252,出発までの暇つぶし
荷物を浮かせて運びつつ、賑やかな大通りを眺める。
やっぱり今日は人が多い気がするなぁ。
生徒たちが大荷物を抱えて歩いているから道路が狭く見えるのかもしれない。
「あ、居た」
「どこだ?」
「向こう。建物と建物の間」
「……あ、見えた。コガネさん気付いてるよね?」
「気付いてるねー。早くおいでって感じの動きしてる」
コガネ兄さんは道の向こう側に居るので、人混みに飲まれないように気を付けつつ進む。
出店リコリスにたどり着くと、奥の小窓からトマリ兄さんがこっちを見ているのに気が付いた。
なんでそこから見てるの?前まで来ればいいのに。
「おう、来たか」
「来たよー」
「荷物は奥から詰めていけ。昼は適当に食べてくるだろう?」
「うん。あ、ソミュールは寝てるのでここに置いて行くね」
「分かった」
荷物を置いて身軽になり、荷物をクッション代わりにしてソミュールを寝かせる。
連れていくよりもここに居て貰った方が安全だろうしね。
なにせトマリ兄さんとコガネ兄さんが居るんだからね。何か起こる前に気付いて対処されてる。
ミーファも賛成らしいのでここに寝かせて、とりあえず市場の方を見に行くことにした。
まだお昼には早いからねー。動き回っている間にお腹も空いてくるだろうから、そうしたら何か適当に買って食べればいい。
「お?なんか見たことない店が出てる」
「なんだあれ。……果物?」
「第一大陸の果物みたいだね」
「美味しいやつ?」
「図鑑で見ただけで味までは……」
気になるので買ってみよう、と先に歩き出したシャムを追いかけて一緒に屋台を覗き込む。
見たことのない果物しかないけれど、果実の甘い香りが漂っているので多分美味しいと思う。
店主のお姉さんのおすすめを教えて貰ってシャムと一つずつ、二種類買って屋台を離れる。
「割ってみよう」
「わ、でっかい種」
「お前ら行動が早ぇよ」
「だって気になるもーん」
半分に割った果実は半分交換して、とりあえず一口齧ってみる。
横では同じように果実を齧ったらしいシャムがんー!と大きな声を出した。
飲み込んでから笑うとリオンが物凄くワクワクした顔でこっちを見ていたので、残りの欠片をリオンの口に放り込んだ。
「すっぺ!」
「あはは!」
「セルちゃん全然平気そう……なんでぇ?」
「私酸っぱいの結構好きだもん」
「シャムちゃん、残り貰ってもいい?」
「いいよぉ、あげる……」
シャムが思ったよりダメージを負っていてどうしても笑ってしまう。
ミーファが受け取った果物はさらに半分に割ってロイとミーファが食べており、ミーファは平気そうだけどロイがビクッと肩を揺らした。
「すっ……ぱいね?」
「私、これ好きだなぁ」
「うそん!?」
「美味しいよね?」
「うん、美味しい」
まさかここまで差が出るとは思わなかった。私も結構好きだけどなぁ。
シャムとリオンとロイは信じられないと言わんばかりの目をしているので、ミーファと二人で美味しいよねーと顔を合わせる。
「こうなってくるとこっちも警戒したくなる……」
「そんなに身構えなくても」
「セルちゃん先に食べてー」
「仕方ないなぁ」
今度は最初からさらに半分に割っておいて、食べるのと同時にリオンの口に放り込む。
分かってて待機してるあたりがリオンだよね。シャムはもう私たちが食べるまで待機なのにね。
「ん、これは甘い」
「あめぇ……」
「リオンが文句しか言わない……」
「文句じゃねえけど、ここまで甘いとは思わねぇだろ」
まあ確かに加工済みかな?ってくらい甘くはあったけども。
そんな私たちの反応を見て、シャムは三等分にした果実を齧る。
こっちは普通に美味しかったのかニコニコだ。
ロイは何かを考えているようだけど、もしかして図鑑の内容を思い出していたりするんだろうか。
味は知らないって言ってたから覚え直してる?
……ロイならやってそう。違和感がないからそういうことにしておこう。
「買って帰ったらお兄ちゃんたちが何か作ってくれそうだなぁ……」
「おっ。買ってく?買ってく?」
「そうだね。……まあ、買うなら最後かな。邪魔になっちゃうし」
「じゃあ市場の方に行ってもいい?古物商が来てると思うんだよね」
「いいよー」
「行くかー」
別の果実も気になるから、出店リコリスに戻る前に寄ったら他のも買ってみよう。
考えながら先を行くロイを追いかけて、露店の並ぶ通りに向かう。ロイは結構、古物市とか好きだよね。鑑定授業を取った理由も気になるから、らしいし単に好きなんだろうな。
よく分からないけど、分からないなりに見てるのは楽しい。
これが理解出来たらもっと楽しいのかな。説明聞いているのは楽しいし、ロイは楽しそうに説明してくれるから多分楽しいんだろうな。
「ロイー。これなんだー?」
「魔道具だね。……動力源である魔石が抜かれてるからこのままじゃ起動しないけど、はめ込むための機構は生きてるから替わりを入れれば使えるよ」
「何をする道具なんだ?」
「……んー、送風機かな。手持ちじゃなくて、設置タイプの」
「小型セル……」
「私の事ただの送風機扱いしないでくれない?凍らせるよ?」
「うぉっ。聞いてたのかよ」
シャムとミーファが別の露店見てるからそっちに居ると思ったんでしょ。
残念だったな。向こうは端切れ布の詰め合わせ見てるから、ロイの説明を聞こうと思ってこっちに来てたんだよ。
小さい氷を作ってリオンの首元に当てる。
悪かったって!と声を上げたリオンに満足したので氷を消して杖を揺らす。
一連の流れを見ていたロイが笑っている。こういう時に怒らずに笑っているのが慣れなのか本来の性格なのか。
多分本来の性格だよね。村で小さい子に大人気らしいロイなら慣れてそう。
……あれ、それってつまり私とリオンのじゃれ合いが小さい子の喧嘩認識されてるってことでは?
なんか釈然としないなぁ……言わないでおくけどさ……




