244,驚きの特別講師
鐘が鳴り、それによって授業が終わり昼休憩の時間になったことが知らされる。
風を霧散させてグッと身体を伸ばし、解散の号令をかけるノア先生に一礼して食堂に向かうことにした。
「セルリア、少しいいですか?」
「はーい?」
「今日はソミュールは起きていましたか?」
「あー……午前中は微覚醒って感じでした。午後は薬飲んで起きてるって昨日言ってたと思います」
「そうですか、ありがとうございます」
今日の午後は合同授業なので、それに参加出来そうかどうかの確認だろう。
起き無さそうだなぁーって日は朝からそんな感じだし、午前中ずっと起きてる方が午後寝ている確率は高いので今日は大丈夫なんじゃないかな。
今日は天気も良いしね。
ノア先生が聞いて来たって事は今回はヴィレイ先生じゃなくてノア先生が主体なのかな。
……いや、そもそも合同授業だとノア先生が主体か。ヴィレイ先生は後ろから見てることの方が多い気がする。
「おーっすセル」
「おつかれー」
廊下でリオンと合流して食堂に向かう。
昼食を持って席に向かうとロイとシャムが既に座っていて、何か本を開いていた。
私たちに気付くとパッと顔を上げる。
「それなに?」
「今日の一限の内容なんだけど、どうしても分かんない問題があってね」
「お前らが分かんない物とかあんのか……」
「あるよー普通に。もやもやするから二人が来るまで考えてみよーって言ってたんだけど、結局分かんないや」
ちょっと見せて貰っても全く分からない謎の模様にしか思えなかったので、素直に返して昼食に手を付ける。
ちなみにリオンは見る前に諦めて先にご飯を食べ始めていた。
「そういえば今日の合同授業って何なんだろうね」
「普通は事前に通達あるのにね」
昼食を食べながらの話題は当然のように合同授業のことになる。
クリソベリルが来る日ですら事前に内容の通達があったのに、今回は当日になっても内容が知らされていない。
「座学系でしょ?何かある?やりそうなこと」
「……分からん」
「魔法歌は前にやったし、神代観測も前にやったもんね」
「行けば分かるけど、気になるー」
「食べ終わったら門の方に行ってみる?午後からってことはちょうど来るかもしれないよ」
「確かに。どうせ昼休みにすることないし、行ってみようかな」
気になる気持ちは皆同じなようで、いつもよりちょっと急いで昼食を食べ終えて席を立つ。
見れなくても授業が始まるまでの暇つぶしにはなるだろうし、食後の運動がてら行ってみよう。
時間的にみんな食堂にいるのか人通りの少ない廊下を進み、中央施設の一階で止まる。
あとは時間いっぱいここで雑談しているだけだ。
一応手に時計を構えておく。予鈴で移動すれば間に合うけど、急ぎたくはないしね。
懐中時計を開いて持っていれば誰かがふと見た時に気付くだろう。
「……割と人いるね」
「皆気になってる感じかなー」
思ったより人が居たので思わずそんなことを呟く。
見覚えのある顔ばかりなので三年生が集まってきているようだ。
外部の人が来る、とだけ教えられているから、とりあえずここに集まってるんだろうなぁ。
「もう既に学校には来てて別室で待機してたりしてね」
「普通にありそう」
「それだとつまんねぇな」
「そんな可能性を感じつつも待機なんてみんな暇だねぇ」
「それ、シャムも暇ってことにならない?」
「なるねぇ」
まあ、忙しい人はこんなところで来るかも分からない誰かを待ったりはしないだろう。
なんてダラダラ話していたらなにやら門の方が騒がしくなってきた。
門の方にまで人が居たのかーなんて思いながら今日の講師であろう人が来るのを待つ。
どんな人だろうね、と話しながら眺めていたら、外套のフードを目深にかぶった人がやってきた。
……あの、えっと、見覚えしかないんだけど……
固まった私を見て首を傾げた三人も、後ろから付いてきた白髪金眼の青年を見て同様に固まった。
「ね、姉さま!?」
「あら、セルちゃーん」
ふわりと笑った姉さまは、家に居る時と薬師をしている時の間くらいのゆるふわ感だ。
フードを取った姉さまに周りが固まり、それを気にせず当の本人はこっちに歩いて来ている。
まあ私からも寄っていくけどさ、姉さまはそのお花が飛んでそうな笑顔の破壊力をきちんと把握してるのかな?
「今日の講師、姉さまだったの?」
「そうだよー。実は毎年来てるのよ」
「セル知らなかったのかよお前」
「知らなかった。何も聞かされてなかった」
「びっくりするかなーって思って、内緒にしてたの」
「そりゃビックリもするよ……」
そこはせめて授業予定を教えることは出来なかった、とか言って欲しかった。
茶目っ気でやったのか……まあ姉さまだしなぁ……やるよなぁ……
やる、という結論に達した結果思わず天を仰いで目元を抑えてしまった。
「何をしている、キャラウェイ」
「あらヴィレイさん。お久しぶりですー。アオイですー」
呆れたようにやってきたヴィレイ先生に、アオイ姉さまが外面で固めた笑顔を向けた。
……これは、あれかな。姉さまとヴィレイ先生のすれ違い続ける争い。
ちらっとコガネ兄さんを見ると、神妙に頷かれた。そういう事らしい。
「早く待機室に行け。無駄に目立つな」
「そんなに留まっても居ないですよ?」
にっこりと笑った姉さまからは、いつもと違って花も飛んでいないしキラキラもしてない。
つまりあの笑顔は威嚇である。姉さまがそんなことをする相手はほとんど居ない。
そして、そんなことをする相手なのに会うのを嫌がっても居ない相手、というのは最早ヴィレイ先生だけなのではないだろうか。
「……とりあえず威嚇合戦やめて移動したら?姉さま、準備とかあるんじゃないの?」
「そうだな、行こう主」
「うん。じゃあセルちゃん、授業でね。シャムちゃんとリオン君とロイ君も」
「はい」
先生と姉さまの言葉の殴り合いは別に見ていて楽しくもないので、適当に中断させる。
物理的に間に入って移動を促せば流れるようにコガネ兄さんが乗ってきた。
影に入っていたらしいトマリ兄さんも腕だけ出して頭を撫でて行ったし、毎年ここでやり合ってるんだろうなぁ……
ため息を吐きつつヴィレイ先生を見ると、そっと目線を外された。
この件について触れるのは、姉さまが帰った後にするべきなんだろうなぁ。




