236,魔力暴走と風の壁
普段から荒れがちではあるけれど、屋外運動場は見たことがないくらいの荒れ様だった。
見下ろしながら状況を確かめ、右側に居るカルレンス先生を見る。
……こんな状況でも何考えてるか読めないな……
「おー、すご」
「どこに降りますか」
「グラルんとこで頼んだー」
「分かりました」
降りる場所を聞いて生徒を守るように前に立っているグラル先生の横に着地すると、グラル先生と一年生たちが非常に驚いた声を上げた。
驚かせてごめんね、非常事態だから許してね。
「カル!と、セルリア!」
「グラルあれどうすん?」
「収めて封じて保健室!あとはもうノアとかアリィに丸投げする!」
「うーい、セルリアー」
「はい」
「他の一年の保護任せていいかー?」
「頑張ります」
他の子を庇っていると暴走している生徒に近付けないからグラル先生は足止めを食らっていたんだろう。
そこにカルレンス先生が来たのと、魔法に関しては割とどうにかなる私が来たから魔力暴走を止める方にも動ける、と。
まあ、無属性の魔力をひたすらに垂れ流してる感じだし、動かずに防御に徹するなら多分大丈夫。
この後が魔法授業の予定だったから魔力も全然減ってないしね。
思い切り杖を回して風を起こし、簡易的な壁を作ってから演唱に入る。
「我が魔力、我が風、満たし覆い壁とならん。許可なき者、我が壁を越えること能わず。
ヴェントブークリエ」
ガキン、と風とは思えない音を立てて展開された防御魔法に後ろの後輩がちょっとざわついた。
我が風とか言ってんのに金属みたいな音したもんね。気持ちは分かるぞ。
まあ、私の風が特別強いからってことにしておいてくれ。
なんて考えている間に先生たちは暴走してる子に向かって行ったので私は大人しく盾の維持に努めることにした。
ちょっと離れたところに居たはずのアリアナが寄ってきているのは可愛いけど、今構っている余裕はない。
「あの、セルリア先輩?」
「うん?どうしたの?」
余裕はないけど可愛いから返事はする。可愛いからね。
いつものように愛でる余裕がないだけでおしゃべりくらいなら出来る。
風の単体属性魔法なので一度張ってしまえば早々壊れはしないのだ。
「私たち、状況があまり良く分かっていないのですが……あれは、何が起こっているのですか?」
「あー……アリアナは魔力暴走見るの初めてか」
飛んできた魔力を弾き飛ばしながらちょっとだけ意識を後ろに向けると、ほとんど全員が私を見ていた。
緊張するからやめてほしい。知らないのかもしれないけど、私はあんまり目立つの得意じゃないからね?
「魔法の暴走はもう授業に出てきた?」
「はい。扱えないクラスの物を無理に扱おうとして失敗することだ、と認識しています」
「まあ大体それで合ってるよ。魔法使いは最初に教え込まれるけど、魔法って魔力を呪文で方向性決めて外に放つものなのね。その方向性の設定を間違えたまま発動するのが魔法の暴走」
「今起こっている事とは違うのですか?」
「似てはいるけど、あれは魔法の暴走じゃなくて魔力の暴走。方向性を与えることなく魔力のまま外に出てる状態だね」
まあ、分かりにくいとは思う。正直おんなじだと思っていても傍から見てる分には問題ないくらいには似たようなものだし。
でもそれに対して対処しないといけないってなるとちゃんと別物だと認識していた方がいい。
「……どの段階で暴走が始まったかの違い、ですか?」
「まあ、そういうことだね。賢い」
手が空いてたら頭とか撫でたかったけど、私今両手で杖構えてるから撫でられないんだよね。
今度飛行魔法教える時にでも撫でよう。撫でたいから撫でよう。
考えてちょっと笑いながら再び飛んできた魔力を弾く。
かなり重い魔力の塊だ。無属性だけど、地とか木とかの魔力に変質しかけてる?
……あっ。ヤバいやつだこれ。
「舞え、踊れ、我風の民なり。風の歌を歌うものなり」
「セルリア先輩?」
「風よ集え、我が身愛しと謳うなら。我が魔力は汝の風。汝の風は我の加護。集合せよ、同化せよ、守護せよ」
今度こそ、アリアナを構っている余裕がなくなった。
急激に強く大きくなった暴走魔力に魔法使いと思われる何人かが短い悲鳴を上げるのが聞こえた。
それを聞きながら魔力を一気に練り上げて魔法を展開し、広がっていた風を集めて前だけではなく全体を覆う壁を作り上げる。
「あぁクッソ、今度は爆発かよ」
魔力を巡らせる。作った壁の中を風で満たす。壊れた端から、補強する。
無属性だった魔力は地属性になった後に爆発に変化しており、先ほどまでの盾だと防ぎきれてなかっただろう広範囲で爆ぜている。
「廻れ廻れ満たせ満たせ寄り集まれ凝り固まれここを通れると思うなよ」
呪文を声に出すのは、方向性を与えやすいからだ。
つまりまあ、なんて言うかさ、別に呪文じゃなくてもいいんだよね。
もう私のこれはどっちかって言うと呪詛になりそうな感じだけど、実際めぐらせて満たして集めて固めて、は無言じゃ結構しんどい。
最後のは完全に口からまろび出た喧嘩腰だけど、まあいいよ気にすんな。
非常事態とか戦闘状態とかになると口が悪くなるのは仕方ないことなんだ。
直すことも出来ないから諦めて気にしないことにしている。普段は出てこない口調だから多めに見てほしい。
「セルリア」
「あ、ヴィレイ先生」
「よくやった。解除していいぞ」
「はい」
壁を直し続けてどのくらい経ったのか、体感では三十分くらいやっていた気もするけど、多分そんなに経っていないだろう。
現れたヴィレイ先生に声をかけられて壁を取り払い、いつの間にか居なくなっている暴走していた生徒を探して辺りを見渡す。
既に運ばれてるって感じかな?魔力が乱れて乱れて大変なことになってるなぁ。
他の一年生たちは魔力に当てられてたりもしないので、とりあえず大丈夫だろうか。
「一年生、とりあえず教室に戻って待機です!ついて来てください」
「セルリア、お前も教室に戻っていろ。他の者も教室に集める」
「分かりました」
先生に誘導されて去って行く一年生を見送って、フーっと長く息を吐く。
多分詳しい説明は後からしてもらえると思うから、私も教室に戻ってちょっと休もう。




