239,帰り道まで楽しい
海は非常に静かである。波の音がとても心地いい。
ちょっと風は強いけど、この程度なら私としてはゆりかごみたいなものだ。
これがクエスト中じゃなかったら空でのんびりするんだけどなぁ。
「セルリア、何か見えた?」
「なーんにも。ものすごく静かな水面だよ」
空中でふわふわしていたらロイから確認が入った。
このままふわふわしていても進展は無さそうだし、そろそろ真面目に働こうかな。
海の上まで行く、と報告をしてからちょうど吹いて来た風に乗って海上に向かう。
「……ちょっと突っついてみてもいい?」
「いいよー」
「じゃあ行くよー」
リオンとロイ、シャムはまだ陸地に居るし、私は何かあってもある程度逃げられるからちょっと強めに叩いておこう。
風の槍かなぁ。でもあれは下に向けて撃つにはちょっとな。
まあ、普通に適当な風で叩けばいいでしょう。
そーぉれっ。適当に作った風だが、威力は結構あるし範囲は広い。
水面を叩いて驚かせるには最適な気もするからとりあえずこれでいいや。
「あ、来る」
「え、来るの?」
「多分五体。一体ずつそっちに投げるねー」
「わあセルちゃんパワフル!」
バシャンッと音を立てて空中に居る私に喰いついて来たアクレクラを避けて、最初の一匹を陸地に投げる。
風で飛ばしたからどうにかなったけど、普通に重いなこいつら。
「シャム、ちょっとだけ海凍らせといてくれる?」
「オッケー任せて」
途中で飛距離が足りなくなる気がしたのでシャムに声をかけておく。
氷の所まで飛ばせれば後は滑って行くだろうから、これでちょっと楽になる。
ちらっと陸を見るとリオンは既に次を待っているみたいだった。
早いんだからもう。一体ずつとか考えずに飛びついて来た奴からどんどん陸に投げて良さそうだな。
ちょっと高度を下げると飛びついてくるので、それを風で飛ばす。
シャムが気を使って氷を長めに作ってくれたから押したら届く感じになっている。
「……これで最後!」
「おっしゃー!」
「おつかれセルちゃん」
「海の中にももう居ない?」
「うん、魔力反応ない。でも、一応シャムにも確認してもらった方がいいかも」
「……こっちにも反応なし。おしまーい!」
言うと同時に氷を砕いたシャムと目が合ったので笑っておく。
はあ疲れた。息を吐きつつ地面に降りて、素材をはぎ取っているリオンとロイを眺める。
終わるまで私とシャムで周りの警戒、とロイから言われているので一応風は回しつつ、ちょっと休憩だ。
ふあ……と、うっかり欠伸が零れた。
目敏く見ていたリオンから寝るなよーと言われたけど、リオンより眠気に耐性あるから大丈夫だと思うなぁ。
「もうすぐ終わるから頑張ってね」
「うん。大丈夫」
ロイはなんかもうお兄ちゃんみたいな言い方になってるし。
そんなに小さい子みたいに見えるかい。これでもリオンとの勝負は勝ち越してるし私強いんだよ?
久々に一気に魔力を回したからちょっと疲れてるだけだ。
「うし、こんなもんだろ」
「じゃあ戻ろうか。そんなに急ぐ必要はないと思うけど、のんびりしてると日が暮れそうだ」
「私先行するね。セルちゃん真ん中で休んでて!」
「分かった、ありがとう」
魔力を纏って、シャムが先に歩き出した。
その後にリオンが歩いて行ったので、とりあえずその後ろについて行く。
……なんか、後ろから見守られてる感が凄いんだけど、ロイは私の事を子ども扱いしてるのかな?
まあいいか。今は日暮れ前にフォーンに戻ることを意識しておかないと。
間に合わなそうなら走るなり飛ばすなりしないとだからね。
まあ、そのあたりはロイが管理してくれてるだろうから私はそんなに考えなくてもいいかな。
「そういえば、ロイって時計持ってるの?」
「持ってる……けど、かなり古くて調子悪いんだよね。セルリアの時計は調子悪くなったりしないの?」
「時々調整してもらってるし、丈夫なんだよ。……モクランさんは、よく壊すらしいけど」
ふと気になったので聞いてみたら、ロイは懐から古びた懐中時計を取り出した。
ロイのお爺さんが使っていたものらしく、古びてはいるけど大切にされているのが分かる。
ちゃんと手入れもしてるんだろう。道具を直したりも少しなら出来るって言ってたし、自分で分解して直したりもしてるのかな。
「ガルダの時計屋さん?」
「うん。行ってみる?機会があれば」
「そうだね、行くことになったら案内してもらおうかな」
数年前にお弟子さんがお店を引き継いだけど、お店の雰囲気とかは全く変わっていないし前の店主であるお爺さんも隠居生活の暇つぶし、と言ってまだ時計作ってるんだよね。
モクランさんは時計を壊しすぎてお爺さんに怒られている、と姉さまが言っていた。
「時計の話!?私もセルちゃんの時計買ったお店行ってみたい!」
「良く聞こえたね!?」
「んな大声出さなくても聞こえるだろ」
会話が聞こえていたらしいシャムが前の方から声を張って参加してきた。
同じように声を張って答えたら間に挟まれたリオンが苦笑いしてくる。
その表情、なんかロイに似てるなぁ。
時計はまあ、そのうちガルダに行くことがあればみんなで行こうか。
来年とかね、学校外で何かすることも多いだろうからね。
杖の調整とかクリソベリルに会うとか、ガルダには他にも用事がたくさんあるから行く機会も出来やすい。
「……さて、ちょっと急ごうか」
「はーい」
「おー」
時計を確認したロイが声を張る。
それに反応して先行しているシャムが速度を上げ、それについて行く形で全体の速度が上がった。
早歩きくらいの速度だけど、なんか徐々に速度上がってない?
リオンが追い立てているのか、シャムが楽しくなってきているのか。
まあこのくらいの速度なら特に問題もなくついて行けるからいいけど。
「そんなに急がなくていいよー?」
「……聞こえてないのか、聞こえてるけど無視してるのか」
ロイの声は無視してわー!と楽しそうに進む二人を追いかける。
あれ絶対楽しくなっちゃってるやつだ。そしてリオンも乗っかっているので、これはこのまま追いかけるしかなさそうだ。




