235,レイピアの授業
静かな教室でのんびりと準備運動を行う。
まだ授業開始まで数分あるが、周りもみんな身体を動かし始めている。
次の授業は第二選択、つまり私はレイピアの時間なので、杖は教室の端に置いてあり手元にはレイピアしかない。
「よーぉし全員居るなー?始めんぞーい」
鐘の音と共に教室に入ってきたのはレイピアの担当であるカルレンス先生。
なんていうか、不思議な感じの先生なんだよなぁ。
声の響き方とか、身のこなしとか。具体的にどこに違和感があるのかは分からないけれど、何か不思議な感じがずっとしている。
ついでに言うと性別不詳なのとか、年齢が自己申告で本当か分からないと先生たちが言っている事とかも不思議な感じに拍車をかけている。
まあ、なんであれいい先生なんだけどさ。珍しいレイピアが専門の人だし。
「んじゃ、前回の続きからなー。セルリアとメリーはちと待ってなねー」
「はい」
返事をして大人しくその場で先生を待っておく。
レイピアは選択者が少ないこともあって、第一選択である攻撃魔法よりも先生が一人一人に合った内容を組んでくれる。
魔法の方も先生が全員を見て回ってはいるけどね。
向こうは下の学年とも一緒になるからどうしても人数が増えるんだよね。
手に持ったレイピアをついうっかりいつもの癖で回しそうになりながら、のんびり関係のないことを考えて時間を潰す。
先生は先にもう一人の方に指示を出しているので私はもうちょっと待機だ。
筋トレから始めてる人が居たり的をひたすら突いている人が居たりするので、待機中に眺めていると結構楽しい。
「はい、お待たせー。セルリアはな、前から考えてたんだけどな、魔法で身体強化するのを息するみたいにやってるから、一回リングも外して素振りしてみよう」
「え、はい」
言われて、付けたままにしていたリングを外して差し出されている先生の手に乗せる。
レイピアの授業中は意識して使わないようにしてるはずなんだけどな。
そう思いながら素振りを始めたら、最初は良かったのにすぐにいつもよりレイピアが重くなってきた。
「……えっ……」
「セルリアは魔力操作得意だから無意識にやってんだろうな。今日はそれでやってみよう」
「分かりました」
ほい、と返されたリングはポケットに入れておく。
そのまま他の人の所に歩いていく先生を見送り、レイピアをクルリと回して……杖と勝手が違い過ぎて普通に落とした。
はあ……恥ずかし……うっかり怪我とかしてないのが不幸中の幸いだ。
とりあえず素振りを始めつつ、意識はいつもよりぼんやりしている魔力に向ける。
魔導器がないと魔法は使えないが、自分の体内の魔力操作事態は出来る。ただ、魔導器無しだと非常にやりにくい。
この状態での魔力操作くらいならやってもいいらしいし慣れようかなぁ。
まあ、それよりもまず筋力付けるところからだけど。
魔導器を何も持ってない状況なんてほとんどないだろうけど、非常事態への対処って考えればやって損はないだろう。
「よーし、ザウレ手合わせすんぞー」
「はーい」
教室の中央で始まった手合わせを視界に入れつつ、一度手を止めて手をプラプラする。
レイピア授業が始まってから気付いたんだけど、私は基本左手で杖を持っているので右手の握力が左手より弱い。
レイピアは右手で使うのですぐに疲れる。
やっぱり何よりも筋トレからだなぁ……
リオンにおすすめの筋トレ方法聞いておこう。
「んお?」
「どうしたんすか先生」
「なーんか、大暴れ?セルリアー、杖持っておいでー」
「え、はい」
急に動きを止めた先生がそんなことを言う。
レイピアを鞘に納めて教室の端に置いた杖に駆け寄り、持って先生の所まで戻る。
両手を頭の横でクルクル回しているのは特に意味とかない行動だと思う。
「教室の外、っつーか建物の外?なーにがあるか分かる?」
「やってみます」
杖を回して風を起こし、空いている窓から外に飛ばしていく。
すぐに屋外運動場の方にいつもは感じない魔力を感じたのでそっちに魔力を飛ばし、手元で遠視魔法を練り上げて風に乗せて屋外運動場を覗き見る。
「ど?見えた?」
「一年生……ですね、なんか慌ただしい感じです」
騒動の中央には知らない子が一人、だけど少し離れたところにアリアナが居たので一年生の実技授業のはずだ。
周りに動かない石兵が何体もいるので、最初の方によくやっていた複数人で石兵を倒す授業だと思うんだけど……それにしては妙な感じだ。
見えるものを声に出しながら観察を続ける。
なにに違和感があるのだろうかと考えていたら、人混みの中心で一人立っていた子の魔力が急に膨れ上がった。
「う、あっ」
「大丈夫?」
「……魔力暴走」
膨れ上がって暴発した魔力に押されて、遠視魔法が霧散した。
自分の意思ではなく急にかき消されたので使っていた私に衝撃が来てよろめいたけれど、身体自体はカルレンス先生が支えてくれたので倒れることはなかった。
ただ、あまりの衝撃に先生の問いに答えず起こった事を声に出して目を抑える。
見えてるしもう違和感もないので私は大丈夫だけれど、あれ、普通にヤバいよね?
というかいつの間にかみんな周りにいたんだけど。ちょっとびっくり。
「一年生が魔力暴走起こしてます」
「なーるほど。セルリアは大丈夫?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「んじゃ、増援に行こーかな。セルリアは人連れて飛べるんだよな?」
「はい」
「じゃあセルリアは一緒に行こう。他の子たちは、別んとこで授業してる先生たちに伝言頼んでいいか?一年生が屋外運動場で魔力暴走起こしてる、カルレンスは止めに行った、って言っといてくれ」
言い終わった先生こっちを見るのでレイピアはもうその場に放置して空いた右手を差し出す。
他の人たちは自分がどこに向かうか他の人に伝えながら教室から走って出て行った。
私はさっき風を飛ばしたルートで屋外運動場へ行くので、窓から外に出てから一気に加速する。
すぐに見えてきた屋外運動場はさっき魔法で見た時より荒れている。
生徒を庇うように立っているグラル先生はまだ私たちに気付いていないみたいだ。
これは中々ひどい状況だけど、怪我をしたっぽい子が居ないのでまだとりあえず安心かなぁ。どう見たって安心は出来ない絵面だけどね。
セルちゃんの選択授業は初期から決まっていたのでカルレンス先生自体はヴェローさんとかシャウラさんとかより先に出来ていたキャラでした。
やっと出て来てくれた。待ってた。




