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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
253/477

253,何も始まってないのに騒がしい

 森の中を進む出店リコリスの中で、寝ているソミュールをつつく。

 もぞもぞ動くので追いかけつつツンツンやっていたらリオンにそっと手を掴んで止められる。

 むっ。止めに来るならミーファかコガネ兄さんだと思っていたけど……二人は出店の端っこに座って話してるのか。


「ほれ、もうやめとけって」

「えー」

「同じところを的確につつき過ぎなんだよお前は」

「……あ、ほんとだ。虫刺されみたいになってる」

「そろそろソミュールが悪夢に魘されるぞ」


 そんなにずっとやってた気はしないんだけどな。

 まあ、止められたし大人しくやめよう。とはいえ、他に暇が潰せるかって言われたらあんまりすることも無いんだよね。


 ちなみにロイとシャムは課題どこまで進んだ?あれの解答なんだった?と何やら難しそうな会話をしているので混ざれない。

 リオンはさっきまで前の方でトマリ兄さんと話してたんだけど……戻る様子はないな。


「そういや、俺らが泊まる離れって普段何に使ってんだ?」

「普段は使ってないよ。姉さまの知り合いとかお客さんとかが急に来た時に、って作ったらしいから」

「……あれだけで普通の家くらいの大きさあるよなぁ」

「まあ、そうだね。気にしたら負けだよ」


 あの家……ではなく離れ。部屋を潰してキッチンを作ればもう住める、とか言われていたりするからね。

 作ったのは姉さまではないらしく、むしろ姉さまも頭を抱えていたレベルなのでもうどうにもならないのだ。


 やたらと部屋数もあるし、複数人で泊まりに来る気満々の人が居たんだろうなぁ。

 来る気満々で作った割にはそんなに高頻度で使われてるわけではないみたいだけど。

 まあ、こうして一ヵ月とか長めのお泊まりも出来るから、作ってよかった……のかもしれない。


「腹減ったな……」

「昼ご飯の後にあんだけ買い食いしてたのに?」

「しょうがねえだろ、減るもんは減るんだよ」

「まあ着いたらすぐ夕飯になると思うよ。それまで我慢して」

「おう。……夕飯、なんだろうな」


 よほどお腹が空いているらしく、話題がご飯から動かない。

 私までお腹空いてくるじゃん……夕飯、夕飯かぁ。

 一年ぶりに皆が泊まりに来るぞーって大盛り上がりしてそうなんだよね。


「予想は出来ないけど期待はしていいと思う」

「楽しみだな」

「そうだね。お土産に果実も買ってきたし、明日か明後日にはデザートも付くよ」

「あー……腹減った」


 リオンのお腹が鳴って、それに共鳴するように私のお腹も鳴った。

 空腹を自覚したせいでもう駄目だ。

 窓から外を眺めて現在位置をざっくり割り出し、もう少しだったので大人しく座り直す。


 そのままリオンとダラダラ話している間に、出店リコリスは家の敷地に入って行った。

 トマリ兄さんが出店を止めるのを待ってから降り、玄関のあたりでソワソワとこっちを見ていた姉さまに駆け寄る。


「おかえり、セルちゃん!」

「ただいまアオイ姉さま!」


 抱き着いてひとしきりわちゃわちゃやっていたら、後ろから首根っこを掴まれた。

 掴み方なのか何なのか、苦しくは無いんだけど宙ぶらりんにされるのは嫌なので下ろしてほしい。

 こんなことをするのは多分トマリ兄さんだろう。なら、多分このあたりに……


「おら、暴れてねぇで荷物下ろせ」

「兄さんが掴むから降りれないんじゃん」

「お前が無駄に器用に横腹狙ってくるから迂闊に放せねぇんだよ」


 軽く放り投げるように地面に降ろされたので、とりあえずトマリ兄さんを睨んでおく。

 ……全く響いてない、というか、もうこっちを見てもいない。

 いいけどさ、別に。さっさと荷物下ろせばいいんでしょ。


「皆、前に使ってた部屋覚えてる?」

「覚えてねぇ」

「僕が覚えてるよ」

「流石ロイ。とりあえず、荷物だけ運んじゃおう。私も自分の荷物置いてくる」


 ソミュールは……寝てるな。ミーファが運んでくれるらしいから任せてしまおう。

 自分の荷物を抱えて二階に向かっていると、キッチンで大量に夕飯を作っているウラハねえに手を振られた。


「おかえり、セルちゃん」

「ただいまウラハねえ。……作りすぎじゃない?」

「つい楽しくなっちゃって……」

「大丈夫ですよ、最終的にはトマリさんが全て食べてくれますから」

「俺の事なんだと思ってんだ」


 貯蔵庫の方からモエギお兄ちゃんとトマリ兄さんがやってきて、トマリ兄さんは貯蔵庫に戻って行った。先に食料とかを運んでるのかな。

 ……そういえばシオンにいとサクラお姉ちゃんはどこに居るんだろう。


 リビングに居るのかと思ってたけど、いないみたいだし。

 客間の方にでも居るのかな。荷物を置いたら見に行ってみよう。

 荷解きは後でやればいいけれど、茶葉とかは先に持っていた方がいいだろう。


「ウラハねえー。学校から茶葉持って帰ってきたんだけど……」

「あら、そうなのね。ならそっちから使おうかしら」

「はーい。ここに置いとくね」


 茶葉の瓶をキッチンの端に置いて、ソファに座っていた姉さまに声をかけてから客間の方を見に行くことにした。

 店を通り抜けて外に出ると、ちょうど出店リコリスを置いて来たらしいトマリ兄さんを見つけたので何となく飛びついてみる。


「あぶねえなぁ」

「欠片も思って無さそう」

「客間行くのか?」

「うん。兄さんも行く?」

「……まぁ、戻ってもまだ飯にはならねぇからな」


 リビングで待ってるのはお腹が空くだけだから、ってことかな。

 何はともあれ一緒に来てくれるみたいなので、トマリ兄さんの背中に張り付いたまま客間に向かう。

 多分、夕飯は家の方で一緒に食べようってなると思うから、荷解きとソミュールの状態を確認しないとね。


「あ、セルちゃん!おかえり!」

「なんでトマリにくっ付いとるん?」

「やっぱりこっちに居たんだ」


 客間に入るとサクラお姉ちゃんとシオンにいがソファに座っていた。

 トマリ兄さんに腕を解かれてしまったので仕方なく床に降り、なにやら叫び声のようなものが聞こえた個室の方を窺う。


 ……なにが起こったのかな?

 シオンにいが笑っているから危険なことは何もない……はずだけど、何をあんなに叫ぶ必要があるのだろうか。

 仕方ないから見に行こう。元々そのために来たんだしね。


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