225,新しい面倒な授業
ノートにペンを走らせる。
教室の中は先生の声とメモを取る音だけで満ちていた。
中々に心地のいい時間だ。心地よすぎて寝てる人もいる。
「ここまでで質問ある人。いなければ次のページに行きます」
今の授業は今年の選択授業の一つ、魔法歴史。
受けたくて去年駄々こねてみたけど綺麗に流された授業だ。
今年受けれるからあんなに綺麗に受け流されたんだなぁと妙に納得した。
基本的にやりたいやりたい言ってれば先生がちょっと教えてくれたりするからね。
来年の授業を教えるわけにもいかなかったのかな。
まあなんであれ今受けられているからいいか。
「はい、では次のページ」
先生の声に応じて教科書のページを捲る。
その後もメモを取りつつ先生の話を聞いていたらいつの間にか時間が経っていたようで授業終了の鐘が鳴った。
楽しいから時間が経つのが早いなぁ。
荷物を持って、教室を出る前に枕を抱えてすやすやと寝ているソミュールを回収する。
この前の授業ではどうにか起きていたのだけれど、この教室に移動して授業開始を待っている間に眠っていた。
「ソミュールー。起きれるー?」
「……んぅ……」
「駄目か、そっか」
よく分からないけど駄目らしいので風で浮かせて運ぶ事にした。
浮かせたソミュールを押していく運搬方法だ。
ちょっと制御がしにくいのが難点だけど、動かせるから問題ない。
「あ、セルちゃん。お疲れさま」
「おーっすセル」
「お疲れ二人とも」
「ソミュちゃんは寝ちゃった?」
「うん」
話しながら次の授業に向かう。
次で今日の日程は最後なので話す内容は授業よりも放課後何をするかになっている。
入学式から既に一週間ほどが経っているので新入生の研究所所属等も大体終わって校内も落ち着いて来た。
「セルー、空飛びてぇ空」
「好きだねぇ。いいよー」
「わ、私も」
「いいよー」
私も今日はいい天気だから飛んだら気持ちがいいだろうなぁと思っていたし。
人と一緒に飛ぶのもひとりで飛ぶのも学校内での高度と速度なら別に大した差はないからね。
話しながら廊下を進んで屋内運動場に入る。
ソミュールを端に寝かせてその傍で準備運動を始める。
リオンとミーファも身体を動かし始めたので時間を見つつそのまま続け、鐘が鳴って先生が入ってきたので一旦終わりにする。
「始めるぞ。全員前に集まれ」
ヴィレイ先生とトープ先生が揃ってきているってことは何かまたちょっと面倒な授業が始まりそうだなぁ。
個人より複数人の方が気楽だから出来ればそっちがいいな。
「今日は普段と別の組み合わせでの手合わせをする。組み合わせはこちらで事前に決めてある」
それは予想外だった。思わず気の抜けた声も漏れた。
ちょっとやだなぁ。これなら一人の方がよかったなぁ。
そんな心の声が聞こえているのか予想していたのかヴィレイ先生と目が合ってちょっと睨まれた。
声に出して文句は言ってないから許してくださいよ。
私以外にもちょっと睨まれている人がいるから、嫌がりそうな生徒は先に把握されているんだろう。
でもわざわざ睨まなくてもいいじゃないですか、怖い怖い。
「文句は聞かん。発表するので聞き逃さないように」
言い切って手元の紙に目を落としたヴィレイ先生にトープ先生がちょっと笑っている。
とりあえず自分の分だけ聞き逃さないようにしないと。
ミーファが私にくっ付いてくるのが可愛いので頭を撫でつつ発表を聞く。
「次。セルリア、ニア、ジャン」
先に呼ばれた人たちが呼ばれた順に移動して合流しているので、それに倣って私も移動することにした。ニアとジャンかぁ……話したことないんだよなぁ。
個人戦でもそんなに戦った記憶はないのでメインの武器すらちょっと曖昧なくらいだ。
申し訳ないけどまずはそのあたりの確認からかな。
そんなに奇抜な武器を使ってないことだけは分かる。
「やっほー、よろしくセルリア」
「うん、よろしく」
「どうするー?ささっと自己紹介くらいしとく?」
ニアは低い位置の二つ結びを輪っか状にしているのが特徴だ。
あとちょっと制服のサイズが大きい。ソミュールもちょっと大きめのを着てるけど、それよりぶかぶかな感じ。シャツのサイズだけはちゃんと合ってるのかな?
「はーい、私ニア。武器は弓。サブ選択は体術」
「俺はジャン。武器は長剣で二個目の選択は短剣」
「セルリア。攻撃魔法メイン。二つ目はレイピア……だけど、二つ目って始まったばっかりだしあんまり関係なくない?」
「そだねー」
釣られて言ってしまったけど、まだ三回くらいしか授業してないからそもそもやっている人以外は関係ないだろう。
まあ、選ぶ程度には出来るってこと、かな?私別にレイピアまだ使えないしなんなら今日持ってきてもいないけども。
「急に部隊変更とか困るよねぇ」
「本当にね。びっくりだよ」
「原因の一つはセルリア達だと思うなぁ?」
「え?なんで?」
「君ら三人強すぎて勝てないからなー。戦力偏ってるから無理矢理平等にしたんでしょ」
……確かに偏りはあるかな。チーム戦してる時って私は二人を風で運んでるだけで終わるからなぁ。
抑えてるだけで二人がどうにかしてくれる。
攻撃魔法で選択取ってるのに攻撃してねぇやってことが結構ある。
二人とも強いからねぇ、仕方ないねぇ。
なんて思いつつ一人頷いていたら、とりあえず作戦会議でもしとこうかという話になった。
お互いの動き方もちゃんと把握は出来てないから、作戦会議って言っても出来ることの確認くらいしかすることないけどね。
話している間に他の組み合わせも発表が終わったみたいだ。
ソミュールは……起きなかったかな?今日は午前中起きてたし仕方ないだろう。
対戦前に作戦会議とお互いの動きの確認をする時間が設けられていたので、まずは魔力相性から確かめることにした。




