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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
245/477

245,内容は決まってないらしい

 昼休みが終わり、そわそわした空気で満ちている講義室でソミュールをつつく。

 鐘も鳴ったからもう始まるよー。まだ姉さま来てないけどそろそろ来るよー。

 起きろー。薬はさっき出したのに、飲む前に再び眠りに落ちたのだ。


「ソミュちゃーん!」

「ソミュールー」

「んんぅ……」


 ミーファと二人で揺すり続けてどうにか起こし、薬を呷るソミュールに息を吐く。

 間に合って良かった。ソミュールは最悪姉さまと個人的に話したり出来るんだけど、本人がちゃんと授業も聞きたいって言ってたからね。


 ソミュールを起こすのに邪魔だからと避けていた杖はリオンが支えてくれていたので、とりあえず受け取ってお礼を言う。

 そんなことをしている間に扉が開き、教室内が一気に静まった。


 入ってきた姉さまは、建物の入口で見かけた時と違い完璧に最上位薬師の外面を装備していた。

 ……こういう所で「完璧で美しい最上位薬師様」の印象がついていくんだろうなぁ。

 姉さまも分かっているだろうに、そのあたりを見直すつもりはないみたいだ。


「……はい、それでは始めましょう。今回の特別講師は最上位薬師、アオイ・キャラウェイさんです」


 ノア先生がそれだけ言って壇上から降りていく。

 残された姉さまは慣れたようににっこりと笑った。

 うーん、外面。普段のゆるふわな姉さまを見慣れている私からするとちょっと違和感があるが、まあ何度も見たことのある笑みだ。


「ほとんどの人は、初めましてですね。ご紹介に与りました、アオイ・キャラウェイです。講師、と言っても薬師を目指している人以外は薬の話になんて興味はないと思うので、毎年、何か一つ薬を作りながらお話する時間にさせてもらっています。

 危険な物や希少すぎる物は作れませんが、制作する薬の希望がある人は居ますか?」


 いつのまにやら壇上には大釜やらなんやらが用意されていて、ついでにコガネ兄さんが何かしているのが見えた。

 最上位薬師が薬を作っているところなんてかなり貴重だと思うんだけど、皆遠慮しているのかすぐに手は挙がらない。


 少しだけ間があって、研究職の方で手が挙がった。

 多分薬師系の人だろう。ただの勘だけど、希望をあげるにも薬の名前とか作り方とかある程度知ってないといけないからね。


「白楽の花蜜は、可能でしょうか」

「ええ、可能ですよ。コガネ、薬液お願いしてもいい?」

「ああ」

「トマリ。材料と蒸留器をお願い」

「おう」


 流れるように兄さん達が動き出し、姉さまは薬学書を取り出してページを捲り始めた。

 蒼の薬学書。姉さまが書いた本。

 ここで作れるってことは暗号化はされていない物なのだろう。


「さて、では何かお話しましょう。質問などありますか?何個でもいいので、思いついたら言ってくださいね」


 手元で作業を始めながら、姉さまはゆったりと笑う。

 今度はすぐにちらほらと手が挙がった。

 薬の指定はともかく、質問ならしたい人は多いってことだろう。


「最上位薬師様に作れない薬はありますか?」

「現在残されている薬学書に記述されている物であれば、全て制作可能です。

 ……というか、最上位薬師の位取得のためには全ての薬を制作しなければいけないので、最上位薬師は現存する薬は全て作れます。

 まあ、なので実は、最上位薬師の位を必要としないプラチナ級薬師の中には、制作は可能だが薬師会に記録が残っていないので最上位ではない、という人が居ます。我が師匠が代表例ですね」


「薬の制作に魔法が必要なことはありますか」

「魔法、という括りだと、絶対に必要だというものはないですね。

 魔力が必要な物もありますが、基本的には材料からの魔力補給で制作しますので、必要にはならない場合がほとんどです。

 魔力を込めない、となるとイピリア国内では製作出来ないという事になるわけですが、私が知る限りそういった薬は存在しないですね」


「新薬の効果は、どうやって確かめているんですか?」

「途中経過は試験薬やユルヴァ紙で確認することが多いですね。完成したものに関しては、薬を見ると分かります。

 私はオリジナルスキルで「医薬鑑定眼」というものを所持しているので、薬であれば見るだけで効果を把握することが出来ます。鑑定眼の薬専門版ですね。範囲が狭い分、効果が高まっているのか詳細把握が可能です」


「才能によって作れる薬の系統が決まっている、と聞く事がありますが、最上位薬師様はどう思われますか」

「んー……ある、と個人的には思っています。ただ、明確に何か数値が示されたわけでもないので信じすぎるのは良くないでしょうね。

 作りやすい薬の系統があったとしても、それ以外のものは全く作れない、なんてことにはならないですし、正確に作り方を把握すれば大抵のものは作れますからね」


「最上位薬師様は魔法は使えますか?」

「実は、攻撃魔法が全く使えません。回復魔法も使えないので、魔法使いとしては三流にもなれませんね。代わりに結界術がちょっとだけ使えます。

 魔力派はどうにかギリギリ使えますが、魔力を留めておくことが本当に苦手なので、魔視も出来ません。必要な場合はコガネにやってもらっています」


 話しながら薬草を切ったり鍋を見たり、作業が淀みなく進んで行く。

 こんな距離で見ることは今までなかったけれど、気分としては窓から作業部屋を覗いているのと同じ感じだ。


 やっぱり姉さまが薬を作っているのは見ていて楽しい。

 手際が良いし、動きに無駄がないからいつまでも見ていられる。

 話している内容は半分くらいしか聞いてないけど、まあ私は家に帰ればお話しできるし。


「主、薬液出来たぞ」

「ありがとう。じゃあ……セルちゃーん。これ、風の中で回しててくれる?」

「え、うん。……これ、薬作りだったの?」

「ふふふ」


 コガネ兄さんの風に乗って、瓶が一つ飛んでくる。

 杖を回して受け止めて、言われた通りに風の中でクルクル回しながらやっぱり姉さまは説明が足りないよなぁと独り言を言う。


 この作業自体は頼まれて何度かやったことがあるんだけど、中身が食べ物の時とかが多いからまさか薬作りだったなんて思わなかった。

 アイスだったりしたじゃん……中身……


「セル知らなかったのか」

「知らなかった。別にいいけどさ……別に……」

「ちょっと気にしてんじゃねえか」


 小声でひそひそリオンと話しながら瓶を回す。

 ……兄さんが何かやってるな。なに?もっと速くてもいいの?

 じゃあもっとぶん回そ。瓶の蓋が取れない程度に、だけど。


「他に質問などありませんか?薬師に関係なくてもいいですよー」


 煮える鍋に材料を追加して、確認を終えたらしい姉さまは正面に向き直してにっこりと笑う。

 再びちらほらと手が挙がり始めて、質疑応答が再開された。

 そのまま穏やかに時間が過ぎていき、合同授業は問題なく終わった。


アオイちゃんの特別授業は書き始めたころからやりたかったことでして、内容としてはずっと前から決まってました。

ただ、質疑応答の所を一個一個書いたらとんでもない長さになりそうだったのでこんな形に。

これはこれでいいのではないだろうかと自画自賛してます。読みにくかったらすみません。

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