25,兄妹なのでじゃれもする
荷台に買い出しの荷物を積み込み終えたトマリ兄さんは、振り返って私を見る。
その目から読み取るに、言いたいことは多分、お前の友人がやたら怯えているが本当に連れて行く気か、とかそこらへんだろう。
当然ついてきてもらうつもりなので有無を言わさず手を引く。
トマリ兄さんが初対面で怯えられるなんて今更なので気にしたら負けだ。
「……おいセル」
「なあに?怯えられてるのは兄さんの目つきのせいだから私関係ない」
とりあえず何か言われる前にとそんなことを言ったら、べちっと頭を叩かれた。
痛い。一応の手加減はされているのだと思うが、普通に痛いのでやめてほしい。
今回は私は何も間違ったことは言っていないのだから叩かないでほしい。
「可愛い妹の頭を叩くなんて……」
「そうだぞ主に言いつけるぞ」
「よし分かったお前らそこ並べ」
頭を押さえて文句を言うと、横からコガネ兄さんが乗ってきた。
そして並べと言っておいて並ばせる気のないトマリ兄さんから一撃ずつ叩かれた。
二回も叩かれたのには文句を言うほかない。姉さまへの報告とトマリ兄さんへの抗議はコガネ兄さんに任せよう。
「ほら、武器見に行くんだろ?行くぞ」
「はーい」
促されて歩きだしたトマリ兄さんの後を追う。
後ろを付いてくる足音を聞きつつトマリ兄さんの横から二歩ほど後ろへ下がったら、シャムが左腕に飛びついてきた。
「怖い人じゃないんだね」
「うん。目つきが悪いだけだよ」
あとはまあ、口も悪いけど。それでも悪い人ではないからね。
あんまり怯えないでほしいな、と口にすると、後ろからロイが笑う声が聞こえた。
振り返ると、口元を抑えて押し殺すように笑っている。
「……何?」
「いや、僕としてはセルリアがちゃんと年下に見えたのが初めてだったな、って。それくらいしか考えてなかった」
そんなことを言われて、きっと今私の目は丸いだろう。
学校へ入学するのに年齢は関係ない。
なので、同学年、同じクラスでも年齢はかなりばらけている。
いつも一緒にいるこの三人も皆年齢はバラバラで、実は私が最年少なのだ。
まあ、一つ二つくらいの差なら気にするほどでもないだろうと思って過ごしていたが、今の私はそんなに普段と違うだろうか。
「おいセル!止まんな」
「トマリ兄さん、私そんなに普段と違う?」
「俺が知るかよ。こっちからすりゃいつも通りだ」
それは確かに、そうなのかもしれない。
何も意識して態度を変えているわけではないので、兄さんたちと話している時は家に居る時と同じ感覚なのだろう。
「武器、何にすんだ?」
「大剣が欲しいんすよ」
「なら向こうだな……セル、これ持ってろ」
「はーい」
投げられた荷物を危なげなく抱え込むと、トマリ兄さんは影の中へ落ちていった。
他三人がすごく驚いているから、予告してからやってほしかったが言っても仕方ないのでそういう特殊種族なのだと適当に説明しておく。
私の兄姉が皆姉さまの契約獣だということは話してあるので、その説明で納得してもらえたようだ。
トマリ兄さんは陰の中を移動する。物陰から急に現れるし、私の影から顔だけ出していたりもする。
私は慣れ切ってしまっているけど、普通は驚くだろうな、と今更そんなことを思った。
ちなみに荷物も影の中へ持っていけるはずなので、私に荷物を投げてよこした理由は分からない。
沈めてはいけないものでも入っているのだろうか。
中身を見てもいいだろうかと考えていたら、先ほど沈んでいった影から唐突にトマリ兄さんが生えてきた。
なんというか、出て来かたが本当に生えてるみたいなのだ。
「おし、行くぞ」
「おかえり。それ驚かれるから人前でやらない方がいいと思う」
「知ってらあそれくらい」
つまり知っているけど改める気はないと。
まあ、そうだろうとは思うけども。トマリ兄さんが赤の他人を気遣っていたら私は驚いて空中で炎の魔法を練習し始める自信がある。
兄さんが気に留めるのは姉さまと姉さま関連と特別枠でコガネ兄さんくらいなので、それ以外に使う気なんてありはしないのだ。
「おら行くぞ」
「はーい」
返事をして歩き出すと、ちゃんと後ろから足音が付いてくる。
すごく驚いていたと思うけど、慣れるまでが早いのは流石だ。
研究職組はやってるのか分からないけど、授業中に突然先生が消えるとか、見えない先生を探し出して捕まえるとか、そんなこともやっているのでどんな状況にもある程度なじめてしまう。
道中ではトマリ兄さんが影に沈むことはなく、店は決めてあるのか細い道をどんどん進んでいく。
移動しながら詳しくどういう武器がいいのかという話になり、私にはよく分からない重さだの厚さだのの話になっていた。
聞き流しながら辺りを見渡して、今どのあたりに居るのだろうかと考える。
フォーンの職人街にはあまりなじみがないので、今一人になったら大通りに戻れる気がしない。
一人になることはないだろうが、少し気を付けておこう。
なんて杖を握り直したところで兄さんが足を止めた。
そして躊躇いなく目の前にあった扉を押し、中に入っていく。
慌てて追いかけると外見とは裏腹に綺麗に掃除された店内が待っていた。
「予算的にここら辺が妥当だな。好みで選べ」
私たちが店内に入ってきたのを確認して、トマリ兄さんは店の一角を指さした。
そこには様々な武器がまとめて置いてあり、綺麗に陳列されたものに比べて値段が下がるのだろうと簡単に分かる置かれ方をしていた。
その一角でいくつか大剣を選んでは握って持ち上げているリオンを横目に、窓の外で揺れる看板に目を向ける。
鉄の板で作られたその看板には文字が彫ってあるようだが、よく見えない。
「……初めて来る感じのお店」
「だろうな。こういうとこに来んのは俺かシオンだ」
言いながら自分も何か見繕っている兄さんの言葉をゆっくりと咀嚼して飲み込む。
つまり、攻撃手段が基本魔法ではなく近接で、飾り気を嫌って実用性だけを求める人が来るようなお店、ということでいいのだろうか。




