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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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264,精霊との会話

 目の前に広がった海にテンションが上がったので、ちょっと飛んで海の上を滑るように進む。

 多少濡れても構わないので足先を水に浸かるギリギリまで下げて、満足したら浜辺に戻る。

 浜辺ではシャムとロイが何やら盛り上がっており、横でリオンとミーファが何も分かっていない顔をしていた。よく分からないけど、難しい話をしているらしい。


「……あ。こんにちは、シルフィード」


 こんにちは、私たちの愛し子。今日は随分賑やかね


「うるさかった?ごめんね」


 いいのよ。嫌な訳ではないわ。ランがここに居た頃は、よくある事だったもの


「そうなんだ」


 ええ。……でも、花の民が来ているのは本当に久しぶり


「花の民、ね。そっか、あんまり来ないんだ」


 彼らはあまり動けなくなってしまったから、ここは少し遠いのでしょうね


 話しながら、少し離れたところに一人で立っているソミュールに目を向ける。

 姿は見えないと言っていたけれど、彼女も何か話しているようだ。

 私の方は、いつも来る子よりも大人びたシルフィードと話しているからちょっとのんびりした感じになっているけれど、向こうはなにやらちょっと賑やかそう。


「セル戻ってきてんじゃん」

「本当だ、セルちゃん着地してる」

「何か話してるみたいだしもう少し待ってようか?」

「……あー、なんか……居る、か?」

「見えるのいいなー!私もやりたい!」

「それさっきセルも言ってたぞ」


 賑やかなのは向こうもか。というか、私はシルフィード以外の声は聞こえないので向こうが賑やかなのしか分からない。

 またわちゃわちゃやってるなぁーと思っていたら、目の前のシルフィードが小さく笑った。


 少し見ない間に、随分と友人が増えたのね


「ええ。おかげさまで毎日賑やかだよ」


 いい事です。さて、では私はこれで


「うん。今度会う時はリコリスかな?」


 そうですね、時が重なれば会えるでしょう。……私たちの愛し子、貴女の時が満ち足りたものでありますように


「ありがとう」


 ふわり、と飛んで去って行ったシルフィードを見送って、シャムたちの方に歩いて行く。

 ミーファが真っ先に気付いて寄ってきたのでとりあえず腕の中に捕獲しておいた。

 嬉しそうにしているのがあまりにも可愛いので髪を崩さないように撫でておく。


「お話終わったの?」

「うん。ちょっと話してただけだからね」

「何話してたの?精霊って何を話題にするの?」

「わあ、シャムがウキウキだぁ。……別に特別なことは何にも話してないよ。今日は賑やかだねーってだけ」


 精霊たちも別に特別な存在ってわけじゃないのだ。

 ただ、存在を認識できる人が少ないってだけで、割とどこにでも居るし好きに過ごしている。

 なので、精霊との会話も普段の会話も、特別内容が変わるわけではないのだ。


「あ、ソミュールの方も終わったみたい」

「本当だ」

「じゃあ、次。どこ行く?」

「とりあえず市場見ようよ」

「さんせーい!」


 のんびり歩いて来たソミュールと合流し、ミーファがそっちに行ったと思ったらシャムが飛びついてきたので抱き留める。

 そのまま流れるように右手に抱き着かれ、嫌でもないしシャムのこれはいつもの事なので、特に気にせず浜辺を後にして市場に向かうことにした。


「なんか欲しいものある人ー」

「……誰も目的はない感じかな?」

「お昼ご飯を食べに行きたい場所はあるけど、それ以外は特に」

「じゃあ適当に見て回る、でいいかな?」


 つまるところいつも通りってことか。

 なんだかんだちゃんと予定を決めて動く事の方が少ないのだから、ちゃんと決めようとしない限りその場で予定を組めるわけはないのだ。


 全員がそれで慣れてしまっているので誰も何も言わずに市場の方に歩き始め、一人だけこういうことにあまり混ざらないソミュールだけが物珍しそうに笑っている。

 でもまあ、楽しんではいるみたいだからいいか。ミーファと何か話してるし声はかけないでおこう。


「あれなんだろ」

「魔法陣みたいなの描いてあんぞ」

「ソミュール!あの陣なに!?」

「んふふ、なぁに?どれ?」


 何も用事が無いなら声はかけないけれど、私は魔法陣が読めないのでこれはソミュールを呼ぶしかない。研究職組も、授業で軽くやりはするけれど魔法陣を読むのは難しいらしい。

 授業でやるんだ。魔法系は全部戦闘職なので、ちょっとびっくりだ。


 まあ魔法陣は結構特殊というか、「魔法」と名がついてはいるけど実際魔法とはちょっと違うので座学の方に行くのも分かる。

 興味がないわけではないんだけどね、なんか分かんないんだよね。


「あれはねぇ、強化と保護だねぇ」

「なるほど」

「つまり?」

「すっごい丈夫」

「おお、なるほど」


 この距離からでも分かるソミュールは流石だ。

 その後も気になる物を見つけては研究職組なんかに聞いたりしつつ市場を散策し、そろそろお昼ご飯を食べよう、という話になったのでウラハねえから教えて貰ったお店を探すことになった。


 通りから一本奥へ入る場所にあるらしく、どこから行けば分かりやすいかも教えて貰ってあるしウラハねえお手製の地図も貰ってきている。

 カフェだって言っていたけれど、結構ボリュームのあるメニューもあるからリオンも満足出来るのでは、とのことだ。


「ここを右かな?」

「お、あのお店じゃないかな?」

「本当だー。オシャレー」


 手書きの地図を見ながら進み、目的のお店が見つかったのでちょっとだけ速度を上げる。

 そろそろお昼時、くらいの時間なのでまだ席には空きがあり、問題なく座る事が出来た。

 メニューを眺めてどれにしようかと話し合い、全員の注文が決まったところで店員さんを呼ぶ。


 どうせなら普段は頼まないようなものを選んでみよう、と選んだものを注文した。

 周りを見ている限りどれも非常に美味しそうなのでとても楽しみだ。


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