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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
234/477

234,魔導器の先生

「シャーム。あーそぼー」

「わあセルちゃん!いいよー!」


 放課後、普段は来ない研究室の教室に顔を出した私に教室の中がちょっとだけざわついた。

 それでもシャムがこっちに駆け寄ってきたら誰も気にしなくなったのでシャムの顔の広さが伺える。

 いやー、教室に居てくれてよかった。これで覗いてみたけど居なかったってなったら心が折れてもうこっちの教室来れなくなっちゃう。


「何するの?」

「魔導器の先生に会ってみたいんだけど、どんな人なのか知らないんだよね」

「ベルベティ先生だね。私お話したことあるよー」

「流石シャム」


 多分もう研究室居るから行ってみよう!と机に荷物を回収しに行ったシャムを待っていたらロイが教室から出て行った。

 今日は研究室ではなく自室で勉強らしい。真面目だぁ……


「よし、行こう!」

「ちなみに場所は?」

「二階の中央施設寄りのところ。ちょっと広い教室だよ」

「へぇー。作業台とかの関係?」

「多分そうだと思う。ベルベティ先生は優しいお姉さんって感じ!ウラハさんよりおっとりしてるけど、ちょっと雰囲気似てるかな」


 道中でシャムが色々教えてくれたおかげで、何となくイメージが出来てきた。

 ハニーブラウンの髪と、特徴的な目の色のお姉さん。

 実家が有名な魔導器のお店で、お兄さんがお店を継いだのでベルベティ先生は教師をしている、と。


「目の色、不思議な感じなの?」

「グラデーションがかかってるんだよ、中央は金色で外側に行くにつれ銀色になってるの」

「へぇ、すごい」


 それは確かに特徴的だな。そういう人には会ったことがないかもしれない。

 髪の毛がグラデーションでオッドアイな人なら知ってるんだけどね。


 学校内でもベルベティ先生に材料と代金を渡して魔導器を作ってもらうことは出来るらしく、一人で職人街に行くのが不安な人が新しく魔法を扱いたいとなると、大体は先生の作った杖を使うことになるらしい。


 シャム的には私が今まで会ったことがないという方が不思議らしいし、皆結構気軽に尋ねる相手なんだろうな。

 ごめんね、人見知りなんだ。知ってる?まあそうだよね。


「見えて来たよ。あそこ」

「魔導器整備室」

「そう。ベルベティ先生は授業も研究室もあそこだから基本的にずっと居るよ」


 担当教科が魔導器製作と魔導器補修だから移動もない、と。

 ちなみに研究室の名前は「魔導器工房」らしい。まあ工房みたいなもんか。

 ここで実績を残すとベルベティ先生から知り合いの店へ紹介状を書いてもらえたりもするらしく、魔導器職人を目指している人たちは大体ここに所属しているんだとか。


「研究室ってそういう意味もあるんだね」

「そうだねぇ。私とかロイとかの所は研究の意味が強いけど、卒業後に関わるところも割とあるよ」


 話している間に教室の扉の前まで歩いて来ていた。

 とりあえずノックしてみて、どうぞーとゆったりした女の人の声を聞いてそっと扉を開ける。

 横でシャムが「頑張れっ」的なポーズをしてるんだけど、もしかしてこれすら出来ないと思われてた?


「こんにちは……えっと、ベルベティ先生に会いに来たんですが……」

「あらあら、あらあらまあまあ!いらっしゃい!どうぞ入って」

「私もお邪魔しまーす」

「ええ、ええ!好きな所に座っていて。お茶を淹れてくるわ」


 入口で止まっていたらシャムに背中を押されて教室の中に入れられた。

 そのまま椅子まで押されて座らされ、シャムは私の横に座った。……うん、ありがとう。一人だとどうしていいか分かんなくなるんだよね。


「はい、お待ちどうさま」

「早いですね」

「ふふっ。そういう魔法があるのよ」


 三人分のお茶を持って戻ってきたベルベティ先生はニコニコしながら向かい側に腰を下ろす。

 いい香りだなぁと思ってカップを見ていたら横から手が伸びてきてお茶菓子が置かれた。

 顔を上げるとサヴェールが立っている。


「え、サヴェール?」

「うん」

「……所属研究室、ここだったんだ」

「自分で点検と補修が出来たら楽かと思って」

「なるほど」


 じゃ、と軽く片手をあげて、サヴェールはそのまま去って行った。

 ……びっくりしたなぁ、まさか居るとは。

 まあ研究室は好きな所に所属したらいいんだから別に不思議ではないんだけど、魔導器職人目指してる人が集まってると勝手に思ってたから普通にびっくりした。


「セルリアは初めまして、シャムはお久しぶりね。グラルさんがね、声をかけておいたからそのうち来るんじゃないかって言っていて、楽しみにしていたの。来てくれて嬉しいわ」


 口元を抑えて楽しそうに笑ったベルベティ先生は、まさにお嬢さまって感じだ。

 それでも嫌な感じはしないので、嫌みかどうかは結局個人差なんだろうなぁとそんなことを思う。

 アリアナも貴族感溢れてるけど嫌な感じはしないしなぁ。


「ベルベティ先生は魔導器好きなんですか」

「ええ。ずっと見てきたものだし、作り手によって特色が出るでしょう?見ていて楽しいって言うのも大きいわ」

「セルちゃんの杖は私も気になるなぁ」

「私もずっと気になっていたの。すごい杖だわ、それ」


 二人からキラキラした目を向けられて、抱えていた杖をそっと机の上に乗せる。

 私の愛用の杖。使い始めて何年目になるだろうか。

 前の杖が壊れたのが……いつだ?五年前くらい?


「許容魔力量がかなり多いのね、ロングステッキの中でも際立ってるわ」

「セルちゃん魔力量多いもんね」

「職人さんが、下手な杖を持つと魔力量で壊す可能性があるから、ってわざわざ作ってくれたんです」


 ちなみに一本目の杖はまさに魔力量でぶっ壊している。

 長く使っている杖だったから劣化もあるのだろうけど、何より本格的に魔法を扱い始めて元々多かった魔力が鍛えられて増えて強くなった結果だろう、と三人くらいから言われた。


 そして作られたのがこの、いろんな意味で強い杖である。

 一度に流せる魔力量と内包出来る魔力量を特別増やしてあり、ついでに私が杖で殴り掛かるタイプだと知っている職人さんが物理的にも強くしてくれたロングステッキ。


 操作とか循環に関しては積み込めないから自分でやれ、と言われており、魔力操作が割と得意なのは必要だから練習した結果である。

 風ならかなり自由に動かせるからそんなに困りはしなかった。


「どこの職人さんかしら、あまり見ないタイプだわ」

「ガルダにお店があります。モクランさんの杖も作ってる人ですよ」

「え、そうなの!?」


 話は雑談に移ったりしながら、ベルベティ先生との初接触は穏やかに終わった。


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