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学び舎の緑風  作者: 瓶覗
226/477

226,結局攻撃が早い

 グルグルと杖を回す。

 風を起こしてうっすらと膜を作るイメージで魔力を回していたら、ヴィレイ先生の号令がかかった。

 今日急に発表された組み合わせでの複数人戦闘……うまく出来るかなぁ。


 幸いにも順番は最初の方ではなかったのでちょっとばかしの余裕はある。

 まあやるしかないよね、やるしかないから考えんのやめよう。

 どうせいつもそんなに考えてるわけでもないんだから今更だよね。


 考えながら杖をグルグルグルグルひたすら回す。

 回せば回すほど調子が出る、ってわけでもないけど、まあ準備がてら回している。

 隣ではニアとジャンも始まった試合を見ながら準備運動をしているので、止まってるのも落ち着かないしね。


「よーし、次だよ」

「おっけー、準備万端」

「とりあえず足手まといにならないようにかんばりまーす」


 グルグルと杖を回し続けてそれなりに時間が経った頃に順番が回ってきた。

 普段弓って対戦相手にしかいないから意識しておかないと。

 まあ、一つだけ言っておくべきことがあるので始まる前に言っておこう。


「二人とも、いつもの癖でうっかりぶっ飛ばしたらごめんね」

「それは本当に気を付けてほしい」

「吹き飛ばしたらその時気付いて助けてー」

「頑張る」


 直前の試合が終わったので、退場を待ってから中央の円に降りる。

 立ち位置は今回私が真ん中だ。

 ニアの方に人が行かないようにだけ注意して、後はまあ風の吹くままってね。


 始まりの合図がかかった瞬間に杖で床を叩いて一気に風を起こす。

 纏うのは最低限にして、ニアの周りにも風で壁を作っておこう。

 動き始めた相手を抑えるために杖をもうひと回し。


 場を風で満たして、全体の動きを把握する。

 とりあえず先に戦闘が始まったジャンの方に邪魔が入らないように間に割り込みに行くことにした。

 いい加減私が杖で物理攻撃してくることは皆分かってるから杖振りかぶってるだけでなんか警戒されてる感じがある。


「よいしょー」


 緩く声が漏れたけれど、振り下ろした杖から放たれる風はものすごく強い。

 ついでに氷も混ぜておいた。うっかり当たり所が悪くて場外に飛ばされてくれ頼んだ。

 そんな願いも込めたのだけれど、そう都合よくも行かないみたいだ。


 とりあえず吹き飛ばして一度状況確認のために風に意識を回す。

 ジャンはとりあえず大丈夫、ニアはそっちの援護に回ったかな?

 なら私は残り二人を足止めすればいいのね、おっけーおっけー。


 二対一だろうが風魔法は拘束と足止めに向いているのでどうにかなる。

 物理力が低かろうが魔法なのでね、そのあたりはまあ余裕ですよ。

 リオンの馬鹿力に慣れている私を舐めない方がいい。


「絡み付け、食い止めろ」


 細くひも状にした風を二本飛ばして足止めしつつ、後ろを確認する。

 ……どうにかなりそうかな?なりそうだな。ならば良し。

 というか私、攻撃魔法専攻なんだからサポートに回り続ける理由もないか。


 うっすらと風の上に乗って漂いながら魔力を練る。

 今使えるのは風くらいかな。ニアの所に纏わせている風と自分が纏っている風と相手二人を抑えている風二つ、そして場を満たしている風から情報を取っているので同時操作の許容量がいっぱいいっぱいなんだよね。


「そよ風は強風に、強風は突風に、突風は暴風に。全てを巻き込み吹き飛ばそう」


 手の上で作った小さな風を、徐々に大きく強くしていく。

 後ろの戦闘はもう終わりそうだ。その前にこの風は撃っておこう。どっちを狙うかは特に決めてなかったので動かしながら近い方を狙うことにする。


「ヴェント・ウラガーノ」


 振りかぶって右手の風を相手の方に飛ばす。

 避けようとしているけれど、場外に出ないようにこの風から逃げるのは至難の業だろう。

 そんなことを考えつつ一人を風の中に捕まえて吹き飛ばす。


 無事に退場したのを確認して、後ろの戦闘に意識を向ける。

 ……うん、二人とも無事に勝ったみたいだ。

 じゃあ、残りは一人。あとはもう数の暴力でどうにでも出来るだろうからちょっと下がろうかな?


 と、思っていたら相手が私に突っ込んできた。

 それを杖で受け流して氷でざっくり剣を作って発射したら綺麗に当たって退場した。

 うーん、とても綺麗な当たり具合でしたね。


「すごーい、こんなに綺麗に勝ったの初めてかも」

「さっすがセルリア。強いなぁ」

「お疲れさま」


 円の外に出つつゆったりと声をかける。

 とりあえず無事に終わってなによりだ。

 今日は一試合で時間が終わりになりそうなので、後の時間は見学しつつ反省会かな。


 一応流れは把握しているけど、実際聞いてみないと分からないところもあるからね。

 端に移動して既に始まっている次の試合を見つつ二人の方をチラッと見る。

 そうしたらニアとバッチリ目が合った。


「セルリアって風で情報取れるの?」

「取れるよ。ざっくりだけどね」

「すごーい。じゃあ試合の流れ全部分かってたんだ」

「ある程度ね」


 ニアも魔法に興味津々なのかもしれない。

 聞かれたことに答えていれば楽しそうな反応が返ってきた。

 ジャンも興味があるのかこっちを見ているので、まあこのまま続けていいだろう。


「もしかして私の事守ってくれてた?」

「まあ、一応。後衛だし壁は張ってたよ」

「わー、すごーい」


 話している間に試合はどんどん進んで行って、いつのまにやら授業終了の時間になっていた。

 二人とはこの場で別れて寄ってきたリオンとミーファ、そして結局寝たままだったソミュール合流する。


 ソミュールを部屋に運んで、授業の感想なんかをいいながらいつも遊んでいる林の前に移動する。

 授業が始まる前に言っていたことだけど、さほど疲れてもいないし飛ぶのは私の気分転換でもあるからね。


「よーし、飛ぶぞー!」

「飛ぶの私だけどね」

「セルちゃん疲れてたりしない?」

「大丈夫だよ。さ、飛ぼーう」


 クルリと杖を回して風を纏い、まずは一人で空に上がる。

 風はほとんどなし、快晴、飛ぶにはいい条件だ。

 さて、まずはリオンかな。ミーファは大人しく待っていられるけれど、リオンは待たせると騒ぐからね。なんて思いつつ既に大剣を降ろして準備万端のリオンを連れて空に上がるのだった。


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