26,美味しいご飯と楽しいお話
リオンが武器を選び終わったのは私が店の中の見物に飽きてきたころで、一振りの大剣を持って意を決したように会計を済ませているのはなんだか不思議な光景だった。
だがまあ、決して安い買い物ではないので緊張もするのだろうと勝手に納得する。
店を出て職人街から大通りに戻りつつリオンが背負った大剣を周りを動き回りつつ眺める。
私は使わない種類の武器なので、何を基準に選ぶのか正直よく分からないのだ。
「さて、と。お前ら腹減ってんだろ?」
「言われてみれば……」
「もうお昼の時間は過ぎてるもんね」
どうしたのかと思ってトマリ兄さんを見ると、何か確かめるように耳に手を当てている。
連絡中だろうか。契約獣である兄さんたちは、距離にかかわらず連絡が取れるらしい。
それを使って姉さまと話していたりもするので、今も何か話しているのだろう。
「アオイが飯くらい奢ってやれって言ってっから適当に食い行くぞ」
「え、タダ飯!やったぜ!」
「リオンが凄く分かりやすい反応してるー」
「俺は今高い買い物して懐がさみいんだよ!」
やいやい言いつつさっさと歩き出すトマリ兄さんを追いかける。
姉さまはきっと、コガネ兄さんから話を聞いて子供にご飯を与える保護者の気持ちと色々話を聞きたい気持ちでいっぱいになったのだろう。
薬が関わっていない時の姉さまの思考は結構読みやすいのだ。
他が複雑怪奇な思考回路をしている分、余計に読みやすく感じる。
姉さまより分かりやすい思考をしているのはサクラお姉ちゃんくらいのものだ。彼女はもう、本当に裏とか表とか考えるのすら馬鹿らしくなる感じがある。
「お前ら何食いてぇ?」
「肉。量のあるもの」
「うーん、麺類?」
「さっぱり系がいいです!」
「任せます」
ばらばらの回答を同時に発すると、トマリ兄さんは面倒くさそうに頭を掻いた。
店は任せるけども、私の頭を肘置きにするのはやめてほしい。
徐々に体重をかけてくるので単純に重たいのだ。
「兄さん、トマリ兄さん、縮む、潰れる」
「ちょっと縮んだって変わらねえだろ」
「兄さんからしたら小さいままでも意地があるの!やっと姉さま越えたの!」
「一回縮んだってアオイのことくらい越し直せるだろ」
頭の上に乗った肘を退けようと頑張ってみたが、体幹と筋力と身長と、その他もろもろ勝てないのでどうにもならなそうだ。
こちとら寝る子は育つの理念に従って早めに入眠し、牛乳がいいと聞いてお風呂上りに牛乳を摂取してとそれなりに真剣に身長を伸ばしてきているのだ。
簡単に縮めようとしないでほしい。
背の高い女の人ってかっこいいな、と思って生きてきているのだ。
姉さまは背の高さとか関係なく尊敬しているので別枠にしておくが、正直言うともう少し伸びたいのだ。
「セルちゃんでも身長とか気にするんだねぇ」
「な。そういうのどうでもいいとか思ってそうなのに」
「なんだかんだこの中で一番小さいのも気にしてるんだからね?」
「そんなに差はないと思うけど……」
男子二人は一旦置いておくが、シャムより小さいのが何だかちょっと悔しいのだ。
別に特別小さいわけでもないが、ソミュールよりは少しばかり大きいのだが、それでも何となく。
「よし、何でもあるとこ適当に入るぞ」
「考え抜いた末それなの?」
「最適解だろうが」
頭の重りが退いたと思ったら、兄さんは考えるのが面倒くさくなったらしい。
まあ、兄さんが連れて行ってくれる店なら外れはないだろうからどこでもいいのだが。
うちの人は皆、モエギお兄ちゃんの手料理により舌が肥えているので下手な店には入れない身体にされてしまっているのだ。
それに、姉さまからの奢ってやれというご指令なら流石のトマリ兄さんでもそれなりの店に入るだろう。
この人、よくふらっと居なくなっては適当にお酒を飲みつつ噂話の収集をしていたりするので、一人だと本当に安さが売りの店にしか行かないらしいのだ。
シオンにいが零した程度の話なので私はよく知らないけれど。
それでもそこでご飯は食べず家に帰ってきてから食べているので、相当胃袋を掴まれているのだと思われる。
家の中で最も効果のある言葉は姉さまの「お願い」であり、次いでモエギお兄ちゃんの「夕飯を苦手なもので固めてもいいですか?」である。
もはや脅しだが、これを言われたが最後姉さまでも全面降伏するのでもしかしたらこれが一番効果があるのかもしれないと思ってみたり。
「ここでいいか?」
「お任せします」
「同じく!」
大通りに面した店を兄さんが指さし、全員が丸投げの態勢を取ったので流れるように店の中に入る。
すぐに席に案内されたので腰を下ろしてメニューを眺めていると、兄さんはまた耳に手を当ててた。
……当てましょう。きっと、自分もそっちに混ざりたかった今からでも変われお前が店番、とやんややんや言っているコガネ兄さんからのご連絡です。
コガネ兄さんは、姉さま相手には物凄く紳士な大人の対応をするのに、トマリ兄さん相手には子供のごとく突っかかるのだ。
「……コガネがうるせえ……」
「当たった。やったね」
「何がだ」
「何でもない。コガネ兄さんなんて?」
「腹いせに茶を貢げと」
それは多分、単純に飲みたかったのだと思うが。
家にあるお茶は大体が姉さまの好みであり、少しだけ他の人の好みの物があったり貰った物が置いてあったりするのだ。
「食うもん決めたか?」
「はい!」
「じゃあ店員呼ぶぞ」
慣れた様子で店員を呼んで、全員分の注文を終えたら料理が来るまで雑談の時間だ。
見た目は怖がられるし口も悪いが、トマリ兄さんは実は聞き上手である。
「そういや、お前ら冒険者登録はしねえのか?」
「あー。しようかとは思ってるんすけどね」
「ま、焦ることでもねえか」
「私がしたら怒る?」
「怒りはしねえけど、先に報告しろ。うるさそうなのが二人いんだろ」
雑談の内容は、学校のことやら休みの過ごし方やら。
そのほかには私が図書館に籠っているとか、そんな話まで出てきて笑われる。
そうだろうとは思っていた、と言われれば、まあ私も図書館があるなら絶対通うだろうと入学前から言っていたので何も言い返すことはない。何も言えない代わりに、そっと手元の水を飲み込んだ。




