265,お昼ご飯と市場巡り
お昼ご飯は全員が見事に別のものを頼んだので、運ばれてくる順番もタイミングも結構バラバラだった。
一番最初に来たのはソミュールの頼んだミートボールスパゲティーで、セットで付いてきたサラダはミーファが食べるらしい。
その後次々に運ばれてくる料理でテーブルが埋まり、リオンの頼んだ定食の量に驚きつつ自分の昼食を食べる。
……これ美味しいな。普段はあまり辛いものって食べないんだけど、これは程よい辛さでちょうど美味しく食べられる。
「結構辛いね」
「でも美味しいよ」
「セルー俺にも一口」
「ほい」
サンドイッチを千切ってリオンに渡し、代わりにリオンの定食のおかずを一つ貰う。
ほう、これも美味しい。思ったより野菜が多いのかな。
なんか家でもこんな感じのおかずが出てきたことがある気がするけど、それともまた違った感じだ。
「もうちょい辛くてもいいな」
「リオンは辛いの好きだよねぇ」
屋台料理とかでも辛い物を好んで食べているような記憶がある。
そして一口貰ってわぎゃーとなった記憶もある。あれからリオンが食べている辛そうなものには迂闊に興味を持たない、と心に誓ったのだ。
ちなみにロイの方が辛さに耐性があるので、そっちに興味を持つ方が危険だったりする。そんなに辛くないよ、と言っていたものが辛くて食べられないってこともよくある。
その点シャムとは好みが似ているのですれ違いも起きなくて安心だ。
「ソミュちゃん、あーん」
「あー……ん?これなに?」
「分かんない。苦かった」
「まぁた僕を便利に使ってぇー」
ミーファとソミュールが二人で楽しそうにしているのを横目に昼食を食べきり、のんびりお茶を飲みつつリオンが物凄い速度で定食を吸収してく様子を眺める。
もう見慣れてしまったけれど、相変わらずとんでもない速度だ。
サンドイッチも思ったより量があるなぁと思っていたのだけれど、定食はそれ以上だからね。
まあ、リオンが大盛りで頼んでいたからなんだろうけど。
美味しかったし食べきったけどデザートは入らなそうだ。……ウラハねえがオススメしてくれたのって、もしかして量の問題もあるのかな。
「はー……美味しかったねぇ」
「そうだね」
「混んで来てるし早めに出ようか」
全員が食べ終わったので、とりあえず声を合わせてご馳走様でした、と言っておく。
お昼ご飯台としてお小遣いをもらっているので会計は全員分纏めて、皆には先に外に出ててもらう。
人も増えてきたからね、店内で待っているとちょっと邪魔になりそうだったのだ。
そんなわけで会計を済ませて、席が空くのを待っている人を避けて外に出る。
……ロイもリオンもでっかいから、端に寄ってても結構目立つなぁ。
集まりやすいからいいんだけどね。普段は首が痛くていやだけど。
「おまたせ」
「ご馳走さまです!」
「はーい。次どこ行く?」
「向こうの通りにも市場があるみたいだから、そっちに行こうかって話してたところだよ」
「お、いいねぇ」
「っし、行くかー」
待っている間に向かう先は決めておいてくれたようなので、意気揚々と歩き出したシャムとリオンの背を追いかける。
ソミュールも今日は薬を飲んでいるらしく、寝る心配もないからといつもよりはしゃいでいるような気がする。
そんなわけで、私とロイが最後尾だ。
なんかこのままはぐれそうだなー。気付いたらバラバラになってる、って言うのは割とよくある事なので別にいいんだけどね。
「こーりゃはぐれるなぁ」
「シャムとリオンはもう後ろ気にしてないね」
「仕方ない。あとで合流しよ」
「そうだね」
どうせ夕方には出店リコリスに集まるわけだし、向こうもはぐれたことに気付いたら目立つところに移動するなりそのまま遊ぶなりするだろう。
……こういう事に慣れるのは、いい事なのか悪い事なのか。
慌てないって意味ではいいことだと思うけれど、これが本当に非常事態……攫われた、とかね、そういう時に気付くまでに時間がかかるっていうのはあまり良くない事だよなぁ。
全員がそれなりに戦えるし一人行動はほとんどない、って言っても絶対にないわけではないからね。
流石にこのあたりでは無いだろうけれど、治安の悪い所は普通に人さらいだの通り魔だのがいるからなぁ。
第四大陸の三国では違法だけれど、奴隷が合法のところもあるし。
「セルリア?どうしたの?」
「今考えても仕方のないことを考えてた」
「……じゃあ楽しい事を考えよう。あの出店、古い道具とか売ってるみたいだよ」
「え、どこどこ?」
ロイは誘導が上手いなぁ。やっぱり子供の相手とかしてるからなのかな。
……いや、私はそんな小さな子ではないんだけども。
でもまあ、やっぱり練度の差、みたいなものは感じる。私はずっと甘やかされてる末っ子してたからね。というかまだしてるからね。
「……これなに?」
「お、すごい。統一前のお金だよ」
「へぇー。どこの国の?」
「クエレブレとシャナで使われたやつだと思うよ。単位は……ごめん、忘れた」
「国が分かるだけ凄いよ……」
今は世界中で同じお金が使われているけれど、統一されていなかった時代もある。
五百年前とかに統一されたはずだから、こうして残っているのは結構貴重なのではないだろうか。
見るの初めてだしなぁ。買って帰ったら兄姉の誰か一人くらい見覚えがある、もしくは使ったことがあるとか、そんな話が聞けるかもしれない。
「買って行こうかな……お爺ちゃん、これおいくら?」
「千ヤルじゃな」
「おぉん……歴史的価値……」
流石に手を出せないなぁ、と諦めて手を引っ込める。
まあそうだよねぇ。こんなところにポンって置いといていいものでもないだろうし。
なんて考えつつロイを見ると、ロイは何やら細長い筒のようなものを手に取っていた。
「なんか、魔力宿ってるね。それ」
「そうなの?」
「うん。悪い感じはしないよ」
ロイの見ている筒はどうやら水筒らしい。旅とかするならあった方がいいし、と購入を考えているようなのだけれど、それを見ている店主のお爺さんがとても優しく微笑んでいる。
……なんだろう、この感じ。知っているような、知らないような。悪い感じはしないけど、ちょっと不思議な感じだ。




