257,明日の予定
休みが始まって約一週間が過ぎた頃、客間でダラダラ話していたらコガネ姉さんがやってきた。
夕飯前だからお手伝いの招集かな、と思ったのだけれど違うらしい。
「明日フォーンに行くんだけど、セルリアも付いてきてくれる?」
「いいけど……何かあるの?」
「前に言っていたよく分からない魔力の捜査が終わったらしいから、ギルドに聞きに行こう」
「そうなの!?行くー!」
「私も行きたい!!気になる!」
「じゃあ一緒に行こう。ギルドには行かなくてもフォーンに行きたい子は明日ちゃんと起きてね」
「はーい」
去り際にもうすぐご飯だよ、と付け加えてコガネ姉さんは去って行った。
そういえば確かに詳しい話は聞けていなかったんだったか。
シャムも一緒に来るらしいので他にも回ってくる感じになるかな。
「……リコリスってギルドから連絡が来るの?」
「来る……みたい。誰も冒険者登録とかはしてないって言ってた気がするんだけどね」
「コガネさん、前にフォーンの中でなんか倒してたよな?」
「倒してたねぇ……ああいうのがあるから連絡来るんだろうねぇ」
何せ強いのだ。うちの兄姉は。
あとは姉さまと仲良くなれるかどうかに全てがかかっている。
姉さまと仲良くなれた場合、うちの戦力が必要に応じて駆けつけてくれる。……かもしれない。
居合わせたら大体助けてくれるし、いろんなところで恩が積み重ねられているのが薬屋・リコリスなので、姉さまの人脈は意味が分からない物になっている。
あとは姉さまが知らないところで兄さん達が何かしらやっていたりもするからね。
「まあ、深く考えないことだよ。考えてもどうにもならないから」
「悟ってるね、セルリア」
「ふふっ……もうかれこれ……何年だろう。十年?くらいになるからね」
私は今年十八になるから、十年とか十一年とかになるのか。
気付けば随分時間が経ったなぁとしみじみしていたら、なにやら驚きの目が向けられていることに気が付いた。……なに、なんでみんなしてそんな目をしてこっちを見てるの。
「そっ……か、うん、そっか」
「え、なに」
「いや、なんつーか、そういや七歳くらいで拾われたっつってたもんな」
「うん。七歳までは村で育ったからね」
……だからその顔はなんなの。なんでシャムは無言で私の頭を撫でてるの。
ミーファもなんだか寄ってきているし、ソミュールはいつの間にか後ろに回ってきていて抱きしめてきているし。
「なに、本当になに!?」
「セルちゃんを思い切り可愛がろうの会です……」
「です」
「なにそれ意味わかんない」
「今発足されたんだよぉ。ロイとリオンの分まで撫でておかないとねー」
よく分からないけれど今この瞬間、謎の団結力が発揮されたらしい。
リオンとロイもなんか頷いてるし、よく分からないけど撫でられてればいいのかな?よく分からないけど。
「ご飯出来たわよ?食べる?後にする?」
「食べる」
「じゃあ持ってくるわ。とりあえずセルちゃんはそのままでいいわよ」
「なんでぇ?」
まあ、ご飯は持ってきてもらえるみたいだし、それが到着したら流石にこの状態も終わるだろう。
ちょっと暑くなってきたしね。なぜか三方向からくっつかれて暑いからって風を起こそうかと考え始めてるからね。
「お、本当に団子やんな」
「ふふふ。可愛いわよね」
考えてる間にウラハねえとシオンにいが夕飯を持ってきてくれたので、並べるのを手伝うためにみんな離れて動き、並べ終わったら普通に椅子に座っていた。
あまりにも自然な動きにちょっと笑ってしまう。
結局よく分からなかったけど、なんか楽しかったからまあいいや。
母屋の方に戻っていくシオンにいに流れで頭を撫でられたりもしたけど、それはまあいつもの事なので気にならない。
二人が去って行ったのを確認して、夕飯を食べ始めれば完全にいつも通りだ。
明日の予定なんかを話しながら夕飯を食べて、結局皆フォーンについてくる流れになっていることに笑う。ソミュールは来ないらしいけれど、それでも中々の人数だ。
「ギルドに行くにしては多い人数だよねぇ」
「……ぎりぎりひとつのパーティーで通る人数じゃない?」
「コガネさん入れて六人だろ?……まあ、いけるか」
「私、クリソベリルが基準になってて認識おかしくなってるんだけど、普通のパーティーって何人くらいなの?」
「三人から五人くらいが普通かな?六人だとちょっと多いかなって感じだと思うよ」
「たまーに二人で組んでる人いるよね。毎回申請するのが面倒だーって」
「なるほど」
一緒にクエストに行くってなると、やっぱり人数が多すぎるのも面倒なのだろう。
クリソベリルは全員で同じクエストに行くなんてことは無くて、複数のクエストを同時に受けて適性のある人が行く、って感じだから、そもそもの在り方が違うんだよね。
ああいうパーティーって他にもあるのかな?
流石にクリソベリルが唯一無二ではないと思うので、私が知らないだけで他にもきっとあるんだろうとは思うけれど、他に聞いたことが無いからちょっと気になる。
そのうち誰かに聞いてみよう。それこそクリソベリルの人なら知っていそうだし、また会うだろうからその時覚えていたら、になるかな。
忘れていたらその程度の興味だったってことで。うん。
なんて話しながら夕飯を食べきり、その後も少し話してから食器を片付ける。
基本的に夕飯のあとは客間には行かないので、あとはもうお風呂に入って寝るだけだ。
ソファに腰かけてお風呂が空くのを待っていたら、ウラハねえがお茶を淹れてくれた。
「明日は皆で行くことにしたのね」
「うん。なんか大所帯になっちゃった」
「楽しそうでいいじゃない。コガネも一緒なんだし、ついでに買い物もしてくるといいわ」
「そうなると出店の方がずっとトマリ兄さん一人になっちゃうよ」
「明日はサクラも行くから気にしなくて大丈夫よ」
「そうなんだ。サクラお姉ちゃんが店番するの、珍しいね」
普段ならウラハねえが行っていると思うのだけれど、明日は何かすることでもあるのだろうか。
人数が増えたから夕飯の仕込みが間に合わないとかなのかな。
もしくはサクラお姉ちゃんが行きたいと言ったのか。
どっちもありそうな話だなぁと思っている間に姉さまがお風呂から上がってきたので、ティーカップを片付けてお風呂に向かう。
学校の寮では湯舟には浸かれないので、休みに帰ってくると長風呂しがちだ。
リオンなんかはお湯が張ってあってもあんまり浸からないみたいだけど。
疲れの取れかたとかかなり違うと思うんだけど、やっぱり浸かる習慣が無いと長風呂はしようと思わないものなんだろうか。
単純に性格の差かなぁ、なんて考えながらのんびりとお湯につかっていたら、いつの間にかかなり時間が経っていた。
流石にそろそろ上がって、寝る支度を整えてしまった方がいいかな。
セルちゃんはよくミーファを撫でたりしてますが、実は最年少はセルちゃんです。
多分学年単位で見ても最年少な気がします。




