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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
251/477

251,休み初日の朝

 くあ、と欠伸を零して、左手の杖を軽く回す。

 食堂に向かいつつぼんやりと杖を回し、食堂に入ったらそれはやめて朝食を取って席に着く。

 パンを千切ってモソモソ食べていると向かい側にロイが座った。


「おはよう、セルリア」

「おはようロイ。量多くない?」

「昨日遅くまで荷物の最終確認してたらお腹空いちゃて……」


 研究職は課題が出ているって言っていたから、ギリギリまで課題をやっていたんだろう。

 シャムなんかは、休みは遊びたいんだー!って課題を出されてから休みまでに出来るだけ終わらせようとしてたみたいだし。


 どこまで終わったのかは分からないけど、ある程度は進んだんだろう。昨日は夕飯のあとにすぐ部屋には戻らずにお茶飲みながらお喋りしてたし。

 今日の出発はそんなに早くないから、荷物の整理は最悪今日でも大丈夫だったのかもしれない。


「休みに入ったらまたリオンがちょっと早起きになるかもね」

「確かに。セルリアの家のご飯はまず香りが美味しいからね」


 話しながら朝ごはんを食べて、時間を一応確認しつつのんびりと過ごす。

 うーん、今日はスープが特に美味しいなぁ。

 何が入ってるんだろう。具はいつもと同じ感じなんだけど……味付け?下味?


「あ、そういえば、姉さまがちょうど新薬開発をしてるから、前よりちょっと姉さまが構ってこないかもしれないって」

「そうなんだ。……僕らが行って邪魔にならない?」

「大丈夫だと思うよ。集中したいときは書斎に居るだろうし」


 姉さまの書斎は防音仕様になっているから、よほど騒がない限り中まで音は通らないのだ。

 それに姉さまは静かすぎると集中出来ないーって外で本を広げていることもあったし、賑やかな方が好きなんだろう。


 そもそもうちは結構賑やかだしね。

 私とサクラお姉ちゃんが騒いでいることも多いし、そこにモエギお兄ちゃんやコガネ姉さんが加わることも多かった。


 コガネ姉さんとトマリ兄さんが何か騒いでいることも多かったしね。

 そうなると非常に賑やかだ。コガネ姉さんが突っかかってトマリ兄さんが乗っかるじゃれ合いの喧嘩だからね。ヒートアップすると姉さまストップが入る。そこまでを眺めるのが中々楽しい。


「……ふぅ」

「この後はどうする?まだ時間があるけど」

「シャムを見に行ってみるよ。ミーファはソミュールの所に居るだろうから、そっちにも行ってみようかな」


 今日は出店リコリスがちょうどフォーンに来ているのだけれど、それ故に夕方にならないと家には戻れないのだ。

 なので前回よりも出発の時間を遅くして、荷物を出店リコリスに乗せた後、夕方になるまで国内で遊んでいる予定になっている。


 そんなわけで余裕があり、まあわざわざ見に行かなくてもいい気もするんだけど他にやる事もないから声をかけに行くことにしたのだ。

 ソミュールの荷物はミーファが纏めておいたって昨日言っていたし、そっちも確認する必要はないと思うんだけどね。


「セルリア、本は返した?」

「返したよ。……なに、そんなに忘れてそう?」

「いや、忘れはしなくてもギリギリまで読んでそう」

「それ、は……そうだけど……昨日のうちに返したもん。ちゃんと、夕方のうちに」


 心配されなくても自分の荷造りを忘れて他を心配してる、なんて阿呆なことはしないよ。

 そのあたりも含めてちゃんと全部終わっている。

 なんなら茶葉とかも入れたし。ちゃーんと終わってますー。


「ロイは私の事を小さい子か何かだと思ってるでしょ……?」

「いやいや、そんなことないよ」

「本当に?」

「本当に」

「その言い方が既に兄さん達に酷似してるんだよなぁ」

「えー……それはもうどうにもならないよ」


 ロイが元々小さい子たちに大人気で常に囲まれていたからそういう言い方が染みついている、ってことにしておこう。

 そうじゃなかった場合、私の心にダメージが来るからね。


 なのでこれ以上は何も言わず、食器を片付けて一度部屋に戻ることにした。

 ロイは時間まで部屋で過ごすらしいのでここで別れ、一人で廊下を歩く。

 今行くのはちょっと早すぎる気がするから、私ももう少し時間を潰すことになる。


「とはいえ、することが無いな」


 勉強道具ももう全て荷物に入れてしまっているし、手元にあるものは……杖くらいなんだよなぁ。

 となれば、やる事なんて他には何もないんだよねぇ。

 でもまあ部屋では狭いので、部屋から出ていつも遊んでいる場所に向かうことにした。


 時間を気にしながらふわふわしていると、周りの行動が何となく風で拾える。

 朝のうちに学校から出ていく人、私と同じように時間を潰しているのかのんびり散歩をしている人、そして呆れた顔でこちらを見上げているヴィレイ先生。


「……おはようございます」

「おはよう。何をしているんだ?」

「時間つぶしです……」


 そっと地面に降りて、目を逸らしつつ杖をクルクル回す。

 別に悪いことをしているわけではないんだけど、何となく気まずい。

 怒られ……ては、無いんだけど、ね。うん、なんか、呆れられているからちょっと目を合わせにくいなぁ、って、ね。


「何もないなら目を逸らすな」

「だって先生が呆れた目を向けてくるから……休み明けに呆れるのはこっちなのに……」

「一言多いぞ」


 だって事実ですし……と続けると軽く頭を叩かれる。

 怒るなら一か月間、どうにかして部屋を散らかさないで過ごしてください。

 杖を揺らしながら文句を言っていたらため息が降ってきたので一歩下がる。


「出発の日に呑気に飛んでいるのを見かけたら呆れもするだろう」

「だって荷造りは終わってるからすることないんですもん……シャムはまだ寝てるだろうし……」

「今日は随分遅い出発のようだな」

「出店リコリスが来てる日なので、夕方までは国内に居るんです。なので、遅めに出てしばらく市場でも見てます」

「そうか」


 その後も少し話して、先生が去って行ったので時計を取り出して時間を確認する。

 ……そろそろ行ってみてもいいかな。

 今が一番人が外に向かってる時間な気もするし、なるべく邪魔にならないように移動しないと。


 大荷物を抱えてる人とかは前が見えていなかったりするので、その点にも注意が必要だ。

 私にみたいに魔法で浮かせて運んでいる人って町の中でもあんまり見ないんだよね。

 かといって、目を引く程珍しくもない。便利だしもっと普及しててもいいと思うんだけどなぁ……


 なんて考えながら廊下を進み、時々人を避けて別の道を行ったりしながらシャムの部屋の前に到着する。

 扉をノックして少し待ってみたけれど反応が無いのでもう一度扉を叩き、杖を回しつつ待機。

 少ししてから扉を開けたシャムはまだ目が開ききっていなかったのでとりあえず頭を撫でておくことにした。


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