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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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250,前期の最終日

 教室でのんびりと本を読んでいたら、鐘が鳴って先生が入ってきた。

 今日はこの授業で終わりで、時間は午前の最後なので寝坊した人も全員起きて来て揃っている。

 それを確認したのか、先生は持っていた物を教卓に置いて正面を向いた。


「全員揃っているな。知っていると思うが、この時間で前期授業は最後になる。明日から休みに入るが、羽目を外しすぎないように。どの代も、三年目の夏季休暇が一番大怪我をする者が多い」


 慣れは怪我に繋がりやすい。二つ目の選択授業も半年間しっかりやって、今が一番万能感を感じやすいらしい。そしてその万能感に浸って無茶して怪我をする、と。

 怪我で済めばいいがな、と付け足したヴィレイ先生に、すっと背筋が伸びる。


 何も起こらないのが一番だよね。無茶をするのは学校に戻ってきてから、手合わせ場で大怪我の心配がない時に。

 まあ、私たちは家でのんびりすることになるだろうから、早々怪我なんてしないとは思うけど。


「研究職と違い、戦闘職に休暇中の課題等はない。が、怠ければどこまでも堕落するものだ。各自日々の鍛練は怠らないように」


 鍛練。私は魔法もだけど、レイピアの方も地道にやらないといけない。

 そうなるとやっぱり右腕の筋力不足を補うところからだなぁ。休みの間に良い鍛え方でも探しておこう。というかリオンとか何かしら知ってるかな。


 あとはまあ、シオンにいとかと遊んでればそれなりにどうにかなるだろう。

 基本的に私の練習だのなんだのは遊びの延長戦で行われているので、そっちの方が習慣化しやすいんだよねぇ。


 別に他から始めたって大丈夫なんだけどね。

 タイミング的にちょうどいいからそこからにしようと思っただけで。

 一応、自分でも右手だけで腕立て伏せしてみたりもしてるんだけどね。なんか微妙な気もしてるんだよね。


「では次だな。休みに入る際、部屋に食料などを置いて行って一ヵ月放置するアホがいる、と報告が来ている。当然のことだが、ひと月戻らないのだから腐るようなものを置いて行かないように」


 休み明けに寮でちょっとした騒ぎになっているのは大体がそれだ、ってカルレンス先生が前に言っていた。

 気を付けなぁーね、とゆったり言いながら壊れた的を砕いていた姿がやたらと印象に残っている。


「質問等はあるか?無いなら、鐘が鳴るまで教室内で自由時間になる。……さて、リオン、セルリア。来い」


 呼ばれたので立ち上がり、廊下に出ていくヴィレイ先生を追いかける。

 リオンと合流して廊下に出ると、先生は壁に寄りかかって何かを確認していた。

 なんだろう。……まあ、こないだのあれだろうけど。


「先日の魔物について、ギルドから報告が来たので伝えておく」

「ギルドの管轄になったんですね」

「フォーン国内で魔物や魔獣が出現した場合はギルドの管轄になる。人的なものは警備に回る事が多い」

「へぇー」


 話しながら渡された紙を確認すると、この間の魔物の詳細が書かれていた。

 あとでもう一回ちゃんと読もう。今は、まだ別の話があるようだ。

 リオンはそもそも読む気があるのかないのか、既に紙をしまっている。


「さて、お前たち、今回の休みはキャラウェイの所に行くんだろう」

「そうですよー」

「なんかあるんすか?」

「いや。そういうわけではないが……まあ初めてではないのだし気にする必要もないか」

「変なことは起こらないように頑張ります」

「そうしてくれ」


 はぁー……とため息を吐いて先生は目元を抑えた。

 それを見てリオンも姉さまのちょっとネジの外れたところを思い出したのか、そっと口を閉じた。

 リオンもやたら高い薬渡されかけたりしてるもんねぇ、思い当たる節があるよねぇ。


 うんうん、と頷いていたら横からリオンに小突かれた。

 なんだよう、殴る事ないだろうよう。次やってきたら殴り返すぞおら。

 軽く杖を浮かせただけで何をしようとしたのか察したらしく、そっと杖を掴まれた。


「悪かったからやめろ」

「仕方ないなぁ」

「……話は以上だ。戻って待機していろ」

「はーい」

「うーっす」


 じゃれ始めたら先生に止められた。促されたのでそのまま教室内に戻り、席に座ってとりあえず杖を置く。

 当然のようにリオンが前の席に座っているので本は出さずに話していることにした。


「ヴィレイせんせーとアオイさんって仲悪いのか?」

「仲は……良くはないかな。なんていうか、反りが合わないっていうか、噛み合ってないっていうか」

「よく分かんねぇけどなんか大変なんだな」

「そうだね。まあ姉さまが何かやらかしたんじゃないかなぁ。休み明けの確認で毎度毎度薬の有無を聞かれるし」

「セルも大変なんだな」


 話していたらミーファがトコトコと寄ってきたので、とりあえずそっちを向く。

 机の横にしゃがんだミーファが上目遣いでこちらを見てくる。可愛いー。撫でとこー。

 今日はいつもより髪がふわふわな気がするなぁ。


「……あのね、セルちゃん」

「なぁに?どうしたの?」

「お休みの間にちょっとやりたいことがあって……」


 ミーファが自分から言ってくるなんて珍しい。

 そんなにやりたい事なのか、言おうと決めたから勢いをつけて言いに来たのか。

 なんであれ、うちは自由が効くし出来ることも多いだろうから、まあなんであれ出来るだろう。


「なにすんだー?」

「魔力の体内循環。もうちょっと強めに出来るようになりたくて……セルちゃんのお家なら、そういうのも出来るかなぁって」

「あー……まあ、コガネ姉さん辺りはやり方知ってそう」

「それ、俺もやりてぇ」

「着いたら言ってみな。やりたい事は最初に聞かれると思うから」


 確かに学校よりうちの方がやりやすいことかもしれない。

 一ヵ月あれば一気に出来るし、二人は前に遊びに来た時に魔視を習得していたし、まあ今より格段に上手にはなるだろうな。


 私は魔法使いなので、体内で魔力を回すよりも外へ出さないといけない。

 なので、体内循環は出来るけど外で回す方が得意なんだよね。

 そんなわけで、私では魔力循環はある程度しか教えられないので、姉さんたちに教えて貰うのは賛成だ。


 話している間に思ったより時間が経っていたようで、鐘の音が響いて来た。

 今期の授業はこれで終わりになり、この後は食堂に直行してお昼ご飯になる。

 午後は荷物の最終チェックだけど、その前にアリアナと会う約束をしているから昼食を食べたら普段遊んでいる辺りに行かないと。


「セルー?行くぞー?」

「ん?ああ、うん。行く行く」


 あれをしてあっちに行って、と考えていたらリオンが既に席を立っていた。

 ミーファはソミュールを回収しているようなので、そちらを手伝いながら荷物を持って教室を出る。

 ……起きなさそうだから、ソミュールを部屋に連れていくのが先になりそうかな。


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