230,ギーバの討伐
フォーンの門を出て進む先は、第六大陸と接続する関所がある方向だ。
流石にそこまではいかないけれど、直線で繋いだ半分くらいの所までは行くことになるらしい。
詳しい場所はシャムが知っているので私とリオンは周りの警戒に意識を裂いておく。
「ところでリオン、ギーバはちゃんと認識してる?」
「角ウサギだろ?」
「分かってるなら大丈夫か……」
「一応私の知ってること語っとこうか?」
まあ、リオンが選んだクエストなんだし分かっているのは当然かもしれない。
そんなことを思いながらシャムに肯定を返してちゃんとした説明を聞く事にした。
絶対シャムの方が詳しいしね。
「ギーバは角ウサギっていう愛称の通り、額に一本角があるウサギに似た下位魔獣。
見た目は確かにウサギに似てるしウサギの群れにギーバが混ざってたり、ギーバの群れにウサギが混ざってたりすることもあるらしいけどウサギとは違って肉食で好戦的。
群れが大きくなると一番体格の大きい個体がボスになって、ボスになったギーバは体毛の色が白っぽくなって魔力量も上がっていくから「ドスギーバ」って別名称になって、これは中位魔獣に格上げされる」
ふんふん、と頷きながら聞いていたらリオンがスッと手を挙げた。
こういう形式の授業なら自分から質問もするのか……
いや、違った。授業じゃなかった。移動中だった。
「ドスギーバが出来る群れの規模って分かってんのか?」
「正確な数はまだ把握されてないけど、三十以上の個体が属する群れで発生したっていう記録が残っているから基本的にはそのくらいだろうって言われてるね」
「結構多いんだな」
「それまではボスが居ない群れで過ごすの?」
「うん。群れ同士が合流して一気に数が増えるとドスギーバを発生させるじゃないかっていう意見もあるんだ」
ということは、今回のクエストは「ドスギーバが発生する前に数を減らす」というものなのだろう。
十体討伐なら数の調整としてはちょうどいいしね。
ドスギーバ発生の詳細な個体数把握とかもギルドとしてはしたいだろうけど、ここじゃあ街に近過ぎる。
「数年前の報告書でギーバの群れの中に白毛個体がいる、っていう報告を受けてドスギーバ討伐準備をして現場に向かったら白いウサギが群れに紛れてただけ、っていうの、あったよね」
「あったねー!あの報告書面白いから好き」
周りを警戒しながら聞きに徹していたロイが急にそんなことをいう。研究職組にとって報告書は読み物の一種らしい。
ギーバとウサギの関係性もよく分からないんだよね、確か。
「そのウサギ交じりの群れ、どうなったの?」
「それが、面白いことにギーバはその白いウサギがドスギーバだと思っていたらしくて、ただのウサギが群れの長になってたんだよね」
「その群れはそのウサギが寿命で亡くなるまでドスギーバが発生しなかった、っていう報告があって今でも研究のために報告書の貸し出しが途切れないらしいよ」
体格の大きい個体がドスギーバになるはずが、ウサギの体格は群れの中でも小さなほうだったらしい。それでもボスだと認識されていた、というで群れに白ウサギを混ぜてみる実験とかも行われたんだとか。
結局そちらはうまく行かず、ドスギーバは別の個体が成った。
なので今でも研究中で詳細把握は出来ていないらしい。
……面白いなぁ。私も機会があれば報告書読んでみよう。
「ミーファ混ぜたらどうなるんだろうな」
「流石に普通に襲われると思うけど」
「どうする?ミーファちゃんが全世界のギーバを纏められるくらいドスギーバとして認識されたら」
「ちょっと見てみたいけど地獄絵図でしょそれ」
話しながら歩いていたら、前方に人工物っぽい魔力を見つけた。
風を起こして空に上がり、魔力の方を観察する。
……人が居るのかな?こっちに気付いて手を振っているから、別の冒険者だろう。
「なんかあったかー?」
「他の冒険者が居た。もうちょっと進んだらすれ違うと思うよ」
地面に降りるとリオンが声をかけてきた。
普段から何かあると勝手に飛んで確認して戻ってくるからリオンは慣れているけれど、ロイとシャムは一緒にクエストに出るのは初めてだから周りを警戒している。
無駄に気を張らせちゃったな、反省反省。
まあ今後も勝手に飛んで確認してくるのはやめないだろうけど。
見つけたらすばやく確認、大事な意識だと思うのでね。
「こんにちはー」
「こんにちは」
「こんちはー」
考えている間に先ほど見つけた人とすれ違った。
装備とか荷物の感じからしてクエストを終えてフォーンに帰るところなんだろう。
軽い会釈とあいさつですれ違い、少し進んだところでシャムがもう少しだよーと声を上げた。
その声に応じて風の厚みを増していく。
迷いの森の手前、草原と小さな丘があるあたりに複数の反応を見つけたのでそれをロイに伝え、風に反応している様子を確かめながら進む。
「何体居る?」
「……六、かな」
「ロイ、近くに別の魔力もあるよ。多分鳥か何か」
「分かった。セルリア、上から確認と警戒をお願いしてもいい?」
「オッケー、逃げそうになったら足止めしとく」
リオンが剣を抜いたのを確認して、ふわりと宙に浮く。
シャムが言っていた鳥も警戒しつつ、ギーバの群れを上から観察する。
……やっぱり六体くらいだな。近くにまだ居るはずだけど、どこだろう。
考えている間に下ではリオンとロイがギーバの討伐を開始していた。
ロイもギーバくらいなら問題なく対処出来ているし、シャムが傍で二人のサポートに回っているから心配はないだろう。
私は私でこっちに飛んできた鳥と戦闘になりそうなのでそっちに意識を向ける。
なんだっけなー、この鳥。たまに迷いの森の中に居るのを見かけるから固有種な気がするんだけど、名前は憶えていない。
「ロイー、こっちもちょっと鳥を倒さないといけなくなったー」
風に声を乗せて、とりあえず緩い報告をしておく。
ちらりとロイの方を見ると右手が挙げられていた。
了解、もしくは肯定の意味。この鳥は倒して良さそうだ。
「ギギャァァ!」
「おお、元気いいな」
こちらに向かって鋭く飛んでくる鳥を避けて、ゆったりと魔力を練る。
最近私は風のほかに雷にハマっているので練り上げる魔力は雷で。
向こうも中々素早いので当てるのはちょっと苦労したが、微かにでも当たれば動きが鈍くなるので一発目が掠った後はさほど時間もかからなかった。
片手で鳥の足を纏めて持ち、ギーバの群れに意識を向ける。
隠れていた群れが移動しているのが見えたので足止めをしつつロイに報告し、あとは上で見ているだけで討伐は完了したのだった。




