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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
261/477

261,魔力操作・ミーファ

 昼食の片付けを終わらせて、既に外に出ているリオン達に合流する。

 早速魔力循環の練習を始めていたようなので、ミーファとリオンには近寄らずガーデンテーブルで課題を進めているシャムとロイに寄っていく。


 二人の休みの間に出された課題は、ついにこれで終わりらしい。

 ほとんど毎日やっていたように見たのだけれど、それでもこんなに時間がかかるなんて。どれだけの量の課題を出されていたのかは怖くてちょっと聞けなかった。


「順調?」

「順調!もうちょっとで終わるよー」

「お疲れ様。リオン達は……なんか動き止まってない?」

「魔力を動かす方に集中しすぎて固まってるみたい」

「なるほど」


 余っていた椅子に座って、邪魔はしないように杖に体重を預ける。

 特にすることも無いので飛んでいても良いのだけれど、今日は何となくそんな気分じゃないので何もせずにぼんやりとみんなの様子を眺めることにした。


 しばらくのんびり眺めていたら、なにやら魔力操作組の方に動きがあった。

 目に見えて増えていく周囲の魔力量も異常といえば異常なのだけれど、暴走するほどではないしコガネ姉さんが止めていないからそれは多分放置で良いのだろう。


 思わず席を立つほど驚いたのは、ミーファの髪の色だ。

 真っ白なその髪と、あとついでにうさ耳も。純白と言っていいであろうその色が、徐々に黒く染まっていっている。


「え、え?姉さん?これ大丈夫なやつ!?」

「……うん、セルリア、ちょっとこっちおいで」


 思わずコガネ姉さんに声をかけると、少し何かを考えた後に手招きされた。

 謎の間があったのがちょっと怖いのだけれど、とりあえず大丈夫なのかな……?

 杖を握りしめて寄っていく最中にもミーファの髪はどんどん黒くなっていき、ついでに何か魔力も変化している気がする。


「大丈夫じゃない気がするんだけどこれ!」

「少なくともセルリアは大丈夫だよ」

「どういうこと!?」

「ミーファは黒ウサギの血が混ざってるんだよ。だから今、魔力循環で黒ウサギの部分が強く出て来てる」

「……あ、髪色?あれって本当に効果あるの?」

「あるよ。とりあえず、ミーファの意識が今どうなってるのか分かるまでそこに居てね」

「わ、分かった」


 なにやらさらっとミーファの秘密的な部分が明かされた気もするんだけど、今はそれを追求できるほど心に余裕がない。

 リオンはいつの間にか避難していたようで、傍に居るのはミーファとコガネ姉さんだけだ。


 妙な緊張状態の中、ミーファの正面に座ってただじっと髪が染まっていく様子を見つめる。

 根元から伸びるように広がって行った黒色は、ついに全域に広がった。

 それと同時にずっと閉じられていたミーファの目がゆっくりと開かれる。


「……ミー、ファ?」


 いつもとは明らかに違う表情に、思わず戸惑いの声が出た。

 そんな私の声には反応せず、ミーファはゆっくりと周りを見渡して、コガネ姉さんに目を止める。

 何か言おうとしているのか、口を開いては閉じてを繰り返して、何も言わずに再び目を閉じた。


 そのままゆっくりと地面に倒れ、きゅう……と小さな声を上げる。

 慌てて抱き起すと、髪が元の純白に戻っていた。

 周囲の魔力量も気付けばかなり減っているし、何も起こらずに終わったってことでいいのかな?


「うーん……とりあえず主を呼んでこようかな」

「私はミーファを見てるね」

「お願い。……あと、ソミュールが起きてきたみたいだから説明だけお願いしていい?」

「分かった、任せて」


 コガネ姉さんが家の方に歩いて行くのと入れ替わるようにしてリオンが寄ってたのでそちらに目を向けると、リオンの後ろからシャムとロイも顔を覗かせていた。

 とりあえずミーファの顔色も悪くはないし大丈夫だとは思うけど、なんて話している間に客間の方からソミュールが歩いて来て、私の正面に座り込む。


「ソミュール、もしかして聞こえてた?」

「うん。なんとなーく、だけど」

「なら説明はいいか……ミーファ大丈夫かなぁ」

「んー、寝てるだけだねぇ」

「そっか。なら大丈夫なのかな」


 ソミュールが手を伸ばしてきたのでミーファを渡して家の方を窺う。

 ……あ、出てきた。姉さまが手袋を付けてるから、何か作業中だったみたいだ。

 走って来る姉さまは思ったより足が速い。知ってるはずなのに毎回ちょっとびっくりしてしまう。


「大丈夫ー!?」

「大丈夫だよアオイさん。ミーファ寝てるだけみたい」

「あらおはようソミュールちゃん。……うん、うん。大丈夫そうかな?コガネ、魔力の状態は戻ってるんだよね?」

「戻ってるよ。一回目だったからかな、意識もそんなに引っ張られてなかったみたい」

「おっけー、じゃあ起きるの待ってようか」


 走ってきてちょっと滑りつつ私の横で止まった姉さまは、そのままストンッと地面に座った。

 ミーファの額に手を当てて、一転して静かに囁くように言った姉さまにリオン達三人の目がずーっと向けられているのは気にしないことにしたらしい。


 慣れてるのかな。慣れてるんだろうな。

 切り替えが早いのはいい事なのかもしれないけれど、切り替えが早すぎて周りを置き去りにしてるんだよね、姉さまは。


 そして、そんな姉さまをも置き去りに出来るのがうちの兄姉たちである。

 一体何がどうなっているんだろうか。

 なんて、ちょっとだけ現実逃避をしている間にミーファがゆっくりと目を開けた。


「んぇ……?ソミュちゃん……?」

「おはよぉミーファ」


 目を覚ましたミーファはいつも通りで、特に身体にも違和感などはないのかすぐに起き上がって囲まれている現状にびくりと肩を揺らした。

 うん、これは完全にいつも通りだ。ソミュールにくっ付いて固まってしまったミーファに、姉さまがそっと手を伸ばして頬に触れる。


「……うん。大丈夫みたいだ。ミーファちゃん、何か、覚えのない記憶とか見たりした?」

「えっと……はい。あんまり、しっかりは覚えてないんですけど……」

「そっかそっか。魔力が変わったのは分かった?」

「はい。それはちゃんと分かりました」

「なら大丈夫かな。よほどのことが無い限りは、そこまではやらない方がいいよ」

「はい」


 確認や説明はコガネ姉さんがやるのかと思っていたのだけれど、姉さまがやるらしい。

 姉さまがする説明は薬の事がほとんどだけどこれは薬と関りがあるようには思えない。

 多分、私が知らない何かが関係してるんだろう。


 何はともあれミーファは無事な訳だし、一度上限を知ったからこれから無暗にあの状態になることも無いらしい。

 ミーファは真面目だし、ちゃんと制御も出来るから大丈夫なんだとか。


 でも少し休んだ方がいい、という話になって、タイミングを見計らっていたのかウラハねえが人数分のお茶と茶菓子を持って現れた。

 いつのまにやら後ろには大きめの机まで現れていて、急遽お茶会が始まるのだった。


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