258,フォーンのギルドへ
「セルリア、客間の方を見て来てくれるか?」
「はーい」
出店リコリスにポーションの入った箱が積まれていくのを眺めていたら、コガネ兄さんに声をかけられた。
兄さんはまだ作業部屋にいるのだけれど、何かギリギリまでやる事でもあるんだろうか。
コガネ兄さんのやる事って言うよりも、姉さまが何かしているのを手伝ってるのかな。
なんて考えながら客間に足を向ける。そろそろシャムの目も覚めた頃だろうし、ロイとミーファは支度も終わっているだろう。
「そろそろ出るけど、支度できた?」
「おー。シャムだけまだ部屋に居んぞ」
「分かった。ちょっと見てくる」
ミーファはソミュールの所に居るらしいので、そっちにも声をかけた方が良いだろう。
……ロイはどこに行ったんだろう。もしかして外に居たのかな。
まあ、出発の時に出店の方に行っていればいいんだし、あまり気にしなくてもいいか。
「シャムー。起きてるー?」
「起きてる!もう出れるよー」
「おっけー。そろそろ出発らしいから先に出店の方行ってて」
「はーい!」
シャムに声をかけて、次はソミュールの所に居るミーファに声をかけに行こうと思ったらちょうどミーファが出てきた。
窓の外でロイとリオンが喋っているのが見えたので、もう一度シャムの部屋を覗いて、三人揃って外に向かう。
「準備できたんなら乗って待ってろ」
「はーい」
「コガネ兄さんは?」
「買うもんの確認とアオイの手伝い」
やっぱりギリギリまで何か手伝っているらしい。
そろそろ来るだろ、と軽く言ったトマリ兄さんに適当な返事をして、さっさと出店に乗り込んだ。
座って体勢を整えていたら左右にシャムとミーファが来たので、とりあえずミーファの頭を撫でておく。やっぱり獣人の毛質ってちょっと動物に寄ってる気がするんだよなぁ。
なんてやっている間にリオンとロイも傍に来て、コガネ兄さんも出店の端に腰かける。
それからすぐに出店リコリスは動き出し、動き出した後で小鳥姿のサクラお姉ちゃんが飛んできた。
ポフンと音を立てて人の姿になったお姉ちゃんは、小窓からトマリ兄さんに文句を言っている。
「ひどい!おいてこうとした!」
「乗ってるもんだと思ったんだよ」
「確認してよ!コガネも確認してから出発してよ!」
「確かめる前にトマリが動かし始めたんだ」
「えーんセルちゃーん!」
「あー。兄さん達がお姉ちゃん泣かしたー。モエギお兄ちゃんに言いつけてやる」
「やめろやめろ」
「冤罪だ」
やいやい言いつつ、最終的にコガネ兄さんの傍に座るんだから仲が良い。
付き合いの長さなのかなぁ。結構二人で出かけることもあったらしいから、昔から仲は良いんだろうけど息の合い方はやっぱり付き合いの長さも関係あると思う。
「……さて、じゃあサクラ。これが今日の分」
「はーい。コガネたちはフォーンについたらすぐに降りてギルドに行くんだよね?」
「ああ。昼も適当に済ませてくるから、サクラも好きにするといい」
「分かった!」
サクラお姉ちゃんの元気のいい返事を聞きながら、膝の上に置いた杖が転がらないように膝を立てて調整する。
シャムが左腕にくっ付いてるから杖が持てないんだよね。
「説明楽しみだねー」
「そうだね。調査に行ったのが前の休みだから、半年くらい経ってるのかぁ……」
「調べるのに半年って、時間かかってる方なのか?」
「物によっては数年とか普通にかかるから、早めに終わったほうだと思うな」
「たまにとんでもなく長い研究記録とか出てくる時あるもんねー」
結構時間かかったなーと思っていたのだけれど、研究職生二人は早い方だと思っているみたいだ。
そっかぁ、半年なら早い方なのかぁ。確かに姉さまの知り合いの考古学者はもう何年も同じものを調べ続けているし、年内に分かっただけ早い方だと言われると納得も出来る。
結局あれは何だったんだろうね、と予想もしつつのんびり話している間に出店は森を抜けてフォーンの壁が見える所まで進んできていた。
普段なら大通りをある程度進むまで乗っているのだけれど、今日は門を潜った後すぐに降りて人混みを避けての移動になった。
「向こうの横道に入ろう」
「はーい」
前を進むコガネ兄さんについて行き、人混みから脱したところではぐれた人が居ないかを確認する。
今日はやたらと人が多い気がするなぁ。
何かあっただろうかと考えてみたけれど、特に思い至らなかったので気のせいってことにしておく。
誰もはぐれたりはしていなかったので、大通りとは比べ物にならないくらい人通りの少ない道を進んで行く。普段はあまり通らない道なんかも通っているのでちょっと楽しい。
どのあたりだろう、と時々見える大通りに目を向けたりしている間にギルドについており、正面に回って建物の中に入った。
「こんにちは、コガネさん」
「どうも。後ろは全員連れだ」
「分かりました。奥へどうぞ」
流れるように話が進んで、何度か来た記憶のある会議室のような部屋に通された。
既に何冊かの本と報告書のようなものが置かれており、気になりつつ椅子に腰かけたところで別の扉からギルドの職員さんが部屋に入ってきた。
「お待たせいたしました。わざわざご足労頂きありがとうございます」
「まあ、気になったから来ただけだ。……セルリア、こっち座りな」
「はーい」
適当に近かった椅子に座っていたのだけれど、実はコガネ兄さんの横の椅子が空いていたらしい。
呼ばれたのでそちらに座り直して、改めて置かれている書類を眺める。
全部今回の件の報告みたいだ。……かなりの量があるけど、少しでも関わりがあるものを全ておいてあったりするんだろうか。
「失礼します。お茶、ここに置いておきますね」
「はい、ありがとうございます」
「それと、コガネさん。こちらギルドマスターからのお届け物になります」
「……ああ、うん。分かった」
「兄さん今忘れてたって声出してたけど大丈夫?」
「大丈夫だ。まだ間に合う」
なんだろう、あんまり大丈夫じゃない感じがする。
まあ渡された紙に何が書いてあったかも分からないので何も言いはしないけれど。
とりあえず出してもらったお茶を一口飲み、お茶を出してくれたお姉さんが部屋から去って行くのを目で追う。
その間にコガネ兄さんは書類を懐にしまい込んでいるのが視界の端に映る。
なんてことをやっている間に正面に座っている職員さんが積まれた書類から何枚かを抜き取っており、ついでに本も開かれていた。
どうやら、ついに説明が始まるみたいだ。




