27,庶民と言われて喜ぶ貴族
トマリ兄さんと別れて学校に戻る道すがら、シャムが腕に抱き着いてきたのにされるがままになりつつ雑談を繰り広げる。
なんだかんだ、リオンが一番トマリ兄さんに懐いた気がする。
何となく空気感が一緒に居やすい、みたいなことを言っている。
最初は一番怖がっていた気がするのだが、まあ一緒に居ればいるほど懐かれるのがトマリ兄さんだ。私は身をもって知っている。
「なんていうかさ」
「うん?」
「最上位薬師様の契約獣、っていうから、もっとこう、高貴な感じをイメージしてたんだよね」
「あー……コガネ兄さん辺りは……やる気になればだいぶ高貴」
姉さまは、いくら呼ばれようと夜会等々には顔を出さない。
自分が呼ばれたわけではなく、連れとして行くことはあるようだがそれくらいだ。
そして、最上位薬師として出なければいけない場には全力の外面を被っていく。
そんなこんなで出来上がったのは、姉さまの本性とは全く違う「高貴で美しき最上位薬師様」の図である。
本人が嫌がっているのであまり言いはしないが、最上位薬師様をしている時の姉さまは本当にそのイメージ通りなのだ。
「姉さまも、言われてるほど難しい人じゃないんだよ」
「それは何回か聞いたね」
「というか、どっちかって言うと単純だよ」
「……そうなの?」
「うん。美味しいお茶と茶菓子で幸せに満ち溢れる人だよ」
そこに可愛く着飾ったコガネ姉さんが居れば尚良し、である。
ただし、ご機嫌取りにコガネ姉さんを着飾らせようとすると私まで巻き込まれるので注意が必要だ。逃げたところで捕まるから諦めたけど。
「お茶とかっていいやつ?」
「アルハニティーが一番お気に入り」
「しょ、庶民的だ……」
「そう、薬の感覚以外庶民だよ。自称だけど」
正直薬以外の感覚もだいぶ狂ってきていると思うけど、姉さまが庶民を自称するので何も言うまい。
何よりも位の高い一代貴族をしているくせに、好むものがお手軽なのは確かなので。
普段は買い物もそうお金をかけずに少しのゆとりで、みたいな節約をしていたりするのに、必要になればどこからともなく大金を出してくるので絶対に庶民ではないが。
必要なところにお金をかけられるようにと普段は節約しているのだと言っていたが、あれはもはや趣味なのではと思う。
シオンにいが言っていたことだが、現状姉さまにしか作れない薬はそれなりにあるのでそれを作っているだけで一生遊んでいても大丈夫なくらいの資産を持っているのだという。
それでもちまちまと薬を作って出店を出しているのはなぜなのか、聞いたことはないのだが。
それこそ趣味なのだろうか。
姉さまの思考は、読みやすいのだが結局どこかずれているのだ。
最上位薬師の位を頂いた時に各国の王族から城に住んで薬の研究をしないか、と誘われたそうだが、それを全て断って人に知られていない家で暮らしている時点で何かどこかズレている。
「まあ、多分重要視する場所が違うんだね」
「それじゃあ、どうやっても視点は合わないね」
「合わせなくてもどうにかなるからいいんだよ」
どれだけ一緒に居ようと、完璧に価値観を合わせることは出来ないのだ。
だから、自分とは違う判断基準があるのだと認識していればいいのだと。
そんなようなことをウラハねえが言っていたので、それをそのまま口に出す。
受け売りだけど、と付け足すとロイが楽しそうに笑った。
視点は多い方がいい。一か所からしか見えないと、見えないことがあるのにも気づけないのだと。
言われた当時はよく分からなかったが、今なら多少は理解できた気がする。
「いつか会わせたいな」
「最上位薬師様に?」
「そう。その呼び方すると拗ねるの」
「え、じゃあなんて呼ぶべきなの?」
「アオイさん」
「……フレンドリーだね?」
シャムの表情が若干固い。
絶対今フレンドリーとかのレベルじゃないって思ってる。
それでも、なんと言われようと姉さまはその呼び方にこだわるのだ。
「最上位薬師」とか「キャラウェイ様」とか、自分の立場を示す呼称を好いていないので関わりの多い、姉さまが一定以上に踏み込む相手には絶対的に名前を呼ばせる。
私がヴィレイ先生のことを性格が悪いのだろうと認識しているのは、姉さまと一定以上の関わりがあるようなのに姉さまをキャラウェイと呼ぶからだったりする。
先生の方からも意地を感じるくらいだ。
なんというか、姉さまが立場を放棄することを許さない、みたいな意思を感じる。
今度そのことを聞いてみても大丈夫だろうかと考えてしまうくらいには関係性が気になるところ。
「そういえばさ」
「うん?」
「セルちゃんは遊び場行ってないんだよね?」
「あー……うん。みんなどこか入ってるの?」
遊び場、というそれは放課後にある研究室の別称だ。
それぞれの研究室が研究という名の好き勝手なことをするので、別称が遊び場になっている。
私は、入学からそれなりに時間のたった今でもどこにも入っていないので詳しく内容は知らないのだが、ほどんどの生徒は所属するものであるらしい。
「私は魔物研究所に入ってるよ」
「凄くストレートな名前」
「俺は目指せ亜人コンプってとこ」
「愉快な名前だね……」
研究室の数はかなりある。
なんでも、開設に必要なのは管理者となる先生一人だけらしい。
その先生が学校長に開設の報告をすれば研究室として認識される。
なので、先生一人だけしかいない研究室もあるらしい。
そこに入ると先生の助手扱いになるのだとうわさで聞いた。
その噂のついでに、私がヴィレイ先生の助手をしているのだという噂も聞いた。
ただ暇を持て余して相談がてらに手伝いをしているだけなのだが、はたから見たら助手と変わりないのかもしれないと思って否定も何もしていない。
そういうのが良くないのだろうか。
「セルリアも興味がないわけじゃないんでしょ?」
「そ。興味があるところが多すぎて決まらないの」
「まあ、入るのに決まりとかないし入りたくなったらでいいんじゃねえの?」
「そうだね。今はこのまま、図書館に入り浸るよ」
研究室にも興味はあるが、今は図書館の方が重大事項なのだ。
一人頷いていたら笑われてしまった。なんだ、本は宝だぞ。どうにかして、在学中に全部読んでおきたいのだ。
卒業してしまったら、もう読めないかもしれない本とかありそうだし。
今のところどれがどのくらい希少な本なのか分からないので、とりあえず全部読みたいなと思っている。どうせなら全部読み切って卒業して伝説にでもなってみようと思っているので。
一作目、エキナセアからずっと出してるお茶「アルハニティー」ですが、名前つけた時は何かしらの意味を持たせたような気がするようなしないような。
すっかり忘れてしまったので過去の自分にメモぐらい残せやと言いに行きたいです……( ˘ω˘ )




