248,いつぞやの約束
カセラビの討伐を終え、フォーンに戻りギルドに完了報告に向かう。
今回は倒した数だけじゃなくて、向かった場所とか索敵した範囲とかも報告内容になっているからいつもよりちょっとだけ時間がかかりそうだ。
まあ、基本的に書類はギルドの職員さんが書いてくれるし、私たちは聞かれたことに答えるだけでいいからさほど面倒ではない。
もっと面倒な報告作業をしたことがあるからなのか、このくらいは楽な方だよなぁという心の余裕が生まれている感じ。
「……はい、ありがとうございました。これで確認は終了になりますので、あちらの窓口から報酬をお受け取り下さい」
「分かりました」
引き換え用の書類を受け取り、報酬受け取りに向かう。
報酬はギルドの方で分けてくれてあるので、小袋をリオンとそれぞれ一つずつ受け取って、これで正式にクエスト完了だ。
「セル、いま何時だ?」
「五時四十六分」
「微妙だな……」
「ねー。市場でも見に行く?」
「そうだなー」
夕食まではまだ時間があり、学校に戻っても暇なのでちょっと暇を潰してから戻ることにした。
門限もまだだからね。どうせなら遊んでいかないと損だよね。
一応時間を気にしながら市場を見て回り、そろそろ帰るかーと話し始めたところで何やら通りが騒がしいことに気が付いた。
「なんだろう」
「行ってみるか」
「そうだね」
騒ぎの方向へ向かうにつれてそちらから走って来る人が多くなっていく。
明確に何かから逃げているような動きだ。
一体何があったのか、考えても仕方がなさそうなので人並みに逆らうように進み、開けた場所に出ると随分大きな何かが動いているのが見えた。
立ち止まって目を凝らすと、その何かの前に人が居るのが見えた。……って、え?なんか、見覚えのある黒猫が居るね?
風を作りながら確認したのだけれど、イザールの後ろには誰かが倒れていた。つまり庇うためにあそこに立っているらしい。
大きな何か……面倒だから魔物ってことにしよう。魔物の攻撃を防いだイザールは、防ぎこそ出来たけれど体勢を崩した。あれでは次の攻撃を防げそうにない。
「リオン、割り込める?」
「おう。任せろ」
「攻撃はしなくていい、防ぐだけ、防衛優先。じゃ、飛ぶよ」
練り終わった風に乗って、リオンと一緒に魔物に向かって飛んでいく。
私はそのままイザールの前に入り、リオンは一歩前に降ろして既に振りかぶっている魔物を横から叩いてもらう。
「やっほー、イザールッ!」
「え、先輩!?」
声をかけつつリオンが弾いて向きが変わった攻撃をさらに弾いて、前に来たリオンに風を纏わせる。
これでとりあえず大丈夫かな。力押しなら私よりリオンが向いてるし、私は一旦イザールの後ろにいるお姉さんの状態を確認したい。
「イザール、この人知り合い?」
「いや、知らない人」
「そっか。……外傷はないし、びっくりして倒れた感じ?」
「うん。俺が見つけた時はちょうど襲われたところで、そのまま倒れちゃった」
「なるほど。イザールは怪我とかない?」
「ないよ、大丈夫」
なら急いでやらないといけないことは無いし、ここで耐えていれば人が来てくれるだろうからとりあえず防衛優先で良さそうだ。
なんて考えている間にリオンが二撃目を弾いていた。安定感が違うね。イザールはミーファと同じでスピード型だから、こういう押し合いには向かない。
「セル!攻撃の向き、真横に変えれるか?」
「ん、やってみる」
杖を回して、魔物の動きを無理やり変える。さらに周りに風を作り、動きを変える範囲と変えない範囲を作って、相手が動きやすい場所を制限する。
ついでにリオンの背中に手を付いて、そこを中心に風を起こして二重に誘導すれば流石に真横以外からは攻撃が出来なくなるだろう。
「ついでだ、セル。ちょっと風貸せ」
「好きにおつかいー」
「おう。……いや手伝え?」
「私これでも結構あれこれやってるんだよ?」
まあ、やれって言うならやるけどさ。
リオンの剣に風を纏わせると、いややるのかよ、と小さな呟きが返ってきた。
なんだよ、やる分にはいいじゃんかよ。文句あるか?おん?
「悪かったからキレんな」
「許してやらんこともない」
話しながら三撃目を弾き、少しずつあたりに風を広げていく。
誘導に使っている分を薄くは出来ないので、量をじわじわ増やして探知の範囲を広げているのだけれど、本当にゆっくりだから中々進まない。
それでも広げているのは周りの状態を確認したいからだ。
現状ここから動けないので、周りに人が居るのか、とか他の魔物が近くに居たりしないか、とか確かめたいことは割とある。
「……ん」
「どうした?」
「人が来る。……あ、先生っぽい」
「お、そうか。じゃあもうちょいだな」
なんて話していたら四撃目と五撃目が連撃で来て、六撃目が来る前に魔物が真横に吹き飛んだ。
……すっごい勢いだったんだけど、すぐにまた向かってきているのが見えた。タフだねぇ。
風を集めようかと思ったらリオンの前に見慣れた背中が現れたので、そっと風を薄くする。
風で煽られた長い髪が視界いっぱいに広がる。
……こういう状況で見ると、本当に安心感がある。見慣れているって言うのが大きいんだろうなぁ。
長い裾に包まれた腕が持ち上げられて、突進してきた魔物を止める。
「無事だな?お前たち」
「無事です」
「無傷っす」
「よし。少し下がっていろ」
ヴィレイ先生の声に従って、イザールと女の人を連れて後ろに下がる。
私たちが下がったのを確認して、ヴィレイ先生は魔力を練り始めた。……魔力、だと思うけど、なんだかちょっと不思議な感じ。魔法じゃなくて魔術なのかな。
なんて考えながら見ていたら、先生の服の裾が解けるように消えていった。
あまりの驚きに瞬きも忘れてみていると、解けた服の下から真っ黒な手袋に包まれた腕が現れる。
ゆっくりと指が動いたかと思ったら、魔物の大きな体がその場に倒れた。……何をしたのかは分からなかったけれど、リオンと同時にかっこよ……と呟いてしまった。




