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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
24/477

24,文具店ではしゃぐ乙女心

 カラン、と扉に着いた鐘が鳴り、私と一緒に入ってきた風が天井からぶら下がる飾りを揺らした。

 窓から入る光とそれを受けてキラキラと輝き光を拡大する天井の装飾が店の中を照らしている。

 ほああ、と気の抜けた声が隣から聞こえてきて、思わず笑ってしまった。


 店の中を進み、レターセットの置かれた一角に向かう。

 シャムは付いてきているのか居ないのか、様々な色が混ざる天井に心を奪われているらしい。

 ちらっと振り返ると天井を見上げて固まるシャムと、その横でこちらに手を振っているロイが居た。


 ロイが見てくれているから、シャムのことは気にしなくても大丈夫だろう。

 リオンは置いてあるものに興味はさほどないようだが、この場所自体が気になるのか落ち着きなく店内を見渡していた。


「すげえな」

「綺麗だよね」

「なあ、あれなんだ?」

「んー?ああ、封蝋だよ」


 シーリングスタンプ、と別名称を持ち出すと首を傾げながら頷くという分かっているのか分かっていないのか測りかねる反応をされた。

 詳しく聞いてはこないので、納得したのだろうと決めつけてレターセットに目を戻す。


 いくつか見繕って手に取ると、目をキラキラさせたシャムが寄ってきた。

 私の持っているレターセットに目を向けて、棚に納まる大量のレターセットに目を輝かせる。


「私も一つくらい買っていこうかなー」

「手紙書く用事があるの?」

「うん、たまには村に連絡入れた方がいいかなって」


 そう言ってレターセットを眺め始めたシャムに一声かけてから、別の一角にいるロイの元へ向かう。

 何を見ているのかと思ったら、普段使いのペンを眺めていたようだ。


「買い替え?」

「うーん……まだ大丈夫だと思うんだけど、最近調子悪いことがあって」

「壊れたら困るもんね」

「そうなんだ。毎日使うしね」


 流石研究職はペンの消耗も激しいようだ。

 丈夫なものを持っていたとしても、毎日それなりの量の文字を書いているとどうしてもそれぞれの持ち方や力の入れ方の癖で壊れてしまったりする。


 私はどうにかこうにか長持ちさせる派であり、最悪どうにもならなくなったら姉兄のもとに持っていって直してもらっていたので買い換えた記憶はない。

 大体何でも直せる人が居ると、買い替えるタイミングは見失いがちだ。買い替える気もないのだけど。


 それぞれの買い物を終わらせて店を出ると、次に向かう場所の相談の時間だ。

 ざっくりと場所は決まっているが、武器を買うのにどの店がいいという話は雑談の内容になったことはない。


 私はもう道具は粗方揃っているし、研究職の二人が必要なのは武器より紙とペンだから。

 なので、向かう先は職人街と呼ばれる装備品を扱う店の多い辺り。

 店はもう野生の勘で探すことにした。


「何基準で探す?」

「兄曰く」

「お、セルちゃんのお兄さんの言葉は信用できそう」

「看板が綺麗な店はそれなりにいい店」

「なんかふわっとしてね?」

「シオンにいの言葉なんてそんなもんだよ」


 深いようで深くなく、深くないようでそれなりに深い。それが一番私の面倒を見てくれた兄の基本形である。

 と、言うかである。今の会話でふと気が付いた。


「ねえ、ちょっと気が付いたんだけどさ」

「どした?」

「今兄さん達いるんだよ。ついてきてもらおう」


 そう、詳しそうな人が丁度いるんだから付いてきてもらえばいいのだ。

 時間を確認すると、お昼を少し回るころでだった。

 この時間なら出店をどこかの隙間に収めて一人が店番、一人が買い出しに回る時間のはずだ。


 それが終われば空き時間だろうし、そもそも買い出しにそれほど時間はかからないのを知っている。

 なぜ最初から思いつかなかったのか。思わず笑いが漏れてしまった。


「頼んで大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。どうせトマリ兄さん暇してるし」


 そう言って笑えば、やはり初心者だけで行くのは不安だったのか反対意見は出て来ない。

 店を探しに大通りに戻り、適当に歩いていると見覚えのある立派な人力車を発見した。

 予想通り細い隙間に綺麗に収まって、コガネ兄さんが朝会った時と変わらず足を投げ出して座っていた。


 近付いていくと気配で気付いたのかコガネ兄さんが顔を上げる。

 そして、こてっと首を傾げた。

 美青年な今の姿でやっても何も思わない仕草だが、家に居るときに取っている美少女の姿だと姉さまが発作を起こして愛でまくる仕草である。


「どうした、セルリア。一緒に帰るか?」

「帰らないよ。あのね、武器を見に行きたいんだけど、よく分からなくて」

「……ああ、なるほどな。ちょっと待ってろ」


 とりあえず連れて帰ろうとしないでほしい。

 きっと、姉さまが寂しがっているからと言うのだろうけど。

 あまり繰り返し言われると私まで寂しくなってしまうので真剣に聞いてはいけない。


「もう少しでトマリが戻ってくるから、トマリと行くといい。誰の武器だ?」


 聞かれて、付いてきていた三人の中からリオンを引っ張り出す。

 リオンの動きが鈍いのはコガネ兄さんに見惚れているからだろうか。

 まごうことなき美形の兄なので人の動きを止めることも慣れているのだろう。


 気にも留めずに何か考え始めた兄さんは、顎に手を当ててリオンを眺めている。

 じっと見つめられているリオンが息を吸い込んだタイミングで、考えがまとまったのか口を開いた。


「リオン、だな」

「な、なんで名前……」

「セルリアが手紙に書いていたからな」

「コガネ兄さん、名前当てクイズしてたの?一人で?」

「その言い方すごく主っぽいぞ」


 それは苦言なのかお褒めの言葉なのか。

 コガネ兄さんは姉さま至上主義なので、褒められたと思うことにしておこう。多分違うだろうけど。


 なんて会話をしていたら後ろに大きな影が被さった。

 シャムが驚いて跳ねているのは申し訳ないが、見た目ほど怖い人ではないので怯えないで上げてほしい。


 見上げた先にいたのは深い紫の髪に紅い目をした目つきの悪い人。

 驚いて跳んだシャムにも、明らかに警戒の色を見せているリオンにも気を留めずに荷台に荷物を乗せているこの人が買い物に付き合ってもらおうと待っていた相手である。


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