223,今年最初の授業
部屋の明かりが点いたのを感じて、ぼんやりと目を開ける。
時計を確認して体を起こし、顔を洗って着替えて髪を結んで、杖を持って食堂に向かう。
今日から通常通りの授業が始まるので足取りも軽い。
ご機嫌で杖を揺らしながら食堂に入り、適当に朝食を選んで席に座る。
新入生かなーって感じの子たちもちらほら見えるけれど、ずっと座っているこの席のあたりにはちょっと人が少ない。
「おはようセルリア」
「ん、ロイ。おはよう」
ちょっと周りを見渡しながらパンを千切っていたら向かい側にロイがやってきた。
ロイは前よりちょっと食べる量が増えたような気がする。
片手剣のあれこれで運動量が増えたからだろうか。
「そっちは何から始まるの?」
「鑑定。戦闘職は?」
「基礎体力」
「朝から走り込みかぁ……大変そうだね」
「慣れればそうでもないよ。朝ごはん食べ損ねると後が辛そうだけど」
話しながら朝食を食べ進めているとお茶だけを持ったシャムもやってきて、眠そうに横に座る。
眠そうにお茶を飲んでいるシャムを眺めつつ朝食を食べきり、残りの時間でのんびりお茶を飲んでいたらリオンが来た。
「おっ。おはようリオン」
「おーっす」
「今日は起きれたんだね」
「流石に食わねえとな。正直二度寝しそうだった」
この時間からその量を持ってきて間に合うのかと今でも思うけど、間に合うんだよなぁ。
もっとゆっくり食べる方がいいんだろうけど食べないよりはいいのかな?
まあ、何でもいいか。とりあえず時間だけ知らせておこう。
「ちなみに後十分ね」
「おう」
「僕たちは先に行こうかな」
「うん、またお昼に」
去って行く二人に手を振って、時計を片手にリオンを眺める。
もはや丸飲みの速さだよね。胃の負担凄そう。
なんて考えていたらリオンが急にこっちを見た。
「なにー?」
「今日って外だよな?」
「外だよ。……聞いてたよね?」
「聞いてた、聞いてた」
一応の確認にしてもそんな露骨な目の逸らし方したら聞いてなかったみたいだよ。
ため息を吐いている間にリオンは朝食を食べきっていて、ちょうど終わりの時間になったので食器を片付けて屋外運動場に向かう。
途中でソミュールを引き摺っているミーファを見つけたので移動を手伝い、何故かすでに立っていたグラル先生の傍にソミュールを寝かせる。
なんだかんだここが一番安全だよね。ところで普段は鐘の音と同時くらいに現れる先生がなんで既に居るんだろうか。
「せんせー今日早くね?」
「最初だし皆の顔を見ておこうかと思って。お前ら元気そうだなー」
グラル先生は休み前よりちょっと髪が短くなった気がする。切ったのかな?
まあ元々短髪だしそんなに違いはないと思うけど。
そんなことを考えていたらグラル先生がそういえば、と声を上げた。
「セルリアってベルに会ったことある?」
「ベル?」
「ベルベティ。魔導器系の教師なんだけど」
「会ったことはないですね」
なんなら名前も今初めて聞いた。研究職の先生は知らない人もまだまだ居るなぁ。
魔導器の先生ってことは知り合ってれば今後お世話になれるかもしれないけど。
「セルリアの杖にも興味津々だったから暇な時にでも会いに行ってみるといいよ」
「どこに居んだ?」
「放課後は大体遊び場に居ると思うぞー。場所は魔導器整備室」
「どこですかそれ」
「研究職の方の二階。まあ詳しい場所はシャムにでも聞きな」
呼ばれているわけでもないので本当に暇な時に行けばいい感じかな。
もう少しして新入生のあれこれが落ち着いたころにでもシャムを誘って行ってみよう。
まだもうしばらくは皆忙しそうだからね。私はのんびり読書に勤しむ予定だけど。
いつぐらいがいいかなぁと考えていたら鐘が鳴って、今年最初の授業が始まった。
今日は流石にみんな起きてきてるみたいだ。
私も今日ばかりはリオンが起きてこなかったら叩き起こしに行こうと思っていたし。
「じゃあ準備体操してから早速走り込むぞー。魔法使い組杖置きなー」
スヤスヤ寝ているソミュールの横に杖を置き、何となく肩を回しながらリオンの横に戻る。
ミーファも居るけど、授業の大半は話す余裕なんてないので何となく近くにいるだけ、なんだよね。
それでも何となくおんなじところに集まりがちだ。
特別理由はないんだけどね。なんて考えながら準備体操をして先生の合図で走り出す。
とにかく止まらずに走るだけだから難しいことはない。
ただ、誰かと話す余裕もないので一人黙々と走るという人によっては非常に苦痛な授業だ。
私は別に苦手でもないので昔お兄ちゃん達とひたすら追いかけっこしてたこともあったなぁなんて思いながらのんびり走っている。
正直持久走より速度計測の方が苦手なんだよね。
普段は風で速度上げてるからなんか微妙に遅いんだよなぁ……
ちなみにクラス最速はミーファだったりする。とても速い。
リオンも割と早いんだよなぁ。筋力お化けは脚力もあるんだなぁと思った記憶がある。
「……ん?」
「どしたー?」
「なんか風に氷が混じってる。他の授業かな?」
「ノア先生が何かしてるのかな……?」
確かにノア先生っぽい魔力だなぁ。最初の授業だからってまた何か氷柱でも作り上げてるのかもしれない。
嫌な感じがするわけでもないし、これは無視でいいだろう。
一言二言喋ったくらいでは怒られないけれどあんまり長々喋ってると怒られるし、後でノア先生に何をしていたのか聞けばいいか。
今日ちょうど攻撃魔法の授業あるしね。休みの間にちょっとだけ威力の上がった風の槍の報告もしないといけないし。
「……氷、飛んできてる?」
「飛んできてるねぇ」
「あれ大丈夫か?」
「避けながら走る授業になってない?」
ノア先生相当テンション上がってそうだなぁ。
グラル先生がどこかへ走って行ったからすぐに止まりそうだけど、それまで飛んでくる氷を避けながら走らないといけなさそうだ。




