

「はい」

「武器は短剣。行動はもちろん状況判断も速いので、見失わないように。次、セルリア」

「はい」

「魔法使いだ。攻撃だけでなく補佐なども行う。単騎戦闘力もあるので迂闊に近付かないように」


 ……なんか褒められてるみたいでちょっと照れるな。ただの説明なんだけどな。

 まあ、褒められたもんだと思って頑張ろう。後輩に不甲斐ないところは見せられないしね。

 風だけでもなんでも出来るんだという事を後輩の印象に刻み込むことを目標にしよう。


「んじゃ、順番決めてさっさと始めんぞー」


 一年生たちが順番を決めている間に手合わせ場の円の中に降り、何となくの位置取りを決める。

 そんなことをしている間に最初の一組が決まったようで、手合わせが始まった。


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