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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
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249,真面目な後輩と緩い先輩

 ヴィレイ先生の影から倒れた魔物をじっと見ていたら、目の前に手が出て来て雑に後ろに戻された。

 ……あ、これヴィレイ先生の手か。

 はー……見慣れないなぁ……というか、裾は元に戻らないんですね。


「まだ息はある。迂闊に近寄るな」

「あ、そうなんですね」

「調べないといけないこともありますからね。倒してしまっては分かることも少ない」

「うお、ノアせんせー……」


 後ろから急にノア先生が顔を出してきた。

 振り返ると、イザールの横にはアリシア先生も居る。

 アリシア先生は回復魔法の先生なので、怪我人の保護に来た感じだろうか。


「引き継ぎます。ヴィレイ君は生徒たちを」

「ああ。行くぞお前たち。イザールも動けるな?」

「はい」


 イザールが庇っていた女の人はまだ目を覚まさないので、アリシア先生が休める場所に連れていくそうだ。

 魔物の方はノア先生がやるらしい。……何をどうするんだろう。気になる。


 なんて、先生たちの方を見ていたらヴィレイ先生が歩き出していた。

 リオンに声をかけられて慌てて追いかけつつ、どこへ行くんだろうと考える。

 てっきりこのまま学校に戻るのかと思っていたんだけど、違う所に向かうみたいだ。


「……お前たち、前を見て歩け」

「見てます」

「正面を見ろ。俺の腕なんて見ても面白くないだろう」

「いや、珍しいんで面白いです」

「はぁ……」


 むしろ見られないと思ってたんですか?私たちが食いつかない訳がないじゃないんですか。

 ねぇ?ほら、リオンもめっちゃ頷いてる。

 それにまさかあの長い裾の下から黒手袋が出てくるとは思わなかったから、なんかもうまじまじと見ちゃうよね。


「その手袋長くないですか?どこまであるんですか」

「二の腕」

「ながっ」

「教えてくれんのか……」


 まさか答えてくれるとは思わなかった。そして思った以上に長かった。

 リオンと二人で横から好き勝手に感想を零していたらリオンの顔面に先生の手がベチッと当たった。

 ……あ、これ普段なら裾が当たるのか。裾ならそんなに痛くないけど、裾がないから裏拳になったってことかな。


「着いたぞ。入れ」

「なんすか、この家」

「今回のような非常事態が起きた際の待機所だ。少し時間がかかるだろうから、好きに座っていろ」


 言うだけ言って、先生は奥の部屋に入って行ってしまう。

 まあ座ってろって言われたし、置かれているソファに座って素直に待っていることにした。

 流れるようにリオンが横に、イザールが前に座ったので先生を待ちながらのんびりと雑談をする。


「……なんかこの家、魔法と魔術の間みたいな気配がする」

「なんだそれ」

「んー……なーんか知ってる感じなんだけどなぁ……別のところで似たもの見たのかな」


 保護か何かがかかっているんだろう。普段から使われている様子ではないのに中が綺麗なのも、そういう魔法の効果かもしれない。

 聞いたら教えて貰えるかな?先生が戻ってきたら聞いてみよう。


「……先輩、よくあの状態で俺の事庇おうと思ったよね」

「ん?だって襲われてたら助けるって約束してたじゃん」

「よく覚えてたね!?それ去年の最初とかに言ってたやつでしょ?」


 初めて会った時とかだった気がするし、なんか印象深かったんだろうなぁ。

 というかイザールも覚えてたんじゃん。

 口約束だけど、約束はそれ以外に何もないから覚えていやすかったんだろう。


 なんて話していたら奥の部屋からヴィレイ先生が出てきた。

 ……あ、袖がもとに戻ってる。この家に着替えなんかも置いてあるのかな。

 待機所って言ってたし、色々置いてはありそうだ。


「さて、お前たちにも確認することがある。まず、あの魔物に遭遇した時の状況からだな」

「俺とセルが見つけた時にはもう襲われてたよな」

「先輩たちが来るちょっと前に遭遇して、人が襲われてたから間に入った感じですかね」


 長い裾で慣れたようにペンを走らせる先生を見て、着替える前に聞き取りをした方が楽だったのでは、と思う。

 もしかして私とリオンが騒いだからさっさと着替えてしまったのだろうか。


「イザールは遭遇前は何をしていた?」

「普通に街を散策してました。そんなに離れてないところから叫び声が聞こえてきたからそっちに向かった、って感じです」

「セルリアとリオンは?」

「クエスト帰りです」

「まだ時間あっから市場でも見てくかーっつってたら人が走ってきてたから見に行ったんだよな」

「通りが騒がしいなーってくらいで、正直喧嘩か何かだと思ったよね」


 なー。と相槌を打ってれるリオンはこういう時に非常に有難い存在だ。

 ゆるーい考えで見物に行ったことを隠しもしない私たちに先生がため息を吐いている。

 変に話を取り繕うよりいいのでは?私たちが休日に二人で出かけてるんだから、真面目に何かしてるわけないじゃないですか。クエスト終わったらもうあとは遊ぶ以外に動きませんよ。


「イザールは襲われている女性を見つけたから助けに入った、でいいんだな?」

「はい」

「お前たちは?」

「セルが行けって」

「イザールが力押しで負けてたんで、割り込まないと不味そうだなーって。攻撃を捨てて防衛だけならどうにかなりそうだったので」


 リオンが私を指さしてきたので、その指を掴んで下に降ろしつつ杖を回す。

 イザールが素直な分、私たちがふざけてるみたいになっている気がする。

 そんなことないのになー。分かりやすく行動説明してるだけなのになー。


「あの魔物に見覚えは?」

「無いですね」

「俺も。セルは?」

「全く。やっぱりあれ魔物だったんだーくらいの認識」


 何だったんだろう、あれ。聞いたら教えて貰えるかな。

 なんて考えている間に先生はメモを終えていて、それを机に置いてソファから立ち上がった。

 目で追っていると、ヴィレイ先生は戸棚を開けて中から何かを出している。


「確認はひとまず以上だが、ノアの方が時間がかかるだろうからもう少しここで待機だ。お茶でも飲んで待っていろ」

「あ、茶葉なんですねそれ」

「……レイラームか。まあいいか。飲むなら纏めて淹れるが?」

「いただきまーす」

「俺も!」

「あ、じゃあ俺も」


 わーいと緩く声をあげつつ、懐から時計を取り出す。

 門限には間に合いそうにないけど、先生が一緒だから大丈夫な感じかな?

 大丈夫なら気にしても仕方ないから、とりあえずお茶を飲んで一息つくことにしよう。


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